第137話

 前線基地には物資を運んで来るトラックが頻繁に来ており、帰りの道中は、その助手席に乗せてもらうことにが出来た。トラックの運ちゃんも「いい話し相手が出来た」と言っており、道中は運ちゃんが喋りっぱなしであり、俺も終始かなり圧倒されてしまった。


 彼が言うには、彼はこの辺りに住む地元の人間であり、この『ダンジョン』にも子供連れで何度も足を運んでいるのとのことだ。そこで子供の『格』を上げさせたことが要因か、少し虚弱体質だった子が今では元気いっぱいで跳ね回っているのだとか。


 ほほえましく思う一方、しきりに感謝の言葉を俺に告げてくる運ちゃんに恐縮してしまった。実際のところ俺自身は何もしていないからなぁ。まぁ、元気になった子供がいるという事は、素直にうれしいと思った。


『研究所』前までに着いたので運ちゃんと別れ、まずは買い出しを頼まれた商品を『ダンジョン』から外に出て買いに行くことにした。…今まで温暖な気候である『ダンジョン』の中にずっといたので気にしてはいなかったが、今の季節は真冬。『ダンジョン』の中と同様に『新天地』も温暖な気候であったので、久方ぶりに『寒い』という感覚に襲われた。


 そういえば『新天地』の、少なくとも『ダンジョン』の入り口付近の場所には『四季』のような季節の変化はないかもしれないと、『協会』の職員さんが言っていたことをふと思い出した。確か『新天地』に生えている樹木を調べ、その結論に至ったのだとか。


 地球にも四季のない場所というのは存在しているが、そこは赤道直下にある年がら年中高温多湿だとか、乾燥している砂漠地域であったはずだ。しかし、俺達が活動していた『ダンジョン』の入り口近くの気候はそんな様子はなく非常に過ごしやすいものであり、少なくとも地球の環境とは違っていることが判明しているのだとか。


 ま、モンスターなんてトンデモ生物が跋扈している世界だ。地球の常識が通用しなくても不思議ではない。……でも、どうせなら、月が2つあるだとか、空に浮かぶ島があるみたいな、見るからに『ファンタジー』な不思議が欲しいな、というのが本音ではあった。


 そんな他愛のないことをぼんやりと考えつつ山道を通って自宅へと帰りつき、車に乗る。久しぶりの運転ではあったが、愛車のバッテリーが上がっていてエンジンがかからないといったトラブルも無い。これなら問題なく目的地まで移動することが出来そうだ。


 道中、小粋な音楽が流れるラジオを聞きながら、なんとなく車窓から見える景色を眺める。俺の『ダンジョン』が一般に公開されてからは、この小さな町に訪れる人の数は年々増えているらしく、それに比例するようにここ1・2年は新しい店が開店し始めていた。


 コンビニやフランチャイズの飲食店を始め、家電量販店や生活雑貨、おしゃれな家具何かも売る店まで出来始めていた。


 中には、異種族との交流を押し進めるという名目で、従業員としてエルフやドワーフなどを雇う店なんかも出始めたとか。


 当然ながら異種族である彼らの身の安全を守るため、そういった店には厳しい審査基準などを設けているらしいが、やはり異種族が働いているステータスは企業にとってもよい宣伝材料となっているのだろう。それなりの額の予算を投じ異種族受け入れ態勢を構築したらしい。


 今のところは『ダンジョン』の近くの店舗に限られてはいるが、わざわざ『ダンジョン』の中に入らなくてもエルフやドワーフを見ることが出来るとかで、こういった企業の試みも相まって異種族との交流の敷居が少しずつ低くなっているのだとか。


 しかしながら世の中には目先のことしか考えられないような人もおり、人間と言う種族の心象を悪くしかねないガラの悪い人も存在しているからな。異種族からの心象を悪くさせないよう、そういった企業にはこれからも頑張ってもらいたいものだと思う。






 自宅から車を走らせること数十分。目的の場所である大型の百貨店に行き、そこで頼まれていた商品の仕入れを終わらせる。


 ゲームや漫画などは簡単に見つかったが、ドワーフが所望するお酒がアルコール度数がかなり高い、所謂ニッチな商品であったので、それを探し出すのに少々手古摺ってしまった。


 どうしてドワーフが日本のお酒にそんなに詳しいのか?理由は簡単、ドワーフの情報収集に協力する人間がいたからに他ならない。当事者は俺を困らせようとかそんな思惑は無いだろうが、少しぐらいお使いを頼まれる俺の身にもなって欲しい。


 ま、目的の物はすべて購入することも出来たし、一度自宅に帰って軽く掃除をして、『ダンジョン』に戻るとしよう。久しぶりにハヤト達に会えるのが楽しみで仕方ない。

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