第11話
「それともう一点。檀上さんが懸念されている事項について提案させてもらいたいことがあります」
「俺の懸念…?ダンジョン協会の建物の件ですか?」
「はい。条件付きではありますがその建物の建築にかかる費用、ダンジョン協会が負担しても良いと話が来ています」
「それは…非常に魅力的な提案ではありますが…その条件が非常に怖いですね。上手い話には裏があるとも言いますし」
「それほど不都合な提案ではないと思われますよ?その提案というのも、建物を建築するための土地を檀上さんに用意してもらうってことだけですから」
ますますもって意味が分からなくなってしまった。建物を用意するということは、その建物を建てる土地もこちらが用意しなければならないという事も当然であるからだ。その為の土地を俺が用意すれば、建築費用をダンジョン協会が持つって言うのはどう考えてもおかしい。
俺は余程頭を悩ませていたのだろう。服部さんが少し苦笑いをしながら俺の疑念を晴らすように説明してくれた。
「その場所が少しばかり特別ってことですよ。つまり…檀上さんのダンジョンの中の土地をダンジョン協会に提供していただけるのでしたら、その地に建てる費用をこちらが持つというわけです」
「ダンジョンの中に支社を建てるって言うんですか?そんなことが…可能なんですか?確か、ダンジョンの中に長時間物を置いていたりすると、ダンジョンに吸収されてしまうとかなんとか聞いたことがあるような…」
一時期ネットでも騒がれていた情報だ。そのため放射線廃棄物をダンジョンに長期間放置しておけばよいとか、世界中のゴミ問題が一気に解決されるとかそんな話が出回っていた。
しかしダンジョンは金の生る木だ。ダンジョンの中にそんなものを大量においてしまえば当然探索者はダンジョンに入れなくなってしまう。そんなことダンジョンの所有者も探索者も、そして『ダンジョン』の資源を欲する企業も望んではいない。そんな感じで、本当に一瞬だけ騒がれてすぐに立ち消えた話だ。
今回彼女はダンジョンの内部に建物を建てると言っている。ゴミならいくら消えても問題は無いが建物はそうではない。せっかく建てた建築物がダンジョンに吸収され、無くなってしまえば勿体ないことこの上ない。
当然、ド素人の俺ですら知っている情報だ。ダンジョン協会に所属する彼女が知らないわけがない。一体全体、何を考えてそう発言したのだろうか。もちろん、何かしらの解決方法があるのだろう。
「実はですね、協会で最近、ダンジョンに吸収されない特殊な素材の開発に成功していたんですよ。これまではあまり為になるような研究成果ではありませんでしたが、このダンジョンに関してはかなり有用そうな発明だとは思いませんか?」
「ということは…その特殊な素材を基礎に建物を建てれば、その建物はいくら時間が経とうともダンジョンに吸収されないわけですか?」
「その通りです。この新素材はこのダンジョン以外ではほとんど役には立たない、まさに檀上さんのダンジョンの為だけにあるような素材だとは思いませんか?」
俺のダンジョン以外のダンジョンは洞窟の中の様な、窮屈な環境がずっと続いている、そんな場所だ。そんなお世辞にも過ごしやすい場所とは言い難い場所に建物を建てても意味がないし、どのように活用したらいいのか分からないというのも納得できる。もちろん、ある程度の奥地に建物を建築すれば休息所にも成り得るが、奥地に行けば行くほどモンスターは強くなるため、建物がモンスターによって破壊されかねないというわけだ。
「なるほど、話は分かりました。…その、俺に提供してもらいたい土地の広さというのはどのくらいなんでしょうか?あと、出来れば入口の真ん前とかは止めてもらいたいんですが…」
「勿論、場所に関してはこちらも配慮させてもらいます。あまりにも不便になってしまえば、人の出入りが無くなる、つまり探索者から買い取ることのできる魔石の数が減ってしまいますからね。土地の広さに関しては…」
そう言った彼女が取り出し広げたのが、建物の図面が書いてある大きな模造紙だった。我が家の決して小さくないダイニングテーブルの枠に収まらないという事は、それなり…いや、かなりの広さであることが説明されずともわかる。
流石にこんなものを1日で用意できるとは思わない。恐らくは、過去に一度作成したはいいものの、何らかの要因で頓挫して今までお蔵入りになっていた、そんな所だろう。よく見れば紙はそれほど日焼けしていないにも関わらず、古い小さな折れ目などが目についた。
「まさか…こんな大きな建物を建てるつもりですか?ちなみにですが…どれほどの敷地面積を要するのですか?」
「ざっとですが、有名な某野球ドームの敷地面積ぐらいですかね」
あっさりと言ったが、かなりの広さだあることは理解した。確かに俺のダンジョンは見渡す限りの平原が続く。そのぐらいの土地なら余裕で確保できるだろう。しかし…一体何のためにこれほど大きな建物を必要としているのか疑問を抱いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます