第10話 相思相愛(川崎side)

 ダブルデートしよう。そんな私の提案は、早見君にも大ウケだった。彼は私の提案に喜び、大上君も同じようにうなずいた。二人はそれぞれに面識もあったお陰で、互いの健闘を称え合ったし、問題の角川さんも(かなり驚いていたが)「分かったわ」と微笑んでくれた。


 私はみんなの反応が嬉しくて、大上君といつもの喫茶店に行った時も、穏やかな気持ちでデートの計画を考えられた。「まさかの急展開だけど。まあいいか、みんなも喜んでくれたし。私も」

 

 嬉しいよ。そう呟いた瞬間にアルバイトの人(私や大上君と同じくらいの男子高校生)が、二人分の珈琲を持ってきた。私は彼にお礼を言って、自分の珈琲を飲んだ。「美味しい」

 

 大上君も、それに「本当だ」とうなずいた。大上君はブラックが好きだが、今回は私に合わせてカフェオレを頼んだようである。「カフェオレは、そんなに好きじゃないけど。これは、飲める。ケーキの味も、殺さない」

 

 私は、その返事が嬉しかった。返事の内容はもちろんだが、こんなに喜んだ彼を見た事がなかったからである。私は彼と同じ瞬間、彼と同じ時宜に自分のカフェオレを飲んだり、ケーキの端を食べたりした。「ダブルデートも、楽しそうだからね? 本当にワクワクしてきたよ。こんな事は、本当に初めてだし?」


 彼も、それに「そうだな」と笑った。彼は自分のカフェオレを飲むと、今度はケーキの大半を平らげて、皿の上にフォークを戻した。「俺も、こう言うのは初めてだが。結構、悪くない。今までは、お前と二人きりだったからな? それが『嫌』って言うわけじゃないけど。大勢って程でもないが、他人と遊ぶのも楽しいかも知れない」

 

 私も、その考えにうなずいた。確かにそうかも知れない。彼以外の人も含めて遊ぶのは、これが初めての事だった。私は初めての体験にドギマギして、日曜日の事をさっそく考えはじめた。「水族館、かぁ。うん、初めてのデートには良いかもね? 二人で色々な物が見られるし、周りの環境も悪くない。服屋とか遊園地は、二回目以降のデートかな?」

 

 大上君は、その意見に微笑んだ。でも、すぐに「でも」と言いはじめた。大上君は日曜日のダブルデート、特に「早見君」と「角川さん」の事を思って、その二人に「それにしても」と唸った。


 「その二人がまさか、両思いだったなんて。本当に驚きだな。早見の事は……まあ、ああ言う感じだし? クラスの奴等から話は、聞いていたけど。角川の方は、『いかにもボス』って感じなのに。同じクラスの中心でも、『その立ち位置は、真逆』と思ったが。『人の好み』って言うのは、意外と分からないもんだね?」

 

 私は、その返事に戸惑った。確かにそうかも知れないが、でも好きな事に変わりはない。華やかお嬢様と陽キャ男子の組み合わせは、「なかなかに王道だ」と思った。女性向けの創作物ではたぶん、主人公の親友ポジションである。彼女の危機に走ってくれそうな、そんな感じのポジションだった。私は二人の姿を思いうかべて、それに「クスッ」と微笑んだ。「楽しくなりそうだね?」

 

 大上君は「それ」に驚いたが、やがて「フッ」と笑いだした。不意にできた仲間だが、彼もやはり嬉しいらしい。普段は黙々と食べるケーキを、今日は美味しそうに食べていた。彼は残りのケーキを飲みこんで、カフェオレも一気に飲みほした。


「その二人ならたぶん、大丈夫だろうが。問題は、クラスの連中だね。そいつ等が『付き合う』となれば、それに不満を抱く奴も居るだろう。『あの早見に彼女ができた』となれば、それに騒ぐ奴も居る筈だ。場合によっては、二人に……特に角川さんの方に文句を言う奴がでてくるかも知れない。『女子の集団』って言うのは、男子よりも怖いからな? 昨日の仲間が、今日の敵になるかも知れない」


 私は、その考えに唸った。言われてみれば、そうかも知れない。クラスでも中心的な二人だが、そう言う部分は意外と厳しいかも知れなかった。みんなの共有物を独り占めするのは、どんな世界でも嫌われる。最悪は、「実害が出るかも」と思った。


 私は「それ」が怖くて、大上君にも「二人の事は、私達だけの秘密にしようか?」と言った。「付き合っていない私達ですら、ああ言う目に遭ったのに。実際に付き合う二人は、もっと」

 

 危ない。そう思った私だったが、それもすぐに消えてしまった。私はみんなの反応、特に二人の事が知られた時も、私達の関係も含めて、その光景に「うそだぁ」と驚いてしまった。「嫌じゃないの?」

 

 みんなは、その質問に首を振った。「嫌じゃないよ?」の意味も込めて、それに「クスッ」と笑ったのである。みんなは「何を今さら?」と言う顔で、二人の事はもちろん、私や大上君の事も「ニヤニヤ」と笑った。


「とっくの昔に気づいていたしね? 大上君の事は正直、悔しいけど。あんなに仲よくしていたら、誰だって『仕方ない』と思うよ。『二人の間に入る余地なし』って。あたし等は、女のドロドロが好きじゃないからさ? それよりも!」


 早見君と角川さんが付き合う事になって、本当に嬉しい。彼女達はそう、私に微笑んだ。「これで、日々の恐怖が消える」と言わんばかりに。「角川さん……悪い子じゃないけど、アレは流石に怖かったからね? 『アタシの獲物に近づくな』って言うか? 『乙女の怪物、全壊』って言う風に。あたし等も、すごく怖かったよ」


 私は、その言葉に苦笑した。「女子の一軍」と言われる彼女達にも、そう言う怖い物があるらしい。「早見君」が盗られたのは悔しいかも知れないが、それでも「良かった」と思っていた。私はそんな気持ちを推して、彼女達に「あの二人はたぶん、大丈夫だよ」と言った。「相思相愛だからね? 日曜日のデートも」


 まあ、良かったよ。私が思う限り、「これは、長続きする」と思った。あのダブルデートを思いだす限り。私は憂鬱な月曜日にあって、幸福な日曜日を思いかえした。

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