第8話

「『スキル』の獲得、と言いますと?」


「なるほど。檀上さんは『ダンジョン』関する知識は、あまり持ち合わせてはいないようですね」


「一応ネット調べた程度で分かる一般的な情報は持ち合わせているとは思いますが…何せ俺が今まで住んでいた近くには『ダンジョン』はありませんでしたからね。暇つぶしで多少集めていたぐらいです」


「なるほど、そうであるなら納得です。ここから先の話は、少し『ダンジョン』に詳しい方だと全員が知っている情報です」


 そう前置きしたうえで懇切丁寧に話し始めてくれた藤原さん。なんでも『ダンジョン』の死亡率の高さは無理な探索で命を落とすケースが多いが、意外にも一番最初、つまり『モンスター』を『スキル』のない状態で倒さなければならないときであるのだそうだ。


 当然『スキル』が無い状態で『モンスター』を倒すのは困難である。本来なら皆それなりに警戒して入念な準備を整えてこれに挑むが、相手が『モンスター』最弱であるゴブリンが相手だと油断して逆に殺されてしまうケースもそこそこ存在する。


 そのためダンジョン協会では最初の『ダンジョン』の探索時には熟練の探索者を雇うなどして挑むようにと広報しているが、素直に受け取らない人も当然いる。プライドがそうさせているのか、探索者を雇う費用を惜しんでいるのか。そういった人たちにこの『ダンジョン』に来てもらえれば安全かつ確実に『スキル』を獲得することが出来るというわけだ。


「最近では『ダンジョン』の探索も進み『スキルオーブ』の発見率もそれなりに高くなっては来ていますが、庶民には到底手が出るような金額ではありませんからね」


「あ、それはネットニュースで見た事があります。〈回復魔法〉の『スキルオーブ』が億単位の金額で取引されたって」


「〈魔法〉系統の『スキルオーブ』は他の『スキルオーブ』よりも高額になる傾向にありますからね。やはり皆〈魔法〉という超然たる力に憧れを抱いているのでしょう。それが〈回復〉ともなれば、欲しがる人は山のようにいますよ」


〈剣術〉や〈弓術〉といった『スキル』は本人の努力次第で獲得できる可能性がある。それは『探索者』になった後で道場に通い始め、再び『ダンジョン』に挑戦した時に新しく『格闘術』などの『スキル』を獲得した人もいるからだ。加えて、剣道の有段者が最初のダンジョンアタックでいきなり〈剣術Lv2〉を獲得する場合もあるらしい。


 しかし〈魔法〉はそうはいかないのだそうだ。『スキルオーブ』を使わなければ本人の『才能』に100%由来するらしく、どんなに『格』を上げても才能が無ければ〈魔法〉系統の『スキル』を獲得することはないし、逆を言えば才能さえあれば『ダンジョン』に挑戦し始めてわずか1カ月ほどで〈魔法〉を獲得することも出来るらしい。


「『スキル』に関しては未知の部分がたくさんありますからね。そういえば檀上さんは最初に『モンスター』を倒し、どのような『スキル』を獲得しましたか」


「俺は〈剣術〉と〈鑑定〉と〈索敵〉ですね。レベルはすべて1でした」


「なるほど、〈鑑定〉のスキルを獲得していたのですか。だからこいつの名前を知っていたんですね。それにしても…檀上さんはダンジョンの適正率がかなり高いみたいですね。その気になればすぐにでも上級探索者にでもなれるでしょう」


「適正率?ってなんですか?」


「ダンジョンにおいて『格』が上がり易かったり『スキル』を獲得しやすかったり、その目安の様な物です。同じようにダンジョン内で活動していても個々人によってスキルレベルの上昇速度が違ってきます。それを適正率と我々は呼んでいます」


 要するにこれもまた才能というわけだ。適正率が高ければ『ダンジョン』でどんどんと強くなれるし、低ければ『モンスター』をいくら倒していても強くなるには時間がかかる。


 聞けば、最初に獲得できる『スキル』の数は1個が一般的で2個がかなり優秀。俺のように最初の戦闘で3個も獲得できた人はかなりの才能があるということらしい。ただ前述したように『スキル』の獲得には己の才能も必要ではあるが、個々人の努力も必要となって来る。才能に胡坐をかいていれば強くなることは無いという事だ。


 ちなみに探索者というのは『級』に分かれている。10級~7級が下級探索者と呼ばれ、6級~4級が中級探索者、そして3級~1級が上級探索者と呼ばれている。


 下級探索者が大体アマチュアと呼ばれる存在であり、その多くが週末にちょっと『ダンジョン』に潜るとか、小遣い稼ぎにちょっと潜るとか、探索者としての活動をメインには行っていない者を指し、中級探索者以上からプロ、つまり探索者という職業で生活の糧を得ている者を言う。


 上級探索者ともなるとその年収は4ケタ万円を超える者も多数おり、まさに探索者とはハイリスク、ハイリターンな職業と言えるだろう。


 そんな職業の適正率が高いとは…褒められたことに対する嬉しさもあるが、危険な職業の才能と言われたことに対し、少しだけ複雑な気持ちにもなった。

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