第12話
考えていても仕方ないので素直に聞いてみることにした。少しぐらいはぐらかされるかな?とも思ったが、意外にも懇切丁寧に教えてくれた。
「主な目的は研究施設ですね。ダンジョンの外でなら研究施設はいくらでも用意することができますが、ダンジョンの中の研究施設なんて、恐らくここ以外に用意することは出来ませんからね」
「なるほど、納得しました。確かにダンジョン内部の特異な物理法則に関しては、未だ判明していなことも多々あると聞いたことがありますしね」
「はい。流石に他のダンジョン、つまり洞窟の中の様な場所で研究をするわけにもいきませんからね。広い空間を確保することすら困難ですし、ゴブリンが突然ポップしてくる可能性も否定できません。その点このダンジョンだと、仮に突然ポップしてきたトノサマンバッタが急に襲ってきたとしても…一般の研究員でも簡単に対処することが出来るでしょうね」
確かに、『モンスター』がポップするメカニズムが分からない現状において、『ダンジョン』の中でおちおち研究することは難しいだろう。それが『元』最弱と名高いゴブリンとはいえ、それに変わりはない。
ちなみに藤原さん曰く、俺の『ダンジョン』に密室にしたテントを設置してしばらく様子を窺ってみたところ、テントの中にトノサマンバッタが発生しているということは無かったそうだ。室内には『モンスター』がポップしない仕様であるのか偶々であるのか…そういった事も含めて研究を進めていくつもりなのだろう。
「今は我々ダンジョン協会の者のみが研究施設を構える予定ではありますが、今後はどうなるか分かりませんよ?もしかしたら他の名だたる大企業とかも、ダンジョンの内部で研究施設持ちたいと思うようになるかもしれませんよ」
「つまり、企業に土地を貸すことでその企業から地代収入を得られるようになるかもしれないと言うことですか。そのための実績をダンジョン協会が作ってくれるのだと考えれば、これだけの土地を提供することも決して高い出費とは言えない、そうおっしゃりたいんですね」
何よりも、『ダンジョン協会』の大きな施設が『ダンジョン』の中にあるというのは、そこに訪れる人々に大きな安心を与えることになるだろう。いざとなれば、そこに逃げ込めばいい。そのような心の余裕が生まれれば『ダンジョン』を訪れる敷居も少しは低くなるはずだ。
そうして多くの人が俺の『ダンジョン』に訪れることになれば、それだけ儲けるチャンスが発生するという事だ。それをみすみす見逃すほど企業は甘くない。いずれは俺の『ダンジョン』に集まる人を相手に商売を始める企業も出始めるはずだ。
『ダンジョン』に訪れた人々は安全かつ確実に『スキル』を獲得し、多少なりとも『格』を上げることが出来る。企業はそんな人を相手に商売をしてお金を稼いで、俺はそんな企業を相手に土地を貸して収入を得る。みんながハッピーになるというわけだ。
「分かりました。その提案を受けようと思います。ただし、建設する場所に関しては交渉を進めて、と言うことでも構いませんか?」
「もちろんです。…と、その前に檀上さんには一つ、やっておいていただきたいことがあります」
「確か、ダンジョンを個人で所有するにはダンジョン協会で、緊急時における対応などに関する講習などを受けなければならなかったはずですね。昨日、藤原さんから聞いています」
「それもありますが…まずは、檀上さんに探索者の資格を取っていただかないと」
「…すっかり忘れていました。確かダンジョンに入るには、講習を受けて初級の資格を取っておかないといけなかったような…って、そう言えば俺、昨日と一昨日普通にダンジョンに入っちゃってますけど…大丈夫ですよね?罰則とかないですよね?」
「一昨日は当然不可抗力ですし、昨日はダンジョン協会の方と一緒に入りましたから問題ないでしょう。ですがこれからの事も考えると探索者の資格を取り、ある程度は『級』も上げておかないといけませんね。ダンジョンの所有者として、不測の事態に檀上さん個人の力だけある程度は対応できるだけの戦闘力を身に付けておいていただかないと」
『ダンジョン』に入る許可、『初級』の探索者の資格を取るだけなら『ダンジョン協会』の支部に行き、そこで1時間ほどの講習を受けるだけでもらうことが出来る。講習は無料で受けられ、かなり容易に資格を取ることが出来るのは、『ダンジョン』に挑戦する人を少しでも増やし、『ダンジョン』産のアイテムをたくさん入手したという国や協会側の思惑もあるのだろう。
ただしこの方法でもらうことが出来るのは10級であり、それ以上の級を貰うには更なる長時間の講習を受けなければならない。
ただし講習のみでもらうことが出来る級は最高で『7級』まで、つまり下級探索者の資格までである。それ以上、つまり中級以上の探索者資格を貰うには『スキル』を使った模擬戦をする必要があるらしい。
探索者資格を持つ人は日本だけでも1000万人を超えているが、そのほとんどが第10級である。つまり最初の無料の講習だけ受けただけの状態であるということだ。それでも一応は『ダンジョン』に入る事は許可されているので「今後何かあったときに~」とか、そんな軽い気持ちで受けただけの人がほとんどであるということ。そのため、10級の探索者は資格こそ持ってはいるものの、実際に『ダンジョン』に入ったことが無い人の割合の方が圧倒的に多いのだとか。
ちなみに下級探索者と中級以上の探索者の違いは主には購入できる武器に差がある。刃渡り何センチ以上の刃物だとかの、仰々しい武器を購入するには中級以上の探索者資格を得ていなければならない。下級探索者にはそんな武器は必要ないだろうという、ダンジョン協会からの無言のメッセージというやつだ。
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