第141話
『ダンジョン』否定派の、市民団体とのいざこざに巻き込ませないために新規開店のレストランの情報を言い淀んでいたが、最終的には俺に説明してくれた。
まぁ、俺も『ダンジョン』とは深い関りがあるため、そういった市民団体と関係を完全に断ち切るという事は不可能であり、彼からすれば自分たちと似たような悩みを持つ同志のような物だと判断し話してくれたのかもしれない。
「少し前からこの計画自体は進行していましたが、やはり市民団体からの妨害がある可能性があったのであまり大っぴらにはすることが出来ませんでした。ですが、少し前から風向きが変わってきましてね」
「何があったのですか?」
「檀上さんとも深い関係があります…と言うより、当事者と言うほうが正しいかもしれませんね」
俺が関係していること?『ダンジョン』の地位向上に向けて何かしらの行動を起こした記憶はないのだが…
「難易度の低い『ダンジョン』を一般に公開することで『ダンジョン』に対する敷居がぐっと低くなったこと。そして、エルフやドワーフの方々との邂逅です。最近では眉目秀麗なエルフが表舞台で活躍するようになり、間接的にではありますが一般の方々の『ダンジョン』に対する心象がかなり良くなってきていますね」
確かに、エルフやドワーフは俺の『ダンジョン』が繋がった異世界からやってきた異種族だ。『ダンジョン』否定派も、『ダンジョン』によって繋がった世界の住民との交流によって相対的に『ダンジョン』に対する忌避感が減り、心象が良くなったと言う事か。
「元々檀上さんのことも存じ上げておりましたし、こうしてお話しできる機会に恵まれて本当に良かったと思います。今後ともよりよい関係を続けていきたいものですね」
そろそろ前線基地に到着する頃だと運転手さんに言われ、車から降りる準備を進める。と言っても大きな荷物は『収納』の中にすべて入れているので、寝息を立てているハヤトを起こしただけなのだが。
「それでは檀上さん。また機会があれば、ぜひ」
「はい、ありがとうございました」
そう言って、俺を下ろした車は前線基地の司令部的な施設に向けて移動を開始した。そこでは『新天地』のモンスター素材の買取りの商談などをはじめ様々な交渉が行われており、高そうな車が何台もその場所に向けて走っている姿を見たことがある。
その後仮設住宅に向かう道中、見知った人とすれ違うたびに「かわいい子を連れていますね」なんて言われる。自分のことを褒める言葉にはかなり敏感なのだろう、その度にハヤトがドヤ顔を見せた。
「やっぱうちの子は最高だ!」なんて親馬鹿なような事考えつつ自室へとたどり着き、今回新しく買った自分用のゲームソフトやら漫画雑誌をカラーボックスに仕舞い、買い出しを頼まれていた人に商品をお届けするため再び部屋を出た。
ほとんどの人は自室か娯楽室で余暇を楽しんでいたが、中には休日返上で『新天地』に出稼ぎ?に行っている人もいる。そんな人は住宅の前に商品を置き、後日代金を請求することにした。
一仕事終えた俺は『協会』の職員さん達の詰所に行き、ハヤトを前線基地に連れてきたことを報告する。もちろん事前に許可を得ているので、ハヤトの顔合わせも含めて改めて報告に行ったというわけだ。
「これからは、ハヤトもここで生活することになります。よろしくお願いします」
今日は休日と言う事もありこの詰所にいる職員の数はいつもよりちょっと少ないが、挨拶だけはちゃんとしておく。
「ええ、こちらこそ。それにしても黒柴ですか…実家の犬を思い出しますね」
そう言って屈みこみ、ハヤトの背中を撫でる犬飼さん。撫で方が上手いのか、ハヤトも満足そうな表情を見せていた。ちょっとジェラシー。
「ご実家で犬を飼われているのですか?」
「ええ、柴犬を。実家にいるのは赤柴ですがね」
日中俺は『新天地』で活動することになるから、前線基地に常駐する職員さんの中に犬に詳しい人がいて良かったと思った。
何もないとは思うが「俺がいない間ハヤトのことを気にかけてもらえませんか?」とお願いすると、「喜んで協力させてもらいます」とありがたい返事をもらった。やはり犬好きに悪い人はいな、と思った。
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