第136話

 数週間も経てば前線基地での生活に皆それなりに順応していた。


 ここでの生活は基本的には4日働いて3日休むという勤務形態となっており、朝は大体9時頃に『新天地』に出発し、夕方は16時から17時までには『ダンジョン』には戻るようにと通達されている。


 一般企業ならかなりのホワイトといえる勤務形態ではあるが、『ダンジョン』から一歩外に出れば、そこには強力なモンスターが蔓延る『新天地』だ。常に周囲に気を配らないといけない環境であるため、そのぐらいの勤務時間のでないと途中で集中力が切れてしまい、不安があると判断されてのことらしい。


 調査隊の懸命なる働きもあってか、『新天地』の調査もかなり進んでいた。『ワイルド・ボア』が食していたと思われる、晩白柚と同じぐらいの大きさの柑橘系の果物であったり、ドングリに似た果実の成る樹木の発見などの報告が相次いでいた。


 その中でも大きな発見は2つ。1つ目は『新天地』にいる強力なモンスターはエルフやドワーフでも見たことのない新発見のモンスターばかりであること。


 そして2つ目は、少なくとも『ダンジョン』の入り口から見て半径10キロ以内には知的生命体の存在は確認されておらず、過去に存在していた可能性も含めてその痕跡すら一切発見されていないという事だ。


 結局のところ『新天地』の情報については依然として謎に包まれているわけだ。ここまでの調査で依然として不明な点が数多あり、そのことによって全体の士気が下がった、ということは意外にも無かった。


 と、言うのも、『新天地』のモンスターの素材を『協会』や、『ダンジョン』関連の商品を開発・販売する企業がかなり高額で購入してくれていたためだ。


 当然ではあるが、『新天地』の素材は俺達調査隊が持ち帰る物がすべてであり、それ以外には存在しない。『協会』や企業に関してはいち早く新しいモンスターの素材を研究し、出来れば素晴らしい商品の開発に繋げたいと考えており、少しでも多くの素材を欲している。


 つまり需要に対しての供給の量が圧倒的に不足しており、それが素材の買取価格の高騰に直結していたというわけだ。


 俺の様な程々のヤル気の人は別として、アウラさんやライラさんの様なヤル気に満ち溢れている人たちはこれを稼ぎ時と判断したのだろう。休日返上で『新天地』に行き、毎回かなりの量のモンスターの素材を持ち帰ってきていた。


 同じパーティーのメンバーから休日が短くなったことで不満の声が出ないのかな?と疑問に思ったが、やはり『協会』の職員は優秀であったみたいであり、彼女らと似たような気質の人とチームを組ませていたため今のところは軋轢なく元気に活動しているらしい。


 そして今日は待ちに待った3連休の初日。ハヤトや太郎(ヤギの方)達の様子も気になることだし、自宅の掃除をするために今回の帰省期間は少し長めにとることにした。


 前線基地の周りには当然ながらアミューズメント施設の様な場所はないが、意外とみんなそれなりに休日を楽しんでいる。


 パーティーメンバーと親睦を深めるためにバーベキューをする人もいれば、娯楽室にある麻雀などのテーブルゲームを楽しむ人もいるし、パーティーメンバーを自室に誘ってテレビゲームや映画鑑賞に興じる人もいる。


 そういった余暇を楽しむものをあらかじめ大量に持ち込んでいる人もいれば、前線基地での生活は過酷なものとなると判断し一切持ち込んでいなかった人もいる。そういった人は休日を利用して俺と同じように研究所まで戻り、そこから『ダンジョン』の外に出て買いに出る人もいる。


 しかし、当然ながらそれを面倒だと感じる人もいる。そういった人は、俺みたいな研究所まで戻る人にお使いを頼んでいた。今回俺はそのお使いを頼まれており、人間・エルフ・ドワーフを問わず、ゲーム、漫画、雑誌などの娯楽品をかなりの量を購入して来てくれと頼まれていたのだ。


 頼んだ人は手間賃として購入代金の数パーセントを支払うことがすでに暗黙の了解として定められており、俺もちょっとした小遣い稼ぎになるので喜んで承諾した。


 それにしても、他の人よりも明らかに俺にお使いを頼む人が多いのは、俺の持つ〈収納〉の『スキル』を頼りにしてのことだろう。俺よりも遥かに強い人達に頼られて悪い気はしないのだが…こういった事で頼られるのも何だかなぁ、と言うのが本音でもあった。


 ま、超が付く優秀である彼ら彼女らに少しでも恩を売っておくことは俺にとってもプラスになる事だし、戦闘では彼らに恩を売れそうにもないからな。支援部隊らしく、調査隊の人たちの生活の支援をするのも仕事の内なのかな?とも思った。

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