第62話

 意を決して声をかける。愚か者という奴はどこにでもいる、出来るだけ波風立てないように去ってやろう。それが俺達にも、そしてこのギャル男君たちにも良いことのはずだ。


「スマン、彼女たちは俺のツレなんだ。連れて帰るから彼女たちを解放してくれないかな?」


 ギャル男君たちとエルフの間に体を滑り込ませ、エルフの手をとる。このまま何事もなく終われば良いのだが…


「ンだよ、おっさん!邪魔すんじゃねーよ、あっち行ってろ!」


「ケッ!どうせダンジョン協会の下っ端かなんかだろ。悪ぃことは言わねぇ、エルフの2人を置いてとっととどっか行きやがれ」


 何とまぁ、いかにもって感じのセリフを吐くものだと逆に感心してしまう。それでも何とかエルフの2人を俺の背後に回らせ、自分の体を使ってギャル男達から壁を作り遠ざける。するとこれまたいかにもって感じの、リーダーっぽい奴が俺を舐めたような嫌な目で見て来る。


「こいつらの言うとおりだ。『ダンジョン協会』を敵に回したく無けりゃ、その2人を置いてさっさとどっかに行きな。俺に立て付きゃ協会はクビになる。その齢での再就職ってのも苦労することになるだろうぜ」


 これまたいかにもって感じのセリフが聞こえて来た。


「信じてねぇようだが、タカヒロさんの親父さんは『ダンジョン協会』の超が付くほどの重要なお得意さんなんだ。こないだも協会のお偉いさんがヘコヘコしてたからなぁ。痛い目見ないうちに、早くどっか行った方が身のためだぜwww」


 協会のお偉いさんか……俺の記憶にある協会のお偉いさんとなれば島津さんだな。彼女がヘコヘコする?想像することが一切できないな。それに『ダンジョン協会』の重要なお得意さんって何だ?大手の企業とかか?むしろ企業の方が、貴重な素材を管理する協会の機嫌を取ることはあっても、『協会』が企業の機嫌を取らなければならないということの方が信じられん。


 それに、『協会』が気を遣わなければならないほどのVIPの子息なら、腕利きの探索者の1人や2人は護衛についけているだろう。こいつについているのは弱そうな子分だけだ。


 いや…もしかしたら、こいつの親父さんが『協会』が気を遣わなければならないほどの、かなり有名な探索者と言う可能性も……ないな。『スキル』が子に遺伝するかどうかは分からないが、それほど有名な探索者の子息なら、それなりに『ダンジョン』に関する知識を持ち『格』を上げていてもおかしくはない。……いや、決めつけるのも良くないな。自分の息子には、自分と同じような危険な職業に就いてほしくないと考えるのもおかしくはないか。う~ん、さっぱり分からん。


「ヘッ!ビビっちまったか。まぁいい、俺は寛大だからな。その2人を置いて、てめぇは10秒以内に消え失せろ!そうしたら見逃してやる!」


 考えるのが面倒になってきた。これ以上馬鹿と一緒にいるのも面倒だし。2人の手を引いてトラックまで移動し、彼女らを乗せてエンジンをかけた。


「てめぇ!っざけんな!とっととその薄汚い車から降りやがれ!」


 自分がいかに危険な行為をしているのか分かっていないのだろうか。エンジンをかけた2トントラックの前に立ちはだかり、フロントの辺りをガンガン蹴る音が聞こえる。出来るだけ穏便に解決しようと努力はしたんだがな、こうなっては仕方ない。何せ俺の愛車を『薄汚い』と罵ったのだ。完璧に堪忍袋の緒が切れた。こいつらに慈悲をかけ、穏便に片付けようとしたのが馬鹿らしくなった。ドライブレコーダーの録画を開始し、車の前に移動する。


「お前らホント、ふざけんなよ。さっきから黙ってりゃ好き勝手なことばかり言いやがって。見逃してやるから消え失せるのはお前らの方だ!」


「誰が消え失せろだ、コラ。ふざけたこと言ってっと、マジでぶっ殺すぞ!」


 俺の胸ぐらを掴み、そう脅しをかけてくる。が、全然怖くないのは、先日戦ったオーガ・リーダーの方が1万倍くらいは怖かったからだ。アレと比べると、こいつの脅しなど朝飯前にもなりゃしない。


「大体なんだ、お前は。俺に立てつくと親父が黙ってない?一体いつまで親のすね齧って生きてんだ。しかもそれを恥ずかしいとも思わず、公衆の面前で堂々と言うって…どんな神経してんだ?」


 と、煽った瞬間、顔面を思いっきり殴られた。その気になれば掌で受け止めることも受け流すことも出来たし、胸ぐらを掴まれた状態ではあったが躱すことも出来た。そうしなかったのは、ドライブレコーダーにこの映像を取らせるためだ。ここまでしっかりとした証拠が残っていれば、今後何かあったとしても正当防衛が成立するだろう。


 俺は殴られた衝撃を利用して、ドライブレコーダーのフレームの外に出る。簡単に俺を殴り飛ばすことが出来て、さぞいい気分になったことだろう。そのまま子分たちに「おめぇら、やっちまえ!」と威勢よく檄を飛ばす。


 その言葉に従い俺に攻撃を加えようとする子分1~3。正当防衛も成立するだろうし、俺は何度も忠告をしてやった。それでも己の行動を律することが出来なかったのだ、これ以上は何を言っても無駄だろう。俺はここにきてようやく反撃に打って出ることにした。

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