第54話

 1週間に渡る長い会談を終え、ひとまずはお開きとなった。とはいえ交流を途絶えさせるという事もなく、俺達の時と同じように互いに互いの国に使節団を派遣することになった。


 来た時とは違う、見るからに文官といった雰囲気のエルフが俺達の集団に加わり、ダンジョン協会の職員の何名かがエルフの国に行くこととなった。


「それでは10日後、再びこの場所で合う事にしましょう」


「ええ、次も皆さまの驚くような品々を用意しておきますよ」


 そんなやり取りをして人間側、エルフ側のお偉方が固い握手を交わし帰路につくことになった。ちなみに、今回設置した天幕などは再び設置するには少なくない労力が必要となるため、設置したままにすることになった。


 なお、当然のように『ダンジョン』に吸収されるかもしれないと懸念もあったが、その時に湯川所長から「ダンジョンの中に物を置いていても、定期的に少しでも位置を動かしておけば吸収されることは無い」との発言があり、エルフ側から人を出してもらい毎日少しずつ位置をずらすことでその問題を解決することになった。


 距離的にはエルフ側の方が近いため管理が楽と言う面もあるが、世話になってばかりだと人間側の面目がたたないと声が上がる。ところが「感謝の礼はインスタント食品で」と笑顔で言われ、先程の様なやり取りがあったというわけだ。


 帰り道は俺達が先頭ではなく部隊の後方に配置された。行きは道を間違えてはならないというプレッシャーをかなり感じていたが、帰りはそんなものはない。前を行くのは俺よりも遥かに優秀な戦闘員と言う事もあり、気持ち的にも消化試合、かなり楽なものであった。


 それもあってか剣持さん達は勿論のこと、今回の仕事でそれなりに親しくなったダンジョン協会の職員さん、そして俺達に同行することになったエルフの大使さんと軽い雑談をしながらの移動だ。


 エルフの大使さんも威厳あふれるその見た以上に気さくな方であり、共通の話題がほとんどないにもかかわらず自然と会話が弾んでしまう。この辺りの話術スキルの高さは、一朝一夕では真似することが出来ないだろうと思い、素直にうらやましいと思った。


 森の中で1泊し、翌日の昼前には『ダンジョン協会』の研究施設の前まで戻ることが出来た。そこでもエルフの方々には外装を深く被ってもらうことで姿を隠してもらい、多くの民間人が行き交う入り口近くの平原を抜け研究施設の中にある超VIPループに通される。そうして俺の長いような短いような依頼が終わりを告げた。


「お疲れさまでした。念のためお伝えしておきますが、今回の件で知りえた情報は我々が許可するまでは決して外部に漏らさないようにしてください」


 何度目になるだろうか、別れ際また同じ注意をされる。そのことに辟易する…ということが無いのは、事の重大さを俺自身もよく理解しているためだ。


 むしろこの件にある程度のかたが付くまでは情報漏洩を防ぐために、軟禁されるのではないかと少しばかり恐々としていたがその様子はなく、俺に対する一定以上の信頼感があるのだろうと思うほどであった。


 もう少し職員さんからの聞き取りがあるという弓取さん達と、そんな彼らに一応は最後まで付き合うと言っていた剣持さんにも別れを告げ、数週間ぶりに『ダンジョン』から出た俺は自宅に向けて…の前に、そんな俺の前に姿を現した人がいた。


「お久しぶりですね、檀上さん。今回もかなりお手柄だとお聞きしましたよ」


「服部さんじゃないですか、お久ぶりです。ですがお手柄、なんですかね?すべては偶然だと思いますが」


 話しぶりからすると、服部さんも『エルフ』とのことも一通りの事は知っているのだろう。『エルフ』に関する情報は秘中の秘であり、現時点でそのことを知っているのは島津さん曰く限られた人員とのことである。そんな重要な情報を彼女が知っていても不思議に思わないほど、彼女の底が知れないと思う自分もいた。


「偶然と言う言葉でおさめて良いものでもないような気もしますが…少なくともそのきっかけを作ったのは檀上さんですし、そのことを少しぐらい誇っても良いと思いますよ?」


「そうですかね?あまり自覚は無いんですが。ところで今日はどういったご用件で?」


「『彼ら』と直接言葉を交わした檀上さんから話を聞いてみたいと思っていましたが、何名かがこちらに来ているみたいなので、せっかくなので直接『彼ら』とお話をしてみようかと。それと、今回の件で私も少しばかり忙しくなりそうでしてね。ちょっとだけ恨み言を言いに来ました」


 恨み言、とは言っていたが、俺のことをそれほど恨めしく思っているようにも見えなかった。忙しくなるのも事実だろうが、彼女も今回のことを多少なりとも興味津々、人並みにワクワクしているのだと思った。

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