第30話

「ホント、運が良かったですよ。剣持さん達が他のダンジョンからちょうど帰ってきたタイミングでこの話がきたのですから」


「みたいですね。こちらもそろそろ、一度このダンジョンに顔を出す予定でしたからね」


 と、言った具合に運よく剣持さん達のスケジュールがかみ合い、すぐにでも探索に出られる状況になった。ちなみに昨夜は久しぶりに実家に帰っていたらしく、俺の『ダンジョン』が地元の住民に受け入れられつつあるという話をご家族から聞いていたのだそうだ。


「それにしても皆さんの装備品の質が良すぎて、この場所ではかなり浮いてしまいますね。ここで話していては注目を浴びてしまいますし、研究施設に用意された俺の部屋に移動しましょうか」


 そう言って彼らを『ダンジョン協会』の研究施設の中にある部屋に招くことにした。


 研究施設の外観は完成しており、後は内装の細々とした作業を残すだけとなっている。すでに正面入口玄関は一般人にも開放されており、入口奥に設置されている窓口に『魔石』を持っていけば買い取りもしてもらうことが出来るようになっている。さらにその横には飲食のできるコンビニも併設されており、『ダンジョン』を訪れる多くの人が立ち寄っているのが見える。


 しかしこうした一般人が立ち入ることが出来るのは1階までであり、2階以降は研究室もあることから『ダンジョン協会』職員や関係者のみ立ち入ることが許可されている。俺はこの『ダンジョン』の管理者と言う立場から、「必要になるかもしれない」と言った理由で個室を与えられており、それなりに優遇される立場にあった。まぁ、その代償としてか、『ダンジョン』内の土地を更に割譲することになったのは『ダンジョン協会』側の交渉が巧みであったためであろう。


 与えられた個室は話をするには十分な広さがあり、『ダンジョン協会』側もそういった目的で用意していた個室らしく、座り心地の良い質のよさそうなソファーや重厚な机があらかじめ備え付けられていた。


 給湯器で湯を沸かし、剣持さん達にお茶を淹れる。


「外観だけでなく、研究施設内もそれなりに開発が進んでいるようですね。それにしても、ダンジョンの中で電気や水道が使えるとは…」


「試験的な魔道具のようですよ。電気はもちろん、水も魔石から生成しているそうです」


「なるほど。モンスターからドロップされた魔石を窓口で購入し、そこから得られるエネルギーで研究をしているというわけか。地産地消というヤツ…なのか?」


「…微妙に違う気もするが、意味合いとすればそれほど遠いというわけでもないだろう。ただ、先ほども言った試験的な魔道具と言う言葉が気になるな」


「俺も詳しくは聞いてないですが、本来、魔石からエネルギーを抽出するにはそれなりの設備が必要になるというのは知っていますよね?今回ダンジョン協会の研究者達がそれの小型化に成功し、その実験も兼ねているとか。まぁ、小型化といってもかなりの大きさでしたが」


 科学技術が発展した現代でも大容量の電気を溜めておく技術は未だ開発されていない。しかし、この度開発された魔道具は、必要な時に必要な分だけ『魔石』からエネルギーを抽出できる。つまり『魔石』を天然の大容量電池とみなすことも出来るというわけだ。また、『魔石』は内包するエネルギーがなくなると消滅するという特性も併せ持つため、その辺りの事も含めかなり使い勝手の良い燃料と言えた。


「今はまだ魔石から抽出できるエネルギーを抽出するには特殊な素材が必要らしく、大量生産は難しいと聞きます。技術の進歩にも課題が多いとか」


 その為か、日増しに俺の『ダンジョン』に訪れる研究者らしき人の数も増えていき、今では百人を超える研究者がこの研究施設内にいる。と、いうのも、魔道具に関する研究成果が地表よりも『ダンジョン』の内部の方がデータが顕著に出るということが分かったためだ。いずれは、より多くの優秀な研究者達がこの研究施設に移動してくるかもしれない。


 俺が新しく割譲した土地に、その研究者たちの寮を作る予定なのだそうだ。今までは研究施設内の仮眠施設を利用し、十分事足りていたらしいが、人が増えてきたため近ごろだとそれも間に合わなくなってきたらしい。


 世の為、人の為になるような仕事をしているのだ。そんな人たちにより良い研究環境を与える為、俺も多少なりとも協力しなければ、そう思ったというわけだ。まぁ、本音を言えば、割譲する土地が多少増えようとも、俺の所有する土地が広すぎてあまり喪失感というものを感じないという理由もあるのだが。


 雑談もそこそこに、今後の調査計画について情報をすり合わせることにした。

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