第13話
善は急げということで翌日には中級探索者の資格を得るために、『ダンジョン協会』の支部がある大きな街に行くことになった。緊急時に『ダンジョン』の所有者兼管理者兼責任者である俺のメイン武器がひのきのぼうでは格好がつかないからな。全体の士気を下げかねないし。
とはいえまずは講習、つまりは下級探索者の資格を得るところから始めなければならない。10級の講習なら1時間ほどで終わるが、7級の講習は1時間×10回の講習を受けなければならない。面倒ではあるが自分の身の安全には代えられない。
俺は色々と『ダンジョン協会』から優遇されているのだろう。支部のある街は俺の自宅から遠く、とてもではないが俺の愛車(軽トラ)で通える距離にはない。そのため講習が終わるまではホテル住まいを覚悟していたわけだが、講習が終わるまでは『ダンジョン協会』の社員寮に住まわせてもらえることになったからだ。
これから色々と出費が重なるかもしれないという事を鑑みると、ここで多少なりとも節約できるのは非常に喜ばしい事だ。もちろん『ダンジョン協会』側もさっさと俺の講習を終わらせて、責任者(俺)の立ち合いの元で『ダンジョン』内での研究施設の設立業務に移行したいという思惑もあるのだろう。それでもありがたい事には変わりはない。
ちなみに講習の最後には簡単なテストが行われるため、居眠りをするわけにもいかない。今更ながら、学生の頃はよくあんな生活を続けることが出来たものだと思った。
山もなく谷もなく、およそ一週間に及ぶ講習期間を無事に終えた。途中トラブルが発生するという事もない。まぁ、いまや飛ぶ鳥を落とすほどの勢いのある『ダンジョン協会』の講習会で問題を起こすような愚者がいるとも思えない。そんなのがいたら、間違いなく講習を受ける以前の問題であろう。
一息つきたいが、俺の場合はむしろこれからが本番だ。今の俺は下級探索者だ。これから中級探索者の資格を獲得しなければならない。俺の実力を図るため模擬戦が行われるそうだが、碌に戦闘訓練を積んでいない俺が受かるわけもなし。当然協会側もそのことを知っているはずだから、下級探索者の資格を得た俺に対し何らかの接触があるはずだ。はずなんだが…
「戦闘訓練に関しては檀上さんのダンジョンでも十分に積むことが出来ますよ。いきなりモンスター相手に戦うのは危険ですからね。現在こちらに来ている、手の空いている方に指導をするように話を通しておきました。そういうわけですから、講習が終わったらすぐに戻ってきてください」
服部さんに連絡したところ、そのような返事があった。彼女の言い分も最もと言えるだろう。今俺の『ダンジョン』の中には『ダンジョン協会』の戦闘員も数多くいるからな。手の空いている人も1人や2人ぐらいはいるだろう。
まぁ、彼女の場合は、研究施設の建設にサッサっと取り掛かりたいから、所有者である俺が現場の近くにいた方が色々と都合がよいからとでも思っているのだろう。
そうして1週間ぶりに自宅に帰ってその日はゆっくりと休み、翌日『ダンジョン』に向かうことにした。今日も午後からも調査員を派遣するらしく、慌ただしく準備を進めている職員さんを横目に服部さんのいる所に向かう。
「お!ちょうどよかった。今から建物の建築予定地に向かう予定だったんです。一緒に行きませんか?」
丁度良かったというよりは俺が来る時間帯に合わせて準備を進めていた、そんな印象を受けた。が、細かいことはどうでもいいか。実際俺も、どこに建築するのか気にはなっていたのだから。
「ええ、お願いします」
道すがら、俺が不在であったこの1週間の間に何か進展があったのか聞いてみた。
どうやら、『ダンジョン』入口から見えた見渡す限りの平原にはトノサマンバッタ以外の『モンスター』が生息している様子がなく、この『ダンジョン』がかな~り平穏であることが改めて証明されたとのことだった。
平原の奥に見える森にまで行けば他の『モンスター』がいるかもしれないが、距離が大分離れている為、調査はしばらくの間は後回しにされるとのことだ。つまり『ダンジョン協会』の主目的である、入り口近くの安全を確かめることに力を注いでいたという事だ。
建物を建築するつもりならそれも当然と言えるだろう。個人的には森の方にまで行って、そこの情報も集めて来てもらいたいところではあるが、まずは入口の安全を証明してもらうことが出来れば人を入れることが出来るようになる。森の調査はその後でも十分に間に合うということだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます