第6話 恋のライバル?(川崎side)
格好いい男子は、好きだ。その外見だけではなく、内面の方も。「内」と「外」が格好いい男子は、ずっと前から好きだった。私の幼馴染みがそうであるように。彼の事もまた、決して嫌いではなかったのである。
だが、その立場が悪かった。彼個人には問題がなくても、それを取りまく世界が苦手だった。女子達から向けられる視線が、特に嫉妬の視線が、この上もなく苦手だったのである。
私は「それ」から逃げたくて、学校では地味な(ごめんなさない)グループに属していたが……。彼としては、それが不満だったらしい。私の態度を否める事はなかったが、私が教室の中に入ってくると、朝の挨拶も兼ねて、私に「おはよう!」と話しかけてきた。
私は、その返事に困った。普通に返せば、「調子に乗るな」と思われるし。素っ気なくても、「調子に乗るな」と思われる。正に八方塞がりだった。私が属しているグループの女子達は、私の状況を分かってくれているようだけど。女子達のリーダー的存在である角川さんだけは、その状況が嫌なようだった。
私に対していつも、高圧な態度を見せる。少女漫画のような意地悪こそしないが、私が自分とすれ違う時には舌打ちを、早見君と話している時にも「くっ」と睨んできた。今もまた、私の事を睨んでいるし。彼女は早見君へ好意を隠そうともせず、私に対する嫉妬心を見せて、自分の方に早見君を振り向かせようとしていた。
私は、それが嫌だった、心の底から「嫌」とは思わないが、それでも「苦手だ」とは思った。彼への好意があるなら、私など無視して、彼に想いを伝えればいいのに。彼女は同性の私が見ても、申し分のない美少女だった。自他共に認める美少女。今どき珍しい名家のお嬢様だったのである。名家のお嬢様がこんな、芋娘に構っている場合ではない。「それを」
何だかなぁ。彼女は強そうな見た目に反して、意外と臆病な性格らしい。早見君が私を見ている時以外は私の事も睨まないし、それどころか私の事を気遣ったりした。彼女は早見君が私との会話を止めると、嬉しそうな顔で友達との会話に戻った
が……。早見君が「それ」を阻んでしまった。早見君から「今日の放課後、カラオケ行かない?」と誘われる、私。それに「はあああ?」と驚く、彼女。彼女は私と早見君の顔を見て、あの恐ろしい表情を浮かべた。見るのも恐ろしい、般若のような顔を。「早見君!」
早見君は、その声に驚いた。普段は私よりも彼女と話す事が多い彼だが、そんな声は初めて聞くらしい。彼女が自分の前に詰めよった時も、その迫力に「え? え?」と驚いていた。早見君は不思議そうな顔で、彼女の顔を見かえした。「ど、どうしたん?」
角川さんは、その返事に言いよどんだ。端から見れば、その理由も分かるけれど。肝心の早見君は、分かっていない。彼女から「あのね?」と言われた時も、それにまた「どうしたん?」と返していた。角川さんは「それ」を無視して、相手の目を見かえした。「あたしも、一緒に行く!」
取り巻きの女子達も、その声につづいた。ボスである彼女がそう言っている以上、彼女達もそれについて行かざるを得ない。角川さんが女子達に「え?」と驚いた時も、それに「あたし等も、カラオケに行きたいからさ?」と言った。
女子達は彼女の近くに寄って、その耳元に囁きはじめた。「アンタだけじゃ、怪しまれるでしょう? 川崎さんも、行きそうなのに? あたし等も付いていった方が、色々と自然じゃん?」
角川さんは、その案に眉を寄せた。私の名前が出たのは不本意だが、「それは、そうかも」と思ったらしい。彼女は私の顔をチラリと見て、早見君の顔にまた視線を戻した。「お願い。あたし等も今日、暇なんだ。たまには、早見君と」
早見君は「それ」に困ったが、やがて「いいよ」と微笑んだ。思わぬメンバーの増加に喜んでいるらしい。彼は彼女のグループを見わたすと、今度は私の方に近づいて、私に(正確には、私のグループも含めて)「川崎さん達も、行くべ?」と言った。「こう言うのは、大勢の方が楽しいからさ? クラスの男子連中も誘うし? ね?」
私はまた、その返事に迷った。大上君との約束はあるが、「ここはクラスのイベントを取った方がいいかも」と思ったからである。この誘いを断れば、(下手すると)ボッチになるかも知れない。そうなれば、色々と大変な事になる。私自身は特に思わないが、そう言うのに敏感な人も居るのだ。独り者には、厳しくしようとする人が居るのである。
私は「それ」が怖くて、彼の誘いに「行くよ」と言った。それに加えて、自分のグループにも「行こう?」と促した。私はみんなの了解を得た上で、早見君にまた「行くよ」と返した。「久しぶりに歌いたいし?」
早見君は、その返事に喜んだ。角川さんの方は、不機嫌だったけど。残りの面々は私達と同じ顔だった。早見君は右手の指を鳴らして、クラスの男子達を誘いはじめた。「なぁ? なぁ? 今日の放課後、大丈夫?」
男子達は、その質問に「大丈夫」と応えた。いつもは彼のように騒いでいる彼等だが、「女子達と一緒に歌える」と聞いて、そのテンションが上がっているらしい。普段はあまり喋らない男子ですら、この時ばかりは「早見、グッジョブ!」と言う顔をしていた。
男子達は嬉しそうな顔で、「今日の放課後は、何を歌おうか?」と話しはじめた。それを見ていた女子達も、まんざらでもない顔を浮かべている。彼等は高校生らしい青春を感じていたが、私だけは「それ」に「参ったな」と思っていた。
私は、大上君のスマホに○INEを送った。「ごめんね。今日は用事ができたから、一緒に帰れない」と。
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