Section23 〜任務前の閑話1〜
次の日、僕達はメニアに会うことにした。前もらった手紙に住所が書いてあったので、それを頼りにメニアの家に向かった。ちなみにアミアルは例のロリータ服だ。いつもは裸足だったけど、今回は服の色に合わせた靴を履いている。移動中、何人かから視線を感じたけど、気にしないふりをするのが大変だったのはまた別の話だ。
「ここみたいだね」
「ああ、そうだな」
もう一度手紙を確認する。
うん、間違いない。
見たところ、結構豪華な外装だ。思ったよりお金持ちなのかな?
「⋯⋯よし、行こう」
ダンジョンに入る時みたいに緊張していることに心の中で苦笑しつつ、ドアをノックする。
はーい、という声が聞こえてきて、しばらくすると扉が開いた。赤い髪が扉からひょっこりと覗く。
「えーっと、どちら様で⋯⋯って、ウェルズさんとアミアルさん!?」
メニアは僕達を見た途端ピシッと姿勢を正した。
「うん、そうだよ。久しぶり。あとそんなに堅くならなくてもいいよ」
「い、いえいえ! あなた達は私の命の恩人ですから⋯⋯あ、あと、お久しぶりです」
そういうとメニアはぺこりとお辞儀した。
「あっ、いつまでもここにいるのもなんですし、どうぞあがってください」
「え、いいの? じゃあお言葉に甘えて、お邪魔します」
「私も邪魔するぞ」
というわけで、僕達はメニアの家にお邪魔することになった。
建物の中もかなり綺麗だった。目立った埃が見られない。毎日しっかり掃除してるんだなぁ。メニアの几帳面さが伺える。
「お茶を出しますね。あそこに座って待っていてください」
メニアが指差したところにちょうど椅子が3つあったので、僕達はそこに座った。
「綺麗だな」
「そうだね。正直言って意外だよ」
「まさかあいつがこんな家を持っているとはな⋯⋯建てるのにかなり金がかかっているだろうな」
「うん。どうやってお金を稼いでるのか気になるね」
そんな話をしていると、キッチンの方から「はっくしょん!」という音が聞こえてきた気がした⋯⋯
「お待たせしました~」
メニアがカップを3つトレーの上に乗せてやってきた。
僕とアミアルの前に湯気の立ち上るお茶が入ったカップが置かれる。
「ありがとう」
「いえいえ~、わざわざ来て頂いた心ばかりのお礼ですよ」
せっかく用意してくれたんだ。頂かないのも失礼だろう。
「いただきます」
カップを持ち上げて一口啜る。熱いなかでも、マイルドな香ばしさが口の中に広がる⋯⋯
「ん、美味しい!」
アンテルイの邸宅で飲んだのも美味しかったけど、こっちのもまた別の美味しさがあった。
「わ、嬉しいです」
「確かに美味いな。何を使ったんだ?」
「うちはアッサムですね。定期的に実家から送られてくるんです」
「へえ、なるほどね」
ほんとはよくわからないけど、一応そうやって答えておく。
「では、私も座らせていただきますね⋯⋯そういえば、アミアルさんの服、可愛いですね」
「ありがとう、昨日買ったものなんだ」
「そうなんですか!? いいなぁ、私はこういうのあまり似合わないんで……」
メニアがキラキラと目を輝かせてアミアルの服をまじまじと見ている。
「着てみると似合うかもしれないぞ。後で店を教えてやる」
「よろしくお願いします!!」
メニアが机に頭をぶつけるんじゃないかという勢いで頭を下げた。僕達はそれを見て苦笑いをするのだった。
「さて、そうと決まったところで……一つ気になったのだが」
アミアルがお茶を一口飲んでから話し始めた。
「はい、何でしょう?」
「そういえば、さっき『実家から送られてくる』と言っていたよな。家族とは離れて暮らしているのか?」
「はい。アルフダルワッドから少し離れたところに小さな町があるのですが、私の両親はそこに住んでいるんです。よく手紙のやり取りをしたり、色んなものを仕送りしてもらってます」
「つまり、ここに住んでいるのは君だけ……?」
「そう……ですね。長い間ずっと一人で、しばらく実家に帰れていません」
メニアはどこか遠くを見ながらそう言った。その後、何かを思い出したかのように、
「アミアルさんって、すごいですよね。本来ならば杖や魔導書などの補助用具がなければ魔法を扱えないはずなのに、アミアルさんはそれらを使っているように見えません。それなのにあんな大規模な魔法を……」
