目を覚ましたら全てを失っていたので新たに手に入れた最強武器『スリッパ』で無双します！

Section29 〜集落護衛闘争〜

　僕達が雄叫びを上げて魔物の群れに突っ込む。

　スリッパの先端から光の鞭を伸ばし、魔物共に向かって振る。

　おそらく音速を超えた鞭は空気を叩き、魔物共を薙ぎ払っていく。

　後ろから爆発音が鳴り響き、魔物が吹っ飛んでいるのがわかった。アミアルの魔法によるものだろう。

　前方の魔物を鞭で振り払った隙をついて魔物が2体背後から襲ってくる。すると、片方は鋭い氷柱が、もう片方はどこからともなく飛んできた矢が魔物を貫いた。

　「援護です！」

　「後ろにも気をつけてくれよな！」

　「ありがとう！！」

　みんながそれぞれの役割を果たしている。一人ひとりの連携が魔物を確実に減らしていた。

　「いまから魔物共を一掃するために魔力を溜めます！　援護ができなくなるので皆さんお願いします！」

　「まかせろってんだ！」

　「こっからが本気の出しどころだな」

　スタグの指示で狩人達が気合を入れ直す。それに頷いたスタグは杖を持って意識を集中させた。

　とりあえず僕はスタグに魔物が行かないようにしよう。

　戦線を下げ、スタグから程よい距離を保ちつつ迎え討つ形で魔物共と戦うやり方に変えた。スリッパの鞭も剣に変え、手の届かないところは狩人とアミアルに任せることにした。

　「………チャージ、完了しました！　行きますよ！」

　スタグの魔力が練り終わったらしく、スタグがそう言った。が、タイミングがまずい。魔物の相手をするのが忙しすぎて、安全圏まで移動できない！　このまま大魔法を撃たれれば僕は丸呑みになるだろう。

　……でも、ここで時間を取らせてはいけない。なんとか受けるしか……

　「行きますよ！！！『バーニング・ブラスト』！！！」

　「ま、待て！」

　アミアルが慌てて叫んだ時にはもう遅かった。

　杖の先端から空気をも焼き焦がさんばかりの高濃度エネルギーが発射され、僕ごと魔物の群れを呑み込む。

　しばらくして、砂埃が晴れる。そこには無傷な僕のみが立っていた。

　「おおっ、無事だったか！」

　「状況が状況だから仕方ないと思っていたが、生きてて良かったぜ……」

　「しかも、魔物いなくなってんじゃねぇか！　スタグさん、すげぇぜ！！」

　「いや待てよ、魔物を消し去るほどの魔法を無傷で受けるウェルズさんも……」

　狩人達は、スタグが魔物を一層したことによる喜びと、そんな魔法を浴びていて尚無傷の僕に対する混乱が入り混じったような会話をしていた。

　そんな中、スタグに近づいていく人影が……

　「馬鹿かお前っ！！　アイツがまだあそこにいたのにあんな大魔法を撃つなんて……！！」

　アミアルはスタグに掴みかかった。

　胸ぐらを掴みたかった……のだろうが、身長が足りず服をそのまま掴んでいるように見える。

　「あれは……仕方がないじゃないですか！　タイミングがタイミングでしたし……しかも、ウェルズさんなら大丈夫だと信じていましたから」

　「うん。僕は大丈夫だよ。不意を突かれない限りは攻撃を受けることはないから。心配してくれてありがとう」

　僕もアミアルの方に歩いていって、安心させるように優しくそう言う。

　「でも……」

　言いこもるアミアルの肩に手を置いて続ける。

　「僕の最強スリッパがあれば、どんな攻撃も完璧に防いでしまうのさ！　だからアミアルは心配しなくてもいいのだよ」

　と自信満々な風に僕が言うと、アミアルは「……ふふっ」と少し笑って、

　「そうだな。お前は簡単にはやられないやつだからな！　これからも安心して見ているぞ」

　と言った。

　その一部始終を静かに見ていた狩人達は、話が終わったことを察すると、少しずつ僕達に近づいてきて、

　「で……結局大丈夫なんだよな？」

　と僕に訪ねてきた。

　「全然問題ないよ。かすり傷一つないし」

　「お、おぉ……やっぱり戦士殿は強いなあ。あんな攻撃も受け止めてしまうなんて」

　「皆こんな感じなのかよ……？　やばいぜ……」

　みんなではないけどね……と心のなかで苦笑してから魔物がやってきていた方向をもう一度見る。

　……もうこれ以上は来ないようだ。でも、あんなにたくさんの魔物が来たということは、それを指示しているかもしれない魔人も近くにいるのかも。

　もう少し情報を集めないと……

　とりあえず一件落着したので、僕達三人は長の仕事場へ戻ることにした。

　「魔物の軍勢を撃退してくださったのですね！　ありがとうございます……！」

　そう言うアミュルの目にはうっすら涙が浮かんでいた。

　「あの知らせを聞いた時は、もうこの集落は終わりかと思っていましたが、あなた方がいらっしゃったおかげでここは護られました。その恩は一生忘れません」

　「お礼を言ってくださってありがたいのですが、まだ問題が解決したわけではありません。ですが、僕達が必ず解決してみせます」

　僕のその言葉でアミュルは真顔になり、頷いた。

　「……私達はもう大丈夫です。あなた達の勇姿を見て、狩人達も士気が湧いたでしょう。私達の集落は私達で守りますので、安心して問題解決に努めてください」

　「「「…………」」」

　僕達は少し黙り込んでいたが、アミュルのまっすぐな視線は僕達を信頼させるのに十分だった。

　「わかりました。集落はアミュルさんに任せます」

　「はい。あなた達のご武運を祈っております」

　アミュルは一つお辞儀をした。

　狩人達に見送られながら僕達は集落を出た。

　「魔物がたくさん来たのはこっちの方向で間違いないよね？」

　「ああ、間違いない。この道をたどってきていた」

　アミアルが一本道の向こう側を指さしながら言う。

　それにしても、魔人はあんなにたくさんの魔物をどうやって集めたのだろう……いや、まだ魔人が絡んでいると決まったわけじゃない。

　あのダンジョンのときのミラルザのような知能の発達した魔物が他の魔物を召喚したのかもしれないし、魔物の群れがたまたま超巨大な規模だった、ということも考えられる。

　そうだとしても、多数の魔物が一箇所にまとまっている、という現象を保つのはとても難しいはずだ。一体どうなんだろう……

　二人にも聞いてみよう。

　「で、どうだと思う？」

　「「何が！？」」

　僕の問いに、アミアルとスタグは振り返って目を丸くした。

　「いや何って……僕の考えについてだよ」

　「待て待て待て、私達はお前の考えについて誰からも何も聞いていないぞ！？」

　あ、そういえば頭の中で考えてただけで何も言ってなかった。

　「ごめんごめん……」

　「しっかりしてくださいよ……」

　というわけで、僕は自分がさっき考えたことを一通り話した。

　「そうですね……確かに、魔人については僕が可能性として考えただけなので、確定というわけにはいきません。が、先程のように、あの量の魔物を正確に統率できるのは魔人の可能性が極めて高い、と思います」

　「そうだな。だが、コイツの意見も一理あると思うぞ？　お前はその時いなかったが、ミラルザってヤツは言葉も話したぞ」

　「そんな事があったんですか……！？」

　驚くスタグに、アミアルが頷いた。

　「ああ。ヤツは自分でダンジョンを創り、魔物を配置して侵入者を阻んだんだ」

　「マジですか……なら、その可能性もありそうですね……」

　スタグも顎に手を当てて考え始めた。

　「……とりあえず！！　今考えてもわからないなら実際に見て考えればいい！」

　いきなりアミアルがそう叫ぶので、僕達はびっくりしてしまった。

　「……そうだね。答えは考えたら出るわけじゃない。実際に見て答えを出すことも大事だよね」

　「何ちゃっかり良いこと言ってるんですか……？」

　スタグがちょっと引き気味にそう言ってくる。僕はあえて気にしないことにした。

　「とにかく、この道の向こうに新たな情報がありそうですね。急ぎましょう」

　「ああ」

　「そうだね」

　僕達はさらに先へと進むのだった。