第9話

 周囲の捜索を一通り終わらせ、『トノサマンバッタ』を何匹か捕まえ、透明な蓋つきの籠に入れて『ダンジョン』の外に出ることになった。


「藤原さん、そのトノサマンバッタどうするんですか?」


「モンスターが地表に出てきたときの反応などを確認します。かつて捕らえたゴブリンでも似たような実験をしましたが、トノサマンバッタの方が遥かに研究が進みそうです。それもまた、このダンジョンの強みと言えるでしょう」


 捕らえた『トノサマンバッタ』を満足そうに眺めながらそう語る藤原さんと他の隊員たち。『ダンジョン』から出た俺達を出迎えた隊員にそれを渡すと、その隊員は大きなテントの中に向かっていく。


 テント入口の垂れ幕をめくり上げた時、そのテントの中にこんな場所には似つかわしくないような、見るからに高そうな機械が置いてあるのが見えた。その機械で何らかの実験でもするのだろう。もしかしたら彼らのこの場所での滞在期間が長くなるかもしれない、そう思った。


 俺は藤原さんに連れられ別のテントに入る。ここは特別な機械が何も置かれていない、ごくごく普通の机や椅子が置かれている何も変哲のない場所であった。多分休息所か何かだろう。促されるままに椅子に座り、お茶の入ったペットボトルを渡される。


「檀上さんはこのダンジョンどうするつもりですか?」


 どうするつもり、か。要するに『ダンジョン』の権利を『ダンジョン協会』に売り渡すのか俺が保有したままにするのかを聞いているのだろう。売ればかなりの金額を手に入れることが出来るだろうが俺の心は決まっている。


「自分の手で管理していこうと思います。ただ今後の管理にかかる費用などの事も考えると、金銭面的に問題があることも自覚はしていますが…」


「それは『ダンジョン協会』が低金利で貸してくれるので問題は無いでしょう」


「そうなんですか?てっきりダンジョン協会は、すべてのダンジョンの権利を手中に収めたいのだと思っていました。実際、似たようなうわさも聞いたことがありますし。まさかお金まで貸してくれるとは…」


「我々ダンジョン協会とて、所詮は世俗を生きる民間団体にしかすぎませんからね。色々とやっかみを受けることもあります。『ダンジョン』の発見者、もしくは土地所有者が権利を望めば、無理に権利を奪うという事はありませんよ」


『ダンジョン協会』は『ダンジョン』が発見された翌年には設立された、元々は政府の一機関である。当時は『ダンジョン』に入る警官やら自衛官の指揮系統を統一するために暫定的に設立されたわけだが、『ダンジョン』の重要性が増すにつれてその存在感を日増しに強くしていった。


 現在では政府の手から離れて法人化され、大企業とも連携を深めている一大組織だ。政府から離れたことで自由になったこともあれば不自由になったこともある。はたから見れば急成長したといえるこの組織も、全部が全部上手くいったというわけではないのだろう。


 ちなみに藤原さん達の仲間の中には、自衛隊やら警察から出向している隊員もいるのだそうだ。『格』を上げた探索者が犯罪を犯した時、そういった者を取り締まることが出来るのは同じように『格』を上げた探索者だけ。つまり取り締まる側も強くなければ秩序を維持できなくなるというわけだ。


 出向してきた者は、出向元からも『ダンジョン協会』からもお給料が出るとかで結構人気があるらしい。おまけに『格』を上げれば肉体年齢も若返るとなれば…人気が出ない方がおかしいというわけだ。


 だったら初めから探索者になれば良いのではないか?とも疑問に思ったが、やはり安定した生活を求めるなら公務員の方が良いという考えなのだろう。ケガや病気になったとき、探索者は無収入になるが警官や自衛官はそうではないからな。志願者がいい感じでばらけるのだろう。


「確かダンジョンの近くには、ダンジョン協会の職員が在籍する建物を作らなければならない規則でしたよね。ダンジョン協会が所有するダンジョンならその費用は当然ダンジョン協会が持ちますが、個人が所有するダンジョンならその費用も所有者が負担しなければならないとか」


「ええ、その通りです。やはりダンジョンには危険がつきものですからね。いざという時、ダンジョン協会と即座に連絡を取る手段が無いといけませんからね」


 そこなんだよな、俺が金が必要であると判断した理由は。他にも、この『ダンジョン』に人を誘引するためには土地の整備費用やら色々とお金がかかる。


 基本的に個人が所有する『ダンジョン』には、その所有者が『ダンジョン』に入場料を課すことで収入を得て、そこから費用を捻出していると聞く。しかし俺はそんなやり方はこの『ダンジョン』には向いていないような気がするのだ。まだ俺の中では固まっていない草案ではあるが、俺の目指す『ダンジョン』経営の在り方のザックリとした説明を藤原さんにする。


「それは…非常に面白いかもしれませんね。それが実現すれば…このダンジョンは唯一無二のダンジョンとなりえるかもしれません!」


 良かった、プロである藤原さんからも想像以上に高評価だった。ただこれは俺個人の努力だけでは如何ともしがたいも問題が山積している。そのことも伝えると、藤原さんが良い人材を紹介してくれるということになった。

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