第24話

 しばらくの間模擬戦を繰り広げた後、藤原さんが『ダンジョン協会』の職員に呼ばれ建設予定地へと向かって行った。兄弟子は俺と藤原さんとの模擬戦には興味が無かったらしく、少し離れた場所で横になって居眠りを始めた。


『ダンジョン』の中は温暖な気候であり、太陽の光がサンサンと降り注ぐ気持ちのよい環境だ。トノサマンバッタは進んで戦おうとする『モンスター』でない。つまり警戒などせずとも身の危険を感じることは無いというわけだ。兄弟子の、居眠りをしたくなる気持ちも十分すぎるほどに理解できる。


 そこでふと、兄弟子がどれほど強くなったのか見てみたくなった。本人の許可を得ることは難しそうだったので無断で〈鑑定〉させてもらうことにした。仮に怒られても、おやつを献上すれば快く許してくれるだろう。


【 種 族 】 犬


【 名 前 】 ハヤテ


【 スキル 】 〈咬み付きLv3〉 〈■■■■〉 〈忍足Lv2〉


 文字が読めない箇所がある。こういったとき、頼りに無さそうな藤原さんは今席を外している。さて、どうしたものか…


「お久しぶりですね、檀上さん。いきなりキョロキョロして、どうかしましたか?」


「どぅわぁっ!…何だ、服部さんですか。びっくりさせないでくださいよ」


 考え事をしていたためか、人が近づいていることに一切気が付かなかった。大きな声を出してしまったことがチョット恥ずかしい。


「いえ、別に驚かそうと思っていたわけではないですが…ま、老婆心ながら言わせていただくと、いくら危険がほとんどないとは言えダンジョンの中で気を抜くのはよろしくありませんよ?」


「う……はい。以後気を付けます」


「それはそうとして、先程は何を考え込んでいらしたんですか?」


 特に隠さなければならないという事もないので正直に答えた。思えば彼女もそれなりに経験を積んだと思われる人物だ。彼女でも俺の疑問に答えることは出来るだろう。


「なるほど。それは檀上さんの〈鑑定〉のスキルレベルが、ハヤテ君の読むことのできないスキルのレベルより低いからですね」


 とのことだった。なるほど、納得した。確かに〈鑑定〉であらゆる人物のスキルレベルがすべて判明するのであれば、〈鑑定〉にスキルレベルは必要ないだろう。ちなみに今の俺の『スキル』は




【 種 族 】 人間


【 名 前 】 壇上 歩


【 スキル 】 〈剣術Lv.6> 〈鑑定Lv.4〉 〈索敵Lv3〉 〈肉体強化Lv3〉


        〈火魔法Lv2〉 〈忍足Lv1〉




 と言った具合だ。つまり文字が読めない兄弟子のスキルレベルは5以上であるということだ。


 スキルレベルの高い相手の『スキル』が分からないのであれば意味が無いと思われるかもしれないが、そのようなことは決してない。なぜなら遭遇した『モンスター』がスキルレベルの高い『スキル』を多数保有していることが分かりさえずれば、即座に『撤退』するという選択肢を視野に入れて行動することが出来るからだ。


 ちなみに俺がこの前戦ったオーガは保有する『スキル』のスキルレベルはすべて3以下であったものの、〈棍術〉を始め〈肉体強化〉やら〈剛力〉などといった、いくつもの『戦闘スキル』を保有していたため、すでに〈剣術〉のスキルレベルが6になっている俺ですら打ち合えば簡単に押し負けてしまうだけの近接戦闘力を誇っていた。


 その反面、遠距離攻撃に対する対能力が皆無であったため、〈火魔法〉によるアウトレンジで体力を削れるだけ削り、何とか辛勝することが出来たというわけだ。


 そして俺が読むことが出来なかった『スキル』は恐らくだが〈疾走〉の『スキル』だろう。兄弟子は普段から『ダンジョン』の中を『スキル』を使って縦横無尽に駆け回っていると聞く。そのため一番早くスキルレベルが上昇したのだと思う。


「ありがとうございます。勉強になりました。…そう言えば服部さんはいつもここにいらっしゃるのですか?」


「いえ、いつもはダンジョン協会の本部のある場所で仕事をしているのですが、役職上、比較的自由のある身ですからね。檀上さんが戻られたと聞いて、建設の進捗状況の確認がてら一応挨拶をしようかと」


『役職上』と言ったとき、少しばかり歯切れの悪い言い方をされたが、そこを指摘するのもなんか嫌な感じがしたのでスルーすることにした。「虎穴に入らずんば」とも言うが、進んでリスクを負うのは俺の性分には合わないのだ。これもまた、俺が小市民である証拠であるような気がした。

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