Section26 〜勝負の行方〜

 カフィアに向かう僕に対して、カフィアは容赦なく攻撃を続けた。

 光弾、炎弾、風刃、雷撃、水刃、石礫、氷柱、あらゆる魔法が僕を襲う。僕はそれを身体を僅かにずらすだけで全て避け、叩き返し、叩き落とし、障壁で防いで攻撃をやり過ごしながら進む。

 地面を踏んで高く跳び上がったところを刻印魔法陣に囲まれる。そこから様々な攻撃が僕に向かって降り注ぐ。僕はスリッパを握り直すと、『シャープネスⅡ』にてそれを一瞬の間に全て斬った。

 そうそうこの感じ! 身体が思い通りに動く!!


 「速度が上がった……?」


 メニアがそうつぶやく。


 「ウェルズ君がなにかに気づいた……いや、ここはと言うべきだね」


 アンテルイは僕が戦闘においての身体の使い方の記憶を思い出したことに気づいたみたいだ。


 「どうしてここで思い出すのかな……まあ、いいよ。それでも私は勝ってみせる」


 カフィアが刻印魔法陣を展開する。

 何をしてくるのか。僕はそれを見極めようとした……

 その時

 僕の手からはスリッパが消えていた。


 「………あれっ」


 見ると、カフィアのすぐそばに僕のスリッパが浮かんでいるのが見えた。


 「ちょっ、返してよ!」


 『座標共有』でスリッパを引き戻した……でも次の瞬間、またスリッパは一瞬でカフィアの元へ帰っていった。


 「ええっ、そんなぁ!」

 「ふっふーん、コレがなければウェルズ君は攻撃できないもんね〜。それなら私が持っていればいいだけのこと!」


 よく見てみると、僕のスリッパのすぐ近くに刻印魔法陣があった。恐らくそれでスリッパの座標をあそこに固定しているらしい。

 これは……まずいね……


 「さあさあ! 全部避けられるかな?」


 大量の刻印魔法陣が展開される。僕は走り出した。

 熱線を飛んで避け、着地した所に襲ってくる氷柱達を後ろ宙返りで回避する。

 足元に刻印魔法陣が現れたのを見ると、僕は咄嗟に後ろに飛び退き、その地点が大爆発した。視えづらい風刃は『座標共有Ⅱ』によって転移させた防護障壁で防いだ。


 「アレバリアを使えちゃうのが面倒なんだよね……なんとか遮れるものはないかな」


 攻撃を続けながらもカフィアはそう呟く。

 遮られるものなんて見つけられたらおしまいだ。その前に早く取り返すか決着をつけないと!

 実は僕は少しずつ『準備』をしていた。視界の端っこでスリッパの『向き』を確認しつつ攻撃を゙避け続ける。


 「なんで当たらないの!? 早く……負けを認めてよ!!」


 だんだんカフィアがムキになっていってる気がする……まあ結構余裕な動きで回避しているからイライラするのも無理はないか。

 魔法陣は元々激しい戦闘に向いていない。なぜなら、一度展開したらそれを動かすことは難しく、僕のように動き回る相手に対して攻撃を当てづらい。それは刻印魔法陣でも例外ではなかったらしい。だから、こうやって広範囲魔法や魔法陣を用いない攻撃をしているわけだけど、距離がある分避けやすいから難なく躱される、ってわけだ。


 「というか、あんなに激しい戦いをしているのに全然こっちに攻撃が飛んでこないんですけど……? ちゃんと避ける準備はしているのに」

 「ちゃんとそこも調整しているんだろうな。やっぱりバケモンだ。まあ、もし飛んでこようもんなら恐らく避けられずに即死だろうけどな」


 うん……避ける間にちょっと聞こえてきたゼイランの言葉には大いに頷けることがある。

 多分この攻撃、当たったら間違いなく死ぬ。多分掠っただけでも重症だ……

 だからこそ神経が研ぎ澄まされてこれらの攻撃を避けられているんだろうけど。

 でも、この集中がいつまで続くかわからない。そろそろ決着をつけよう!

 カフィアが怒りと焦りで周りの注意が散漫になったところで、僕はスリッパに念じた。

 スリッパの先端から……光の球を!