僕は真実について言ってもいいのか視線でアミアルに問いかけた。アミアルは一瞬迷いを見せた後首を横に振った。
メニアはカップの中の水面を少し眺めた後、
「あの……忙しい中せっかく来てもらったのですが、私の話を聞いていただけますか?」
と僕達に訪ねた。
「も、もちろん、聞かせてほしいな」
「ああ。聞かせてくれ」
僕たちのこの答えを聞くと、メニアは頬を緩ませて、
「はい。ありがとうございます」
と話し始めた――――
私は小さい頃からずっとあなた達と同じような冒険者になりたかったんです。私が最初そのことを言ったとき、両親、友人共に強く反対していました。
もちろん危険だということはわかっていました。ですが私は何としてでも私の夢を叶えたかった。だから、毎日家庭のお手伝いをする合間に少しずつ特訓やトレーニングをしていました。
そしてついに働く年頃となった私は家を飛び出し誰も私を止める人のいないこの地に来たのですが……
私は冒険者になれませんでした。
………私は魔法が使えない体質だったのです。
道具がなくても使える魔法はおろか、初心者専用の『魔法名を唱えるだけで魔法が発動できる魔導書』を用いても私は魔法を発動させる事ができませんでした。
もちろん自己身体強化系もだめで、私はそのことを知った時ショックのあまり宿に閉じこもってしまい、恥ずかしいことですがしばらく誰かと会話したり、食事すら摂っていませんでした……
ですが、そんな私を救ってくれたのが、ミルカ先輩でした。
「戦えないのなら、それを見守る役目に付けば良いのではないか」と言ってくださったのです。
私が鍛えてきた体力なども先輩は見込んでおられていました。流石はミルカ先輩の観察眼、といったところですね。
なので、私は陰から任務中の冒険者を観察し、情報収集や評価をする役職についたのです。
実は、メンバーがピンチのときに本部に連絡をするのも私の仕事なのです。……おっと、仕事について話しすぎてはいけませんね。
もともと私が怖いもの知らずだったこともあってその仕事は私にとても合っていました。戦う事はできないけれど、陰から戦うかっこいい冒険者様の姿を見る、というのもなかなか良いな、と思っています。
本当にミルカ先輩には大感謝です。こうやって私の居場所を見つけてくれたわけですから。
ギルドの『運営側』にいきなり編入され戸惑っていた私を受け入れてくれた同僚達にも感謝ですね。
その頃はまだショックが完全に抜けていなくてあまり他人と話すことができていなかったので……でも、諦めずに私と接してくれた。私の周りを覆っていた鎖を少しずつ外してくれたことには返しても返しきれない恩があると思います。
あと、冒険者様にもお礼を言いたいですね。私が叶えることができなかった私の理想の姿を見せてくれた。
そして、私を救ってくれたあなた達。あなた達でなければ、おそらく私は死んでいました。実際あの時ダンジョンの罠にかかってしまったのは事実でした。私には外に出る方法がなかったので、このままでは少なくとも私は助かっていませんし、実は他の私と同じような人達も来ていたのですが、その人達もそのまま果ててしまっていたでしょう。
「―――皆さんには感謝してもしきれない恩があります。本当に、本当にありがとうございました」
そう言うと、メニアは僕達に深々と頭を下げた。
僕達はなんだか申し訳ないような、同情するような、なんとも言えない気持ちでしばらく黙っていた。
「……結局私はお礼を言いたかっただけなのかもしれませんね。何かずっと心のなかにわだかまっていた事があったのですが、これのことだったようです」
メニアはふう、と一つため息をついた。
「わざわざ私の話を聞いていただきありがとうございました。明日、任務ですね。頑張ってください」
「……言えばいいじゃないか」
「えっ?」
いきなりアミアルが口を開いたので、僕達は目を丸くしてアミアルを見た。
「お礼を言いたかったんだろう? それならば私達だけではなくみんなに言えば良い。私達も付き合おう」
「え、でも、あなた達は……」
「良いから良いから。変えようとさえ思えばプランなんていくらでも変えられる。ほら、行くぞ」
「え、ちょっと、え!?」
アミアルが立ち上がってメニアの手を引く。僕も急いでついていくのだった。
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