Section25 〜相棒同士の決闘〜
アミアルはすぐさま僕に向かって高速な光弾を飛ばしてきた。
そう、今回の勝利条件は「攻撃を一度当てること」。どんな攻撃でも当たった瞬間に勝負が決まるんだ。
でも、相手の攻撃を利用するのも大事な戦術の一つだ。僕はあえてそれを避けずに跳ね返す戦法に出た。
飛んでくる向きに対してまっすぐスリッパを振る。『防護障壁展開Ⅱ』と『打撃力Ⅱ』を発動させ、光弾をアミアルに向けて打ち返す。
アミアルが撃ち出したものよりも速度の速いエネルギーの塊がアミアルに向かう。アミアルは僕がそうすることがわかっていたというふうに横移動でそれを避けた。
「流石にわかるかぁ」
「当たり前だ。中途半端な攻撃は当たらないと思っておいたほうが良いぞ」
「それは僕からも言えることだね」
こんどは僕が攻める番だ。
僕は脚に魔力を纏わせ、一気に踏み込むとアミアルの方へ一瞬で跳んだ。そして、スリッパから光の刃……ではなく光の棒を伸ばすと、アミアルに向かって力よりも速さを重視して振った。
アミアルはそれを『遮断』の刻印魔法を出現させた右腕で受けると、左手に雷を纏わせた。
僕は足の裏に魔力を集中させ、空中を思いっきり蹴って一度宙返りすると、スリッパの『防護障壁展開』を円形に発動させ雷から身を守った。魔法の効果が切れた瞬間にスリッパを後ろに投げ、『座標共有Ⅱ』を発動させて瞬時にアミアルから距離を取った。
ふう、つまり正面からの攻撃は通らない、と。
さて、どうしたものか……
「奥の手を出すぞ!」
「え、早くない……?」
という僕のツッコミも虚しく、僕の周りに円形に、かつ二重で刻印魔法陣が展開された。
恐らく外の方は僕が『座標共有』で逃げられないようにするものだろう。
僕はまた『防護障壁展開』を周りに展開する。
「その障壁は無駄だぞ!」
アミアルが前スタグにもやった通り、熱線で僕の障壁を焼き切ろうとした……が、
「あれ……? ど、どうして」
何度熱線を浴びても、僕の障壁は壊れるどころか、傷つくこともなかった。
「そんな……? 一体何が」
「あの攻撃で障壁が壊れないだと?」
あのゼイランも驚いている。
「……そうか、なるほどね。それが本当だとするととんでもない話だけどね」
アンテルイは一つ心当たりがあるようだ。
その心当たりは正しいんだけどね。
「「『不壊』」」
僕とアンテルイの声が重なる。
そう。僕の『防護障壁展開』に『不壊』を重ねがけすることで、どんな攻撃を受けても壊れない防護障壁ができる、というわけ。
言うなれば、『スリッパ一つでお手軽最強バリア!!』
……うん、言ってることがやばいのは自覚してる。
「え……ってことは、今ウェルズさんが張ってる障壁は、何があっても絶対に壊れない、ってことですよね!? それって、かなり……」
「ああ、かなりヤバイ。ウェルズのやつ、とんでもないことをしてくれるじゃないか……」
ゼイランがメニアの言葉の続きを言う。使っている僕自身がヤバいと思っているんだから第三者から見てもやばいのは当然か。
「だが、どうする? このままではここから動くことはできないだろう」
そう、アミアルの言う通り。今も刻印魔法陣からは熱線が照射され続けている。このままだと、お互い負けることはないけど動けない。
……でも、ここで力を発揮するのがパワーアップした『座標共有』だ。
僕はスリッパを振りかぶると、僕は『魔法貫通Ⅰ』を使い刻印魔法の外にスリッパを投げた。
「は? ウェルズのやつ、何やって……」
「刻印魔法を貫通した!? しかも、お前、そんなことしたら……」
「ええ!? スリッパから手を放しちゃいましたよ!?」
みんなが口々に驚きの声を発する。
でも……
「「「……なんで?」」」
僕を守る防護障壁はまだ僕の周りに残っていた。
僕は次の瞬間『座標共有』で円形に並んだ刻印魔法陣から脱出した。
「もう……驚くのも疲れちゃいましたよ……一体、何が起こっているんですか……?」
メニアはその場にしゃがみこんでしまった。
「実は、『座標共有Ⅱ』に秘密があるんだ」
元々『座標共有Ⅰ』では自分とスリッパしかお互い座標移動ができなかった。