 『座標共有』の新たな能力によって共有された魔力がスリッパの中で圧縮され、それが撃ち出される。


 「うっ……!?」


 攻撃に集中していたかスリッパのことが意識から外れかけていたところを背後から攻撃され、慌ててそれを避ける。

 そこで攻撃が薄くなったところを急接近し、手刀でカフィアを狙う……


 「くっ……!」


 カフィアが反撃しようとするが、僕の狙いはカフィアに手刀を食らわせることじゃない。急ブレーキをかけ、『魔法貫通』でカフィアの刻印魔法陣を振り払いつつ『座標共有』で手元に戻す。


 「しまっ……」


 またカフィアは僕からスリッパを奪おうとする。が、僕は刻印魔法陣の狙いが定まる前にスリッパを投げ、その場に転移した。その後も、何度か投げては転移しを繰り返し、カフィアを撹乱させる。


 「あーもう! あっちやそっちをを行ったり来たり!」


 ことごとく作戦を潰されてカフィアはもう涙目になってしまっている。


 「もう許さない! 潰してやるっっっ!!!」

 「そんな物騒なこと言わないで!?」


 あー、ヤバい。カフィアを完全に怒らせちゃったみたい。少しでもしくじると終わる。

 カフィアが手を挙げると、一つの巨大な刻印魔法陣が上空に現れた。


 「させるかっ……!」


 攻撃が始まる前に決着をつけようと、カフィアに向かってスリッパを振る。が、スリッパがカフィアを捉えた瞬間、カフィアの身体は刻印魔法陣がバラバラと砕け散って消えた。


 「なっ……」

 「私はここ」


 上から声が聞こえてきたので、見上げてみると、カフィアが刻印魔法陣よりも上空に


 「私を怒らせた罰を受けなさい。運が良ければ命は助かるかもね」


 あーっと、もしかしてこれ僕死んだ?……


 「ちょっと待ってカフィア、試合の趣旨」

 「じゃあね」


 刻印魔法陣ががひときわ強く輝くと、エネルギーの塊がそのまま僕のもとに降ってきた。

 僕は『防護障壁展開』を発動する……

 って、重い!!! こんな魔力量、どこから湧き出てるんだ!?


 「ちょ、このままじゃウェルズさん死んじゃいますよ!」

 「どうする、一旦やめさせるか?」


 メニアとゼイランがオロオロしている。が、


 「いや……ウェルズ君は死なない」

 「「えっ?」」


 アンテルイの一言でふたりとも動きを止めた。

 

 「ぐっ……」


 まずい……いくら障壁が強くても、僕が潰れてしまったら意味がない。恐らく何を言ってもカフィアはこの攻撃を止めないだろう。これがいわゆる『ジリ貧』ってやつなのか……?

 これは……流石にまずいか……?

 と、思ったその時、

 いきなり攻撃が止んだ。


 「えっ?」


 すぐさま上を見てみると、カフィアが動きを止めていた。

 魔力切れ……? いや、多分葛藤だな、自分自身アミアルとの。


 「あっ……」

 「カフィア!?」


 ふとカフィアが体制を崩すと、そのまま落下を始めた。

 なんとか走っていき、丁度のところで受け止める。周りからは野次や口笛などが聞こえてくるが、今はそんなことはどうでもいい。


 「大丈夫かい?」


 呼びかけると、カフィアはすまなさそうに笑った。


 「うん……ごめん、やりすぎた。アミアルちゃんにも怒られちゃったよ」

 「流石に死ぬと思った……」

 「あはは……受け止めてくれてありがとう。じゃあ、この勝負は私の勝ちということで」

 「えっ、どういう……」


 こと、と言おうとした瞬間、アミアルの指が僕のおでこを弾いた。


 「あ」

 「……勝負あり! 勝者、アミアル!」


 アンテルイは笑いをこらえながら審判として判決を下した。

 周りはしばらくしーんとしていたが、少しずつ拍手の声が上がってくると、裏庭全体は拍手の音に包まれた。


 「あっけない終わり方だったな……」

 「ですよね……決め手がまさかのデコピンなんて」


 僕も驚きだよ! さっきまでのアレは何だったの!?

 なんだか複雑な気分になっていると……


 「……ねぇ、そろそろ降ろしてくれない?」


 という声が聞こえてきた。


 「ああ、ごめんごめん」


 なんだか同じような状況になったことがあるような、と思いながらカフィアを降ろす。


 「良い勝負だったね」


 カフィアが微笑みながら僕に言う。


 「そうだね……結局負けちゃったけど」

 「ふふ、『やってやった!』と思ったよ」

 「完全にしてやられたよあれは……」


 こうやって僕達は戦いの余韻に浸っていた……


 「お疲れの所失礼しますが」


 と後ろから声が聞こえてきたので、二人で振り返ると、そこには顔を真っ赤にして震えながらそこに立つミルカがいた。たぶん、超怒ってる。

 その理由は……


 「な…、なんだい?」

 「地面、どうする、つもりですか」


 そう。さっきのビーム攻撃が地面を焼き、辺り一帯が焦げてしまっていた。ところどころ赤くなってしまっているところもある。


 「ごめん……私のせい」


 カフィアがゆっくりと目を逸らす。


 「今すぐっ、元に! 戻しなさい!」


 ミルカの怒号が辺り一帯に響き渡るのだった。

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