第65話

「ダンジョン協会の重要なお得意様のご子息?そんなわけないじゃないですか。大体、ダンジョン協会はダンジョンの管理と探索者の身の安全を守ることを主な目的として結成された組織なんですよ?企業の意向にホイホイ従っていたら、探索者が無理な探索を強いられてしまい、命を落とすことに繋がりかねないじゃないですか」


 何を馬鹿なことを言っているんだと、そう言いたげな雰囲気を言葉の節々からヒシヒシと伝わってきた。俺もなんとなく分かっていたことではあるが、とりあえず『協会』に大きな迷惑をかけていなかったことに安堵した。では、あのタカヒロとかいうギャル男の親父さんはどんな人なんだろうと疑問に思い、聞いてみることにした。


「彼の父親はそこそこ大きな工務店の社長をしています。今回のダンジョンの中の開発行為に当たり、協会がその工務店に仕事を依頼していたんです」


 聞いていた話と全然違う。まぁ、そう語っていたのがギャル男の子分なのだから、話の信憑性が低いのは分かっていたが。


「俺は協会のお偉いさんがヘコヘコしていたって話も聞いていたんですが?」


「まず、間違いなく、これ以上ないほどの大嘘です。子分たちにいい顔がしたいあまり話を盛ったか、そのヘコヘコしていた方は協会の人間ではなかったということでしょう」


 確かに『ダンジョン協会』の後ろ盾があるというのはこれ以上ないほどの強みであるし、それにあやかりたいと思うのは当然のことだ。『協会』に土地を移譲し、その片鱗を味わっている俺もその恩恵にあずかっているからな、その気持ちはよく分かる。


「ですが当然、今回の件でダンジョンの開発事業から外れてもらうことになりました。そして今後も、協会関連の開発事業に関してはその工務店に対し仕事が依頼されるという事は決してありません」


「社長の子供が勝手にやったことでしょ?親の教育が悪かったのは否定できないですが、ナンパや器物破損ぐらいで少々厳しい対応じゃないですか?」


「問題はそこではありません。確かに現時点でエルフをナンパするなど明らかに常識を逸脱した行為ではありますが、当のエルフたちが気にしていらっしゃらないのでこちらとしても過度な対応をするつもりはありません。器物破損に対しては被害者である檀上さんのお気持ち次第ですので何とも…」


 何となく歯切れの悪い物言いだ。つまりそれ以外にも、何かしらの問題行為を行っていたということだろう。


「だったら何故?」


「今回彼は『ダンジョン協会』の名を騙りました。それを我々は危険と判断したのです」


『ダンジョン協会』の歴史は浅いが日本国に与える影響は計り知れない。20年前まで影も形もなかったのだ、その急成長ぶりには目を見張るものがある。そしてそんな強大な組織なら、自分もその恩恵にあやかりたいと思う人も少なからずいる。


 それが『ダンジョン』から産出された新しい素材での研究開発などと言った、至極まっとうな在り方なら問題は無い。むしろ『協会』も惜しみない援助をすることだってあるほどだ。ここで問題となるのは、不正な手段により不当な利益を得ようとする者達のことだ。


「投資詐欺…と言う言葉を聞いたことはありますか?」


「確か、確実に儲かる!ってうたい文句で人を騙して金を集めて、そのままトンズラする奴…ですかね?」


「その通りです。『新しいダンジョンが発見され、そこにはこれまでにないほどの素晴らしい素材が山のように発見されました。我々『ダンジョン協会』の厳正な審査の結果、貴方にそこの専属の調査権をお売りしたいと思っています。無論貴方が直接調査されなくても、腕利きに探索者の方にその権利をお売りしても構いません。専属の調査権ですので、当然お高く売ることが出来るでしょう』そんなことを言って、協会の名を騙り人々からお金をだまし取る詐欺がここ十数年で何件も発生しています」


 何となく聞いたことがある気がする。ひと昔前までは不動産投資で高額配当であったり、海外の資産に投資して為替レートで大儲け、そんな話で人から金を集めていたんだったか。


 その投資の対象が『ダンジョン』に変わったということか。実際、今でも『ダンジョン』関連の事業に投資して大儲けしました!なんてインタビュー記事を目にしたこともある。自分もそれにあやかりたいと思い、詐欺に引っかかってしまうのだろう。


 基本的には、よっぽどの事でもなければ美味い話が向こうから来るという事は無いだろう。……俺はよっぽどのことがあって『ダンジョン』を手に入れることが出来たわけだが。俺は例外中の例外だと思う。


「あのギャル男達も流石に詐欺行為まではしていませんでしたが、友人や知人などにダンジョンの利権に関わらせてやる、そんなことを言っていたらしいです。彼の父親が実際に開発に関わっていたことは周知の事実でしたので、皆それなりに信じていたらしいです。金銭を直接的に要求することは無かったみたいですが、自分に色々と融通を利かせるようにと迫っていたとか」


「つまり、詐欺一歩手前、そんなところまで来ていたということですか。そしてそんな中偶然、暇そうにしているエルフを見つけたとなれば…」


「彼女たちを利用すれば、相手をより信用させることが出来ると考えたことでしょう。…腹の立つ話ですが、我々ダンジョン協会が舐められているということですよ」


 確かに『ダンジョン協会』を恐ろしい組織と感じていれば、その名を騙るようなことは無かっただろう。それも、あんなチンピラ未満の奴らにそんなことをされてしまえば協会の名に傷がつきかねないと判断したわけだ。あのギャル男達には凄惨な未来が待っているのだろうと簡単に予想することが出来た。

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