第28話 主人公の裏側で(武部side、三人称)
二人は、どんな関係? そう聞かれても、すぐには答えられなかった。「学校の級友」とも言えるし、「秘密を共有し合う仲」とも言える。二人自身がどう思っているかは別にして、それが二人に重なる運命だった。二人はそんな運命に困って、互いの顔を突き合せた。「まったく、余計な事をしてくれたよ。あんなに堂々と書くなんてさ? 普通の頭じゃ考えられないよ」
そう苛立つ内村に少年も、
内村は、その情報にうつむいた。「そんな事だろう」と思ったが、実際に聞かされるのは辛い。喫茶店の空気を吸っても、しばらくは「ううん」と唸りつづけてしまった。内村は自分のチュ子レートケーキにフォークを刺して、その端っこを少しだけ切った。
「あの子は、あっちの人間だろう? あっちの人間が、こっちの人間に恋しちゃ。ううん、色々と不味い。俺も黒板の文字を見た時は正直、焦ったからな? 『コイツは、ヤバイ事になるんじゃないか?』って。滅茶苦茶、怖くなったよ。武部達には……まあ、それなりに誤魔化したけどさ? それでも」
「分かっている」と、亮。「次は、ダメかも知れない。あの三人は、意外と賢いからさ。『平行世界』の事を話してもきっと、すぐに信じてくれるだろう。僕と彼女の関係さえ話せば」
そう、きっと驚く。自分も「それ」を聞いた時には驚いたし、常識人らしい彼等ならほぼ驚くに間違いなかった。二人は今の状況に頭を抱えたが、そこに現れた少年が「それでも、仕方ないよ?」と笑った事で、この問題を少しだけ忘れた。「仕方ないって? それよりも」
どうして、遅れたのか? その理由は至って、単純だった。友人から教室の掃除を「代わってくれ」と頼まれたらしい。本人は「今日は、予定がある」と断ったらしいが、相手は「緊急の用事ができた」と言って、それをどうしても押し通してしまった。
彼はその押しに負けて、友人の代わりに嫌な掃除を終わらせた。「本当に最悪だよ。アイツには今度、何か奢って貰わないとね?」
二人は、その愚痴に苦笑した。元から真面目な性格の彼だが、そこまで行くと笑える。将来、何かの災いを肩代わりするかも知れない。彼自身がそんな事を請け負う事はないだろうが、今の表情から察する限り、「それも充分にありえる」と思った。
二人は残りの空席に彼を座らせて、彼に「好きな物を頼めよ?」と言った。「今日は、俺が奢ってやるからさ? ここにお前を呼んだのも俺達だし? 真面目な清掃員には、給料をちゃんと払わないとね?」
そう笑う内村に神楽も「うん、うん」とうなずいた。神楽は彼が自分の隣に座ったところで、彼に話の進捗具合を話した。「そんなわけだよ。あの子はガチで、武部に惚れている。僕としては、あまり気が乗らないけれど。住んでいる場所が、違う以上は」
そう、諦めた方が良い。それは少年も同意見だが、彼女の気持ちを思うと、なかなかすぐにうなずけなかった。少年は自分の頼んだレモンティーを飲んで、二人の顔をぐるりと見わたした。「入れ替わりの事はまだ、知られてないよね?」
神楽は、その答えに言いよどんだ。恐らくは知られていないだろうが、それでも一抹の不安がある。あの落書きに「え?」と驚いていた結は、それに何かの違和感を覚えているようだった。神楽はその態度がどうしても気になって、自分の頭を何度も掻いてしまった。「
そう聞かれた少年も「ううん」と唸った。神楽ほどではないにしろ、彼も彼で思うところがあるらしい。最初は神楽の不安を見ているだけだったが、やがて彼に「アイツは、無関係だよ」と返した。
「美少女二人に言い寄られている、ただのモテ男だ。漫画とかにある、ラブコメの主人公。アイツは『鈍感系』ではないけれど、それに近いキャラクターってだけだ」
神楽は「それ」に首を傾げたが、内村の方は「そうとも限らない」と言った。内村は数回ほどしか話していない同級生に対して、ある種の不安感を覚えた。
「『そうだ』としても、やっぱり不安だね。アイツにはたぶん、主人公の素質がある。物語の軸になるよな、そんな雰囲気が感じられるんだ。アイツがどんな人間であれ、その……」
天城は、その言葉に眉を寄せた。彼も彼で、今の言葉に危機感を覚えたらしい。目の前の同級生ほどではないが、その気配に恐怖を覚えてしまった。天城は自分のレモンティーを啜って、その余韻をじっくりと楽しんだ。
「とにかく、不安がっても仕方ない。素人の俺等が動いても、事態が悪くなるだけだからな? 餅は、餅屋に頼んだ方が良い。時空の歪みは、アイツ等も知っているんだろう? 平行世界の調整を行っている。今回の事が起きたのは、アイツ等の世界に異変が起きているからだ」
残りの二人は、その言葉にうつむいた。自分達の横にある、その壮大な問題に。彼等は平和な世界で、不安な世界を思いつづけた。
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