第56話

 俺達が『エルフ』と出会ってから半年が過ぎた。


 1カ月が経過した辺りだろうか、その頃にトゥクルス共和国の上層部と会談しある程度の話し合いがついたらしく俺の『ダンジョン』が異世界に繋がっており、その世界には『エルフ』という人間ではない知的生命体が存在していることが大々的に発表された。


『エルフ』は容姿端麗、眉目秀麗ばかりの種族であり、発表と同時にその姿がテレビやネットで映し出されると一躍時の話題をかっさらっていった。連日連夜彼ら彼女らの姿が放映され、テレビを付ければどこかの放送局がその姿を必ずと言っていいほどに映し出しており、その姿を見ない日が無いというほどの盛況ぶりであった。


 当然その姿をネットやテレビの画面越しで見るだけでは我慢できず、直接その目で見たいと思う多くの人が俺の『ダンジョン』に足を運び、俺の経営している駐車場は常に満車状態だった。


 そこでかねてより計画していた駐車場の拡大工事に取り掛かった。と、言うのも俺の『ダンジョン』の有用性が世間様でも認められ始めたらしく、『エルフ』の件について発表がある前から日増しに入場者が増えていっていたのだ。恐らく『エルフ』の件が無くても拡大工事は時間の問題であっただろうから、その計画を前倒しにしたという形だ。


 幸い土地にはまだまだ余裕がある。とはいえ拡大し過ぎてしまってもこのエルフブームもいつかは終わりを告げることにはなるだろうから、広くしすぎることも賢い選択とは言えない。良い塩梅を見極めながらの開発にはそれなりに頭を悩ませたが『ダンジョン協会』からも良いアドバイスをもらい納得のいく答えを出すことが出来たと満足している。


 駐車場の拡大工事と同時に並行して『ダンジョン協会』が主導している、『ダンジョン』の中の開発工事も着々と進んでいた。


 最初に取り掛かったのはエルフ達の住む予定の共同住宅と大使館の様な建物、そして『協会』の運営する大型の食料品店だ。その建設には多くのエルフを雇い、人間の技術者と協力して開発が進められていた。


 エルフは高い魔力の持ち主であり、建設に有用そうな〈魔法〉を持つ人達も多くいた。先の研究施設の建設で培ったノウハウを十全に活かすことでかなりのハイペースで建設は進み、大規模な工事であったにもかかわらず僅か数カ月で完成にまでこぎつけることが出来てしまった。


 これは工事を依頼した『ダンジョン協会』も嬉しい誤算だったらしい。当初予定していた予算もかなり浮いたらしく、その浮いたお金でエルフの国側に存在する『ダンジョン』の入り口と、俺達人間側に存在する『ダンジョン』の入り口に街道を敷くための予算に計上し直したのだ。


 現在はその工事も着々と進んでおり、あと数カ月もすればこれも完成するらしい。完成すれば今まで以上に人間とエルフの交流は活発化すると予想されており、人間もエルフもその完成の日を心待ちにしている。


 そして街道が完成し、交流がより活性化することを見越して『ダンジョン協会』以外にも俺の『ダンジョン』の土地を借り、そこで商売を始めたいという企業が出始めた。


 収入源が増える。それは喜ばしいことではあるが、企業を相手に交渉事が出来るほどの能力は俺にはない。そこで『ダンジョン協会』に泣きついて、『ダンジョン協会』に間に入ってもらうことで土地の貸し出しを始めることにした。


 当然そこには手数料が発生するが、地代の数%を毎月支払うことにはなったがその労力を考えればそれほど大きな出費でもない。服部さん曰く「『協会』はこれまでの檀上さんの協力にとても感謝している。この程度のことで借りを返したとは思ってはいないのでこれからも何かあれば遠慮なく申してください」とのことで、やはり『ダンジョン協会』に恩を売っておいて損はなかったと改めて実感した。


 今のところ3つの企業が俺の『ダンジョン』の中に出店することになった。生活雑貨を売る店、安価で美味い牛丼を提供するチェーンストア、そしてカプセルホテルだ。


 どれも店の規模はそれほど大きなものではなく、貸し出すことになった土地の広さもたかが知れていた。初年度と言う事もあり、今後どうなるか予想が出来ないため坪単価の地代をかなり低めに設定しておいた。


 勿論、善意からのみでその判断を下したわけではない。もしこれら企業がそれなりに成功すれば、他の企業も俺の『ダンジョン』の中に続々と進出してくるだろう。そうなったとき、地代が安ければ進出の敷居が低くなる。当面は現在出店が決まった企業に集客をしてもらうということで、客層などのデータを提供してもらう事にしてもらうことにした。


 そのことは『ダンジョン協会』を通して土地を貸しだすことになった企業にも話を通してもらった。最終的な目的が集客につながっていると言うこともあり、『ダンジョン』に訪れる人が増えれば当然利益も増えることになるからと喜んで協力してくることになった。


 当面エルフブームも終わりそうにないため、今のうちに俺の『ダンジョン』の固定ファンを増やしておこう。それが当面の目標だ。ま、俺はほとんど何もしてないんだけどな!

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