Section24 〜任務前の閑話2〜
僕達は早速ギルドの建物まで来た。
「おや、ウェルズ様にアミアル様、そしてメニアまで。今日はお休みの日では?」
「いや、今日はコイツが言いたいことがあるそうだ」
と言うと、アミアルはメニアの背中を押した。
「わっ!?……えぇ、と、うぅ……」
いきなりミルカの前に突き出されたメニアはもじもじしてしまった。対するミルカは優しい表情でメニアの言葉を待っている。メニアは覚悟を決めたように拳を握ると、口を開いた。
「……あのっ! あ、ありゅがとうごらいますっ!!」
「「「……なんて?」」」
3人揃って聞き返してしまった。噛み噛みだった。
「あっ!? すみません……」
メニアは顔を真っ赤にして小さくなってしまった。
「ほらほら、お前なら言えるはずさ」
「うぅ……」
メニアがもう一度ミルカの前に立つ。
「あのっ、これを言うのも今更なんですけど……ありがとう、ございます。あの時、私とミルカ先輩が初めて会った時、塞ぎ込んでいた私に希望を見せてくれた……そのことにずっとお礼が言いたかったんです。改めて、今までありがとうございました! そして、これからもよろしくお願いします!」
とそこまで言い終わると、メニアは大きく例をした。
「……私も、メニアの働きにはとても感謝しています。皆さんがやりたがらないような仕事も進んで『やりたいです』と言い、雑用も自ら買って出ていましたからね。働きすぎていつか倒れるんじゃないかと心配になっていましたが、そんなこともなく頑張ってくれていました」
ミルカは昔を懐かしむように言葉を続ける。
「かなり強い精神的なショックを受けていたようで、最初は口数も少なかったですが、少しずつ同僚の皆さんと馴染んでいっていましたね。本当に立ち直りが早くて私ですら驚いてしまいました。恐らく私ならもうしばらくは立ち直れなかったでしょう」
「いえ、それは先輩や同僚が優しく接してくれたからで……」
「それもあると思いますが、自らの夢が惜しくも叶わないという事実を突きつけられた上で新しい自分の姿、居場所を見つけることができたのは本当に凄いことです」
「それも、全部っ……先輩が……」
メニアの声がだんだん震えてきたのがわかった。
ミルカはカウンターから出ると、真剣な顔でメニアの前に立った。
「あなたは、一つ勘違いをしているようですね。私は一度もあなたに居場所を用意した覚えはありません」
「えっ?」
目に涙を浮かべたメニアがミルカを見る。
「私は『冒険者近くで見守れば良い』とは言いましたが、一言も『私のところに来い』とは言っていません。まあ、働き手が足りなかったので来てほしいという気持ちはありましたが……私はたまたまここに来たあなたが魔法を使えずにショックを受けている、という話を聞いて出向いたのみで、少し助言をさせていただいたまでです」
「そんな……てっきり先輩が私のためにわざわざこの場所を用意してくださり、優先的にここに入れさせてもらったのばかり……」
ミルカは首を横に振って言葉を続ける。
「いいえ。その後、あなたがここに入りたい、と言った時、もちろん選考はしましたが、あなたのために
「…………」
ミルカはメニアの肩に手を置いた。
「あなたは強いのです、メニア。自信を持ちなさい。だからこそ今のあなたがいるのです。誇っても良いのですよ。今までよく頑張ってきました。私からも改めて感謝の意を表したいと思います」
「う……うぅ………っ!!」
メニアはもう堪えきれないという風にミルカに抱きついた。声を上げて大泣きするメニアの頭ををミルカはずっと撫でていた。
「これは……良いものを見たな」
「ふふ、そうだね」
この状況にこれ以上の言葉はないと僕とアミアルはわかっているので、メニアが泣き止むまで僕達は二人を見ていたのだった。
「すみません……いきなり泣き出しちゃって」
メニアは目を赤くしながら小さくなってしまっていた。
「いや、たまにはこういうこともあって良いさ。毎日頑張っているんだろう? 溜め込んでいても良いものはないぞ」
「そうですね……自分の感覚でも、ちょっとスッキリしました」
「ええ。そうですね。私の仕事服がかなり汚れてしまったことを除けば、ですけど……」
替えの服に着替えたミルカが微妙な声音で言う。僕達もなんとも言えない気持ちになった。
そう。例のことがあったあと、ミルカの服は涙やら鼻水やらで大変なことになっていた。
「ほ、本当にすみません……恥ずかしい……」
メニアがもっと縮こまってしまう。
「良いのです。メニアには感謝してもしきれないですからね。服の一枚二枚で怒れませんよ」
「先輩……」
またメニアは目に涙を溜めてしまった。
「……あ! そうだ! 先輩、今ってみんなはいますか?」
「えぇ。何人かは待機していますよ」
「わかりました! ありがとうございます! 行ってきます!」
と言うと、メニアはスタッフルームに入っていってしまった。みんなメニアが何をしたいかわかっていたので、止めることはしなかった。
メニアは満面の笑みでスタッフルームから出てきた。
「いやー、心が楽になりました!」
「おぉ、良かったな」
「いきなりお礼を言っちゃったので訝しがられてしまいましたが、その後にしっかり説明したら、みんなにわかってもらえました」
