第51話

「お久しぶりです、ダンジョウ殿、ケンモチ殿。アウラ達も元気そうね、安心したわ」


「お久しぶりです、アリサさん。随分とお早いご到着ですね」


「それはお互いさまでは?…失礼。私はアリサと申します。込み入った話もありますし、とりあえず用意した天幕に行きませんか?」


と、俺たちに一通りあいさつしたところで、後ろにいる島津さんを始めとする初対面の人達にも気が回ったのだろう。軽く自己紹介をして『エルフ』達の用意したであろう天幕まで案内される。


通された天幕の中に、見るからに威厳溢れるといった風貌をした方を始め、色々な服装をした色々な年齢層のエルフ達がいた。恰好が所属などを現すのであれば、色々な役職のエルフがこの場に集っているということだ。


実際、アウラさん達も威厳に溢れた格好をしたエルフを見た時、緊張で息をのんでいる音が聞こえた。つまりそれほどの相手も来ているという事だ。


おまけにその数は俺達よりも多く、集団の一番前を進んでいた俺が天幕の中にも一番乗りしてしまい、他の人よりも多くの視線を集めてしまったのは言うまでもないだろう。そして小市民である俺がたくさんの数の『エルフ』に同時に見られたことで緊張してしまい、思わずフリーズしてしまったのも仕方のないことのはずだ。


「初めまして、私は島津と言います。この集団の代表を務めており、皆さまとの会談を円滑に進められるよう精一杯務めさせていただく所存です。何か不都合な点等ございましたら遠慮なく申してください」


ずいっと前に出てそう自己紹介をした島津さん。頼もしい事この上ない。心の中で彼女に感謝の言葉を述べつつ、彼女の影にそっと隠れエルフ達の反応を窺う。


「初めまして、シマヅ殿。そして人間の方々よ。私の名はアレクシス。この場にいる同胞の代表を務めさせてもらっている。本来なら歓迎の宴を…と言いたいところですが、残念ながらその準備が全然終わっておりませんでな。予定では、会談の日付まだ先となっていたと思いますが?」


「我々もそのように聞いております。ですが会談をするにあたって、エルフの方々に私たち人間の事を少しでも知っていただこうと思い、そのための準備をするために早めに来たのですが…」


「おやおや、どうやら我らと同じ考えであったみたいですな。貴方方人間は随分と律儀な方々の様だ。これなら安心して交渉が出来ると言うものだ」


ホホホと軽い笑みをこぼした重鎮そうなエルフさん。とりあえずの掴みは上々だろう。その後軽く雑談を交わした後天幕から出て、俺達も俺達の拠点とするための天幕の設営にかかる。事前にすべての準備を終わらせていた、暇を持て余していたエルフが手伝いに来てくれたためかなり短時間が終わらせることが出来たのは僥倖であった。


とはいえ時刻は夕食時(腹時計による測定)だ。これから準備する時間も無いため本日の夕食は昨日の夕食と違い簡単なものになるだろうと少し落胆した気持ちではあったが、思いがけぬところから声がかかった。


「どうやら夕食の準備はまだみたいですね。よろしければご一緒しませんか?」


と、声をかけて来たのはアリサさんだ。正直エルフの食事には興味があったので喜んでご相伴にあずかることにした。


俺と剣持さん、『ダンジョン協会』の平の戦闘員はエルフ達の設営した天幕の近くにはウッドチェアとウッドテーブルなども設置されており、そこに座り食事が来るのを待ち、島津さんの様なお偉方はエルフ達のお偉方のいる天幕の中で食事を摂ることになった。


俺達と同じ?平のエルフ達も俺達と同じ場所で食事を摂ることになっており、近くに座ったエルフと他愛のない雑談をしながら待つ。しばらくして、ようやく待ちに待ったエルフ達の料理が提供された。


「おぉ…これがエルフの料理ですか。それでは早速…いただきます」


見た目は野菜と肉がゴロゴロ入った食いごたえのありそうなスープと、田舎パンの様なラグビーボールほどの大きさのパンが切り分けられた状態で配膳された。


どこの世界にもパンの様な食べ物があるのだと感心しつつ、切り分けられたパンを更に一口大の大きさにちぎって食べる。パリッとした表面と柔らかな内面であり、噛めば噛むほど味わい深く、また麦の様な穀物の香ばしい香りが鼻を抜けていく。


続いて具のたくさん入ったスープに口をスプーンですくっていただく。素材の味、つまり肉と野菜の旨味がしっかりとスープにしみ出しており、味付けは塩と何かのスパイスの様な物だけのシンプルなものであったがかなり美味い。


しばらくは無心になって食べ進める。食べ終わるころになってようやく周りに気を向けるだけの余裕が出来た頃にはすでに周りの人も夕食を食べ終わっており、皆俺と同じような充足感が身を包んでいたことは確認するまでもなかった。


これだけシンプルな味付けでありながら、これほどの味を出せるとは…恐らくは素材が良いのだろうと推測する。


そこで思ったのが、これほど簡単な調理でにこんなにも美味いものが作れるのだ。ならば大変な苦労をしてまで『料理』という『知識』を追求する必要がないため、エルフの世界でこれまで料理という学問が発展してこなかったのではないのだろうか、という事だ。だから俺の持ってきたレトルト食品の様な複雑な味に興味を持ったのではなかろうか。


無論これはあくまでも俺の推論だ。成否にあまり興味はない、大事なのは俺達の持ってきたレトルト食品にエルフ達が大きな関心を抱いているということなのだ。

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