第64話
本当なら今日も山の管理業務に勤しむ予定ではあったが、昨日の事もあり、警察からいつでも連絡を取れるようにと今日は1日中家にいてくれとのことだった。朝食をさっと済ませ、特にやることもなかったのでテレビをつけてぼんやりと眺める。
少し前までは報道番組でも『エルフ』関連のニュース一色であったが、流石にそれにも大人しくなっている。それでも『エルフ』に関して多くの関心を持つ人はたくさんいる様であり、何らかの形で彼女らに関する報道もなされていた。
だらだらとした時間を過ごし、そろそろ昼食の準備でもしようかと言うタイミングで電話が鳴った。予想通り警察からの電話だ。昨日の件に関して一通りの報告を一方的に聞かされた後、「詳しい話はダンジョン協会に聞いてくれ」と締めくくられそのまま電話を切られてしまう。
『ダンジョン協会』と言えども、国家の治安を維持する権力までは持ってはいない……はずだ。にもかかわらず今回の件に『協会』が関わっているという事は、それだけ事態を重大と見たか、はたまた今後の事を考えて、2度とあのような愚か者を生み出さないためにギャル男達を見せしめとするつもりなのか。
判断もつかないし、考えていても仕方ないのでとりあえず『ダンジョン』の研究施設に顔を出すことにした。
俺の『ダンジョン』は依然として人の入りが多く、拡張した駐車場も常に8割以上が埋まっている。つまりそれだけ多くの駐車場収入が見込めているという事であり、その事実に思わずニンマリとしてしまう。…ハタから見ればただの不審者だな。
『ダンジョン』の中に入り、研究施設を目指す。半年前までは何もない平原であったが、周りを渡せば今では営業している店舗をちらほらと見かけるようになり、そこに少なくない客の出入りを見ることも出来る。
店に出入りしている者の中にはエルフの姿もある。人間とエルフ、互いに互いを少なからず意識している節は見られるが、無理に声をかけようとか、ダンジョンの外に連れ出そうとかそういった愚かな行いをしている人は1人として見られなかった。せいぜい握手して下さいとか、一緒に写真を撮ってくださいとか、そういった節度ある態度をとっている。
これが普通の在り方だろう。20年前の大災害が起きるまでは日本にも多くの外国人が観光に来ていたらしいが、外国人に無理に付きまとうとか、カモにしようとする人がおらず、観光に来た外国人は日本人のそういった態度に好感を持ったと聞く。つまりあのギャル男達の行為は、日本人全体の印象を悪くしかねなかったかもしれないほどの出来事であったと言えるのかもしれない。
結果だけを見ればアウラさん達は気にしてもいなかったが、下手をすれば今後の日本とエルフに大きな溝を作っていたかもしれなかった。それを考えれば、両種族の融和に尽力している『ダンジョン協会』がブチキレてもおかしくないというわけだ。
研究施設に入り俺に用意された部屋へと向かう。今回の件、大きな損失を被ったわけではないが、事の顛末は事細かに知っておきたい。誰が一番詳しいことを知っているだろうかを考えて島津さんの顔が一番に頭に浮かんだが、彼女は後始末とかでも忙しそうだから俺と話す時間は無いと予想できる。
そうなると、頼りになりそうな人は1人しかいない。連絡を取ろうと、スマホを取り出そうとしたタイミングで部屋をノックする音が聞こえた。今の俺に来客があるという事は…
「お久しぶり…でもないですね
やはり服部さんだった。神出鬼没とまでは言わないが、どこにでも現れるものだと素直に感心した。それも俺が望んだタイミングで。とりあえず部屋の中に招き入れお茶を出した。そのお茶を一口飲み深く息を吐いていた。優秀そうな人だし色々と仕事を抱えているのだろう、見た目はそうでもないがかなり疲れているのかもしれない。俺がエルフの2人を連れ出さなければこんなことにならなかったのではないか、そう考えると少しだけ罪悪感を覚える。
「まず初めに確認させていただきたいのですが、檀上さんはあのギャル男…『楠戸タカヒロ』に被害届を提出する意思はあるのでしょうか?」
あいつ、そんな名前だったのか。もしかしたら聞かされていたのかもしれないが、興味が無かったので頭の中からすっかり消え失せていた。
「本音を言えば出したいところではありますが、事が大きくなってしまえば協会に迷惑をかけてしまうのではないかと思い、協会の方針に従うつもりです」
諸悪の根源はギャル男達にあるのは明白ではあるが、エルフの2人を先に店から出してしまった俺の脇が甘かったと言われてしまえば反論はしにくい。そういった負い目もあるため今回は協会の方針に従うつもりでいた。
「そう…ですね。被害届などに関しては檀上さんのご自由にされるといいでしょう。その後に示談をされたとしても、こちらからは何かを言う事はありません。彼の父親にはそこそこの資産がありますからね、法外な示談金を請求されてもよろしいのでは?」
どうやらギャル男の子分たちが言っていたように、そのタカヒロという奴の親父さんはそれなりの人物であるみたいだ。だが、服部さんの口ぶりからすると『ダンジョン協会』が気を遣わなければならないほどの方でもないみたいだ。その辺りの話は警察からは一切なかったので聞いてみることにした。
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