「よし、これで全部解決かな?」
「そうですね!」
メニアはこれまでにないほど嬉しそうだ。みんなに言いたかったけど言えなかったことを改めて言ったからだね。
「あ、そうだ、ウェルズさん、アミアルさん、明日からの任務ですが」
「うん?」
「何だ?」
「私も同行させていただくことになっています」
おぉ、メニアが見守ってくれるんだ。かっこ悪いところは見せられないな……って、なにを言っているんだ僕は……
「そうか、よろしくな」
「はい!」
『メニアに会いに行く』というたった一つの思いつきがメニアの悩みを解決した。任務前だけど、こういうのも良いな。
「……さて、私達の目的も一つ解決したわけだ。さあ、始めるぞ」
「……え? 何を?」
「忘れたとは言わせないぞ。まあ、半分諦めていたが……明日のための準備がまだ終わってない」
僕は少しフリーズした後……
「え、もしかして、今からやるの……?」
僕は錆びてしまった扉を開けるときのような音を立てながらアミアルの方に振り返った。
「そりゃあ、もちろん。時間もないんだ。さっさと始めるぞ」
「えぇ〜、やっぱりか……」
僕はがっくりとうなだれるのだった。
流石に時間的な関係(お昼の時間)もあるので、一度昼食を摂りアミアルも任務用の服装に着替えた後、アミアルとの戦闘訓練をしようとしたんだけど……
「すみません……今裏庭が空いてなくて」
「「ええ!?」」
「今日は大きな任務の前日なので……皆様が施設を利用しているのですよね……」
理由が理由だから仕方ないとはいえ、覚悟を決めた矢先にこれ……? それなら最初から言ってよミルカさん……
「ど、どうする? いつものトレーニングだけにするか?」
「うーん、そうするしか……」
と僕達が絶望しかけていたその時、
「おお、久しぶりだなお前達。元気にしていたか」
という聞き覚えのある、とても頼もしく太い声が聞こえてきた。
「久しぶりゼイラン!」
「以前は毎日のように会っていたのに数日間姿を表さないなんて妙だな、と思っていたところだ」
「おいおい……俺も暇じゃないんだぞ、前まではお前たちがまだこの街に慣れていないという理由で様子を見に行ってやっていただけだぞ」
ゼイランがやれやれと首を振る。その仕草もゼイランらしく、懐かしい気持ちになった。
「……で、お前達、裏庭を使いたいんだろう? 今俺達のグループが使い終わったところで。今なら空いているぞ」
「本当!? それを伝えに来てくれたの?」
嬉しくなってゼイランに詰め寄ると、ゼイランはきまりが悪そうに頭を搔くと、
「いや……意外と本当にたまたまだ。運が良かったな、お前達」
とつぶやいた。
「うん! ありがとう! ほらアミアル、行くよ!」
「お、おう……」
僕は覚悟が無駄じゃなかったという嬉しさで生き生きと裏庭に向かうのだった。
「さあ、始めるよ?」
「ああ。私も準備できている」
僕とアミアルは少し離れて向かい合っていた。
「お二人の戦い……楽しみです!」
メニアも期待に目を輝かせている。
「俺もお前達がどれだけ成長したか見てやろう」
メニアの隣にはゼイランが……
って、
「「ゼイラン!?」」
僕達は一斉にゼイランの方を向いた。
「ん? 何かあったか?」
「あー、いや、さっき別れたものかと……」
「む、あぁ、なるほどな。俺も相棒同士の戦いがどのようになるのか気になってな。何か問題があるならば俺は帰るが……」
「いやっ、全然大丈夫! 逆に見てもらえるのは光栄だよ」
僕がそう言うと、ゼイランはうむ、と頷いた。
「うんうん! じゃあ、早速始めようか」
いつの間にかそこに立っていたのは、ギルド長のアンテルイ……
ん!?
「「「「アンテルイ様ぁ!?!?!?」」」」
この場にいる四人が一斉にアンテルイの方を向いた。
「おや? 来ちゃだめだったかい?」
「あ、いや、そんなことはないです……っていつからにいたんですか!?」
「ん? 君達がゼイランと話している頃からいたけど……気づかなかったの?」
全然気づかなかった……恐らく無意識のうちに気配を消していたんだろうけど、すごすぎる……
今度からはもっと周りに注意するようにしよう。
「それはともかく、僕も君達の戦いに興味があるからね。僕以来の『一度に星が2つ増えた人達』の戦いを見てみようと思って」
「「「………」」」
僕とアミアルとメニアは黙り込んだ。
その話を持ち出されるたびになんだか居心地が悪くなる……本当に色々ありすぎて。
「……とりあえず、早く始めようぜ。時間もないことだしな」
「そうだね。他のここを使いたい人にも迷惑だし」
「オッケー。じゃあ今回は僕が審判を務めるとしよう。ルールについてはどうしようか?」
「とりあえず攻撃を一度でも当てたら決着、でどうだ?」
「いいね。じゃあそれでいきます」
アンテルイは心得た、と頷くと、手を前に出した。僕は懐からスリッパを取り出し、アミアルは両手を構えた。
「なんだか毎回見ているとシュールだな」
ゼイランさん……このコメントは今はいいから!
「あはは……さて、では勝負を開始しよう。……始め!」
アンテルイが手を上に振り上げるのと同時に僕達は動き出した。
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