第15話

研究施設の予定地は入口から300メートルほど奥に進み、入口から見て正面から少しばかり逸れた場所にあった。ざっくりとした縄張りがしてある。かなりの広さであり、運動会でもできそうなほどの広さがある。仮に俺がここに建てるのは駄目!とか言っても、要した労力を考えれば素直には納得してはくれないだろう。


「文句あるわけではありませんが、この広い平原の中でどうしてこの場所を選んだんですか?」


「深い理由はないそうですよ。ダンジョンの入り口近くは避けた方が良いでしょうし、逆に離れすぎても不便ですからね」


深い理由がない事には少し驚かされたが、これだけ広い平原のどこを使っても良いともなれば逆に建設予定地に迷ってしまうのも道理と言えるかもしれない。


「分かりました。この場所に研究施設を建てることを許可しましょう。…と、以前から思っていたことですが、ダンジョンの中にどうやって建物を建築する予定なんですか?入口が多少は広いと言っても、重機が入れるほどの広さがあるわけでもないですよ?」


「当然人力です。工場である程度組み立てた資材を人力でダンジョンの中に持ち込み、そこから組み立てるんです。この建設には、役に立ちそうなスキルを持っている探索者の方に協力してもらう予定です」


何でもとある建設会社が『スキル』を使った建築方法を考案し、『ダンジョン協会』に持ち込んだそうだ。震災時などで重機を使うことのできない山奥での復興作業をするために、協会からアドバイスをもらうためにだとか。


その建設企業もまさか『ダンジョン』の中で建築をすることになるとは思ってもいなかっただろう。それでも『ダンジョン』の中の方が『格』を上げたことによる恩恵である、身体能力の向上率は地表よりも高い。手探り状態のスタートではあるが、余程の事でもなければ大きな事故が発生することは無いはずだ。


今回の研究施設の建築に当たって一番得をしたのは間違いなく『ダンジョン協会』だろう。土地は俺が無償で提供したし、建設費に関しても試作と言うことである程度割引された価格で建築会社に委託することが出来たと聞いた。


その浮いた費用は研究施設の最新の研究機材にでも回すだろう。広大な敷地面積に新しい研究所と最新の設備。おまけに『ダンジョン』の中と言うことで、地表よりもダンジョンの研究がはかどるのは語るまでもない。俺の『ダンジョン』の重要性が増したと考えれば、俺もまたその恩恵を受けたとも言えるか。






俺の『ダンジョン』内での研究施設の開発が開始して1カ月が経過した。


『ダンジョン』の調査に来ていた『ダンジョン協会』の戦闘員の多くが撤収し、その代わりに建設会社の人と、『ダンジョン協会』に所属している建設に使えそうな『スキル』を持つ職員が多く来ている。人数で言えば以前よりも多く、『ダンジョン』内が活気であふれていた。


戦闘員の多くが撤収したとはいえ、護衛と言う名目でそれなりの数の隊員は残っていた。その中に藤原さんとその班員がいる。体裁こそ護衛と言う名目ではあるが『モンスター』による被害は皆無。むしろ工事に夢中になるあまり、意図せずトノサマンバッタを踏み殺してしまったという報告が来ているくらい平穏な現場であった。


そんなわけで暇を持て余している藤原さんが、暇つぶしとして俺の戦闘訓練に付き合ってくれることになった。もちろん『ダンジョン』の所有者である俺がある程度戦う力を持っていればそれだけ不測の事態にも対応できるだろうという『ダンジョン協会』の思惑もあるのだろう。


どちらにせよ俺にとって不都合はない。兄弟子であるハヤテ君と一緒に戦闘訓練に励むことになった。


「いい感じですよ、檀上さん。その調子でスキルの発動を常に意識し、木刀を振ってください」


〈鑑定〉や〈索敵〉のような非戦闘スキルを『支援スキル』と呼称し、〈剣術〉や〈弓術〉の様な『スキル』を『戦闘スキル』と呼称する。『支援スキル』は非戦闘時に使用するため使うことさえできればある程度は役に立つが、『戦闘スキル』に関しては戦闘時にのみ使用するため使いこなすことが出来ないと死に直結すると言われた。


そのため今は〈剣術〉スキルの鍛錬に励んでおり、この1カ月でスキルレベルを3にまで上げることに成功している。その際にスキルレベルが3もあれば大丈夫とのことで、服部さんから第7級、中級探索者の資格証が送られてきた。


ずいぶんとあっさりと渡されたたが、藤原さんがつきっきりで訓練をしてくれていたとはいえ、本来なら数カ月かけて受領するものだと講習で学んでいた。聞いていた話よりも大分速いスピードで受領できたので非常に嬉しかった。


もしかしたら服部さんが裏から手を回してくれたのかもしれない。そうだとしたら…彼女はいったい何者?と言う疑問が頭をよぎったが、君子危うきに近寄らずとも言う。俺は考えるのを止め、戦闘訓練に集中することにした。目の前では『スキル』を発動したと思われる、ものすごい速さで草原を駆け回る兄弟子の姿がある。彼のいるレベルにまで早く成長したいものだと思った。

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