でも、レベルが上がったことにより、僕とスリッパの間で「魔法」と「特殊効果」の座標も共有できるようになった。つまり、手元にスリッパがなくてもスリッパを起点とした魔法を使えるし、僕の周りに障壁を張ることもできる、ってわけ。
このことを説明した後にみんなの口から出てきたのはため息だった。
「はぁ……それってつまり『何でもあり』ってことだよな?」
「スリッパって何でしたっけ……?」
「つくづく意味がわからん……」
「うーん、今のウェルズ君には勝てない気がするよ……」
この時点で既にとんでもない能力を持っているけど、このスリッパはまだ成長するような気がする。一体どこまで強くなるんだろう……
「……なぁ、降参してもいいか?」
アミアルがげんなりして訪ねてくる。
……まあ、仕方ないかもね。既に僕には攻撃が通らないことが判明したのだから、勝ち目がないと判断したんだろうね。
「じゃあ、アミアル、そっちの方はどう思ってる?」
「そっちの方……? まさか」
アミアルは少し動きを止めた。みんなが訝しむ中、しばらくするとアミアルはため息をついて、
「はぁ……まだ続けたいらしい」
とぼやいた。
やっぱりそうでなくっちゃ!
「じゃあ、続けるかい?」
「仕方ないな……そのかわり、アイツと替わるがそれでいいか?」
僕は少しまずいな、と思った。カフィアはまずくない? 戦ってるのを見たことがあるけど、かなり強かったよ? 僕と僕のスリッパで勝てるかな……
……いや、僕は自分の力とスリッパを信じないといけない。相手が誰であろうと、勝つ!!
「うん……もちろん良いよ」
「そうこなくっちゃな。では、私は見ていることにするよ」
そう言うと、アミアルは俯いた。次顔を上げた時、その少女から感じるオーラがまるっきり変わっていた。
「……なかなか、成長したみたいだね。こんどは私の番だよ」
「雰囲気が変わった……?」
ゼイランが不思議そうに呟く。
「ん、そういえば、自己紹介がまだだったね。私はカフィア。もう片方の私だよ。よろしくね」
カフィアはそう言うと優雅にお辞儀した。
「これが君の本気、というわけだね。君を取り巻く魔力がずっと大きくなった。とても興味深い」
アンテルイも面白い、といった風に遠くから眺めている。他の場所で特訓していただろう人達も僕達の戦闘を見物しに来ている。
「……さあ、続きを始めよう」
僕はスリッパを構えた。
「望むところ! というわけで早速!」
カフィアかま腕を振ると、刻印魔法陣が5つ現れて、そこからつらら状の氷が発射された。僕はそれを体を捻って避け、いくつか叩き落としながらカフィアに迫る。
間合いに入る直前に急停止し、右に踏み出しながらスリッパを左に投げる。スリッパの方に『座標共有』で飛ぶと見せかけて僕はあえてスリッパを引き戻し、カフィアの方にスリッパを振ろうとした。カフィアはそれを読んでいたらしく、時間差無しに至近距離で光の球を発射した。僕はギリギリのところで地面を踏み出して避けるとすぐさまスリッパを投げてその場所へ飛んだ。
……ためだ、ぜんぜん隙がない!!
「こんどは私が攻めるよ!」
カフィアがそう言うと、突如僕の周りにいくつかの刻印魔法陣が現れた。それは眩い光を発すると、轟音と共に大爆発を起こした。
「ちょっと、カフィア!? 結構殺る気まんまんだよね!?」
「どうせ防げるんだから良いでしょ! 次行くよ次!!」
そりゃ防ぐけど、防いでなかったら死んでるよ……! と心のなかでぼやきながら次の攻撃に備える。
……何も起きない……?
下かっ!!!
僕は慌ててその場を離れた。すると、さっきまで僕がいたところには鋭い氷の山ができていた。
もう少し遅れてたら間違いなく氷漬けになるか、鋭い氷に貫かれて死んでた……
避けてばかりじゃいられない……! どんどん攻めないと!
なにか……思い出せ……記憶を!!!
その瞬間、僕の頭の中をなにかが駆け巡った感覚がした。
「……ふっ!」
僕はもう一度カフィアに向けて足を踏み出した。
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