レッツ任務編

Section28 〜集落での情報収集〜

 「ここです」


 森を抜け、しばらくしたところで馬車が止まった。

 向こうに集落が見える……が、今魔物に襲われているようには見えない。


 「あの集落は……もう無人なのです」

 「「え!?」」


 スタグから唐突に衝撃的事実を聞かされ、僕達はあんぐりと口を開けるしかなかった。


 「魔物の暴走……それは集落の人々に甚大な被害を与えるものでした。なので、僕達のギルドの人達の援助のもと安全な土地に避難したのです」


 なるほどね……無事に避難できたのだろうか。


 「この集落にはもうなにもない……完全にもぬけの殻なのです。だから魔物がいない、という理解になると思うのですが、一つ引っかかることがあって」

 「引っかかること? 何だそれは?」


 スタグの何かを含んでいそうな声にアミアルが反応する。


 「はい。逆に『なぜ、魔物はいないのか?』という点で疑問がありますね。家の中は快適で、食料はまた近くの森から調達すれば問題ない。だから、この集落に住み着く魔物がいてもおかしくないんです。なのにそうせず、この集落は放棄されている。つまり、誰かが魔物を操っているのではないか、と考えることができます」

 「で、その操っている『誰か』が魔人である……と?」


 アミアルの言葉にスタグが頷いた。


 「可能性は十分にあります。他の近くにある集落も被害に遭っていますので、それらの集落を守りつつ、謎を解き明かしていくことにしましょう」

 「おう!」

 「わかった!」


 ひとまず、集落の建物を失敬することで一旦拠点にし、見張り番などの係を決めることで1日目は終了したのだった。




 次の日


 「今日は、近くにある別の集落に向かって情報収集をします」


 朝ご飯を食べながらスタグはそう言った。


 「その集落はまだ被害が少ないんだよね?」

 「ええ。ですが、避難するのには幾ばくもないですけどね……」


 そっか……確かに、近くの集落が壊滅したというのだから、今住んでいる場所がいつ危険にさらされるか不安になるのも無理はない。


 「じゃあ、なおさら急がないとな」

 「そうだね」

 「行きましょう」


 僕達は手早く荷物を纏めると、その集落がある方向へと歩き始めるのだった。





 僕達は森と森の間の道を歩いていた。


 「静かな場所だねぇ」

 「ああ、そうだな」

 「こういうときこそ慎重に行ってくださいね……? 一応ここも危険地帯なんですから」


 スタグが周りを見渡しながら言う。


 「そうだね……こんな感じで」


 僕は気配がした方にスリッパを投げつけた。

 ドゴッという音と共に僕がスリッパを投げた方向にいた魔物が吹っ飛んだ。


 「ええっ……?」


  スタグが目を丸くして僕のことを見る。


 「驚いてる場合じゃないよ! まだ来る!」


 僕の読み通り、草陰から沢山の魔物が現れた。


 「こんなところで消耗したくないな……手早く片付けるぞ!」

 「うん!」

 「はいっ!」


 近距離専門の僕が前に立ち、後ろに遠距離攻撃専門のスタグとアミアルが控える。


 「ふっ!」


 スリッパを投げ、魔物にあたって魔物が吹っ飛び、少しスリッパが空に浮いたところで僕はスリッパの方へ飛んだ。そのまま重力に任せて光の刃を出しつつ急降下、魔物を斬りつける。


 後ろから襲ってきた魔物はアミアルとスタグの魔法が貫いた。


 「……よし、これで全部だな」


 そこまで多くなかった。ウォーミングアップにはちょうど良かったな。


 「よし、早く行こう」





 もう少し歩いたところで件の集落に到着したのだった。




 「こんにちは、村長さんはいますか?」

 「あなた方は……?」

 「ギルドから来た者です。この森の異変について話を伺いたいのですが」


 集落の住民の一人に話しかけると、住民は僕達に向かって土下座をした。


 「あぁ、救いが訪れてくださった……! ありがたや、ありがたや……」

 「あ、えっと……」

 「す、すみません。いますぐおさのところへ案内します!」

 「は、はい……」


 というわけで僕達は村長の仕事場らしきところに案内された。




 村長は思ったより若い女性だった。


 「本日は来てくださりありがとうございます。魔物の襲撃で度々ウチの集落が危険にさらされておりまして、移住しようと考えていたことです。今ももう移住の準備が進んでいるところです」


 少し訛りを含んだ喋り方で女性がそう話した。


 「ああ、そうでしたそうでした。名乗りがまだでしたね私のことはアミュルとお呼びください」

 「よろしくお願いします、アミュルさん。僕はウェルズです」

 「私はアミアルだ」

 「僕はスタグです」


 と、それぞれ自己紹介を終えた。


 「さて、前置きはこのくらいにしておきましょ。今から本題に入らさせていただきます」


 アミュルは一拍置いて話し始めた。


 「異変が起こったのは今からおよそ10日前ほどからです。狩猟に行っていた者が血だらけになって帰ってきたのです。それも、今まで狩猟で傷を負ったことがないのに、です」


 アミュルによると、その人はかなり凄腕の狩人らしい。その人が血だらけになる……強い魔物に襲われたと考えるのが妥当だな。


 「その2日後、森から魔物が現れたと思うと、いきなり住民を襲い始めたのです」

 「なんの前触れもなく、ということか?」

 「ええ。その頃は魔物も少なく、狩人数人掛かりで撃退することはできました。ですが、つい数日前、大量の魔物が大勢でやってきて、私達の集落を荒らし回ったのです……その時、おそらく人口の半分が亡くなったと思われます」


 残った人達はどこかに隠れることでなんとか乗り切ったのだろう。

 それにしても、そんな事があったなんて……


 「次、いつ襲ってくるかわからないので、私達は警戒を解くことができません。私も数日間よく眠れていなくて……」

 「「「…………」」」


 ここの人たちも困っているんだ……一刻も早く解決しないと。


 「なるほど。他に何か情報はあるか?」

 「そうですね……魔物の規模ですが」


 とアミュルが言おうとした時、男の人がいきなり部屋に入ってきた。


 「大変です! 魔物の軍勢がこの集落に猛スピードで迫っています!!!」

 「なんですって……!?」


 アミュルは僕たちの方を振り返った。僕達はそれを見て頷く。


 「僕達にまかせてください」

 「お願いして……いいのですか?」

 「そのための僕達ですから」

 「ありがとうございます……では、よろしくお願いします」

 「「はい!」」

 「おう!」


 と言い、僕達は部屋を出た。


 「こちらの方向からです」


 男の人の案内で、魔物が向かって来ている方向へと急ぐ。




 集落の入口に着くと、狩人らしき人が何人か集まっていた。


 「みんな! 戦士たちを連れてきたぞ!!」


 その男の人が狩人のみんなに向かってそういうと、狩人全員が振り向いた。


 「何だと!?」

 「救世主か……!!」

 「ありがたや、ありがたや……」


 と人々から称賛の声が聞こえてくる。


 「もう大丈夫です。僕達に任せてください」


 そう言って僕達が前に出る。開けた視界の向こうに何か塊のようなものがこちらに向かってるのが見えた。多分あれは魔物の群れだろう。


 「いいや、俺達も加勢しまさぁ!!」

 「あなた達だけに負担はかけさせないぜ!」

 「そうだ!! 俺達も全力で戦士たちのサポートをするぞッッッ!!! 全員準備しろ!!!」

 「「「「応!!!!」」」」

 「みなさん……!」


 これで準備は整った。あとは魔物を迎え撃つだけだ!!

 どんどん塊は大きくなっていって、魔物一体一体の形がわかるようになってきた。見た所、相当多い。下手をすればこの集落は呑み込まれる。


 「行くよ、みんな!!!」

 「わかってます!」

 「望むところだ!」

 「援護は任せてください!」

 「頼んだよ!」


 魔物が集落の目前まで迫ってくる。


 待って………


 待って………


 ………………………………今だ!!!!


 「はぁっ!!!」


 僕達は魔物に向かって思い切り足を踏み出した。

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