Section22 〜衣替え〜
この格好のままで買いに行くのは流石に恥ずかしい、ということで一度宿に戻って替えのワンピースに着替え、僕達はかつて寝間着を買った呉服店へ向かった。
「いらっしゃいませ」
前と同じ人が僕達に向かって挨拶をする。それを見て僕はこっそり安堵していた。
僕達の関係を知らない人に出くわしてまた「お子様連れですか?」なんて話を始められたら絶対に面倒くさくなるに違いない。この人は実際に一度そうなっているし、アミアルももう諦めていた。
「好きに選んでいいよ」
例のミラルザの報酬のお陰で僕達の懐はかなり潤っていた。これなら多少高くても買えそうだ。
「ああ、そうさせてもらうぞ」
と言うと、アミアルは軽い足取りで服を選びに行った。
やっぱりアミアルもこういうのが好きらしい。もっとこういった機会を増やしてあげようかな。
さて……僕も色々と日用品を揃えようかな? 今回は結構長い依頼になりそうだし、携帯できる生活用具を買っておくのも良いかもしれない。
僕は日用品エリアに足を運んだ。
大抵の必要なものは買えたので、もうそろそろかな、と思いアミアルの元へ向かうと、丁度アミアルが僕に向かって笑顔で手を振っていた。
「おぉ、丁度良かったな! 大体着てみたいものの選別が終わったところだ」
お、タイミングが良かったみたいだ。
「だから、私が着てみてお前がどう思うのか教えてほしい」
「うん、良いよ」
アミアルの新しい服が見られるのか……少し楽しみな気がする。
「よし、じゃあ試着室に行こうか」
「そうだな。……っと、じゃあ、服を運ぶのを手伝ってくれないか?」
「ん?」
なんだか、嫌な予感が……
「えぇ〜〜っ!!??」
僕はお店の中にも関わらず、大きな声を出してしまった。
「ためすの……? これを、ぜんぶ……?」
「当たり前だろう。これでも減らした方なんだぞ」
僕の眼の前にはこれでもかというほど服が積まれた山があった。
これを全部着てたらどれくらい時間がかかっちゃうんだろう……
うーん、でも「好きなのを選んでも良い」と言った手前、「減らせ」っていうのもちょっとなぁ……
……仕方ない、頑張って付き合おう。
「……わかった。向こうに運べばいいんだよね?」
僕は試着室があるほうを指さすと、アミアルは頷いた。
「そんな時にこれを使おう」
僕は懐からスリッパを取り出すと、試着室の前に投げた。
「よし……『座標共有』」
アミアルと服に触れた状態で『座標共有』を使う。
うっ……!? 重いっ……!?
能力を使う時の反動か……? 想像はできてたけど流石にたくさん選び過ぎなのでは……!?
なんとか反動を振り切って試着室の前まで瞬間移動した。
「疲れた……」
たった一回なのにこんなに疲れるなんて……これは服をそのままここまで人力で運んだ方が楽だったのでは……?
「あー、無理させて悪かったな……」
「いや、大丈夫……ん?」
なにかを感じて少し気になり、スリッパを調べてみると……
「えぇぇぇっ!?」
店の中なのに大声を出してしまった。これで二度目だ。
いや、これは僕にも反論の余地はある。なんと、僕のスリッパの『座標共有』がⅠからⅡに上がっていたのだから!
「お、おー、良かったじゃないか。これで結果オーライだ」
「う、うん。良かった……のかな?」
正直僕もよくわからない。『服を運んだら武器の特殊効果が進化しました!』なんて話、聞いたことないよ……? 忘れてるだけかもしれないけど。
「とにかく、お試しはまた今度やるとして、早く試着しよう。こんなにたくさん、日が暮れちゃうよ」
「そうだな。私が選んでおいて何なのだが……よろしく頼む」
「全然良いよ。僕もアミアルの新衣装を見られるし」
「本音出てないか……?」
おっと、思わず口が滑ってしまった。まあ隠しておきたいことでもないから、いっか。
「じゃあ、早速始めよう」
「そうだな」
アミアルが山の中から一着選び、試着室に入る。
少し待った後、カーテンが開いた。
「これ、どうだ?」
「お、良いね」
アミアルがいま着ているのは少し大きめで、レースのたくさん着いた水色のドレス。いや、確かロリータというものじゃなかったっけ?
あー、なんで大事なことは忘れてるのにこういったどうでもいいことは覚えているんだ!? 前もこんな感じで付き合わされていたのか……?
まあ……今はいいや。とりあえず今はアミアルのことに集中しよう。
僕はアミアルの服をじっと見た。
所々にあしらわれたレースが可愛らしい。でも……
「少し動きづらくない?」
なんだか、全体的にゆったりしているせいで、逆に戦闘時の行動を妨げてしまっているような気がする。しかもこれ……
「派手すぎない?」
ヒラヒラとかフリフリがたくさんついていてものすごく存在感を放ちそうな衣装だった。
「うーん、まあ、そうか……機能性を考えてみるとそうだな……」
と、またアミアルは元のワンピースに着替えると同じようなタイプの服をすべてしまった。
これでももう3分の1減ってるんだけど!? どれだけこれが着たかったんだよ……アミアルはロリータ系の服が好きらしい。
そんなことを頭の中のメモに記録したところで、なんとか片付け終えたアミアルはまた別のタイプの服を一つ取ると試着室に入った。
しばらく待った後、
「どうだ?」
カーテンが開き、アミアルの姿が見えるようになる。
白いベストと、袖の広い裾が短めのコート、白い膝までのスカートとそれを彩るオレンジ色の装飾。
それを見た瞬間、僕の頭の中を何かが貫いたような感覚がした。
「あっ……」
「どうした? 何かあったのか?」
アミアルが心配そうに尋ねる。
「いや、大丈夫……でも、これ、確か……」
「気づいたか。これは私がかつて着ていた服とほぼ同じものだ。だんだん記憶を取り戻しできているようだな」
そうかもしれない。頭の中のずっと奥にある『何か』がこの服装を知っているんだ。
「うん……似合ってる」
「そうか? 身体は違うが、そう言ってもらえて嬉しいぞ。よし、これにするか」
「そうだね、そうしよう」
かなり動きやすそうだし、綺麗ながらもあまり目立たない、完璧な服装だ。これならアミアルも戦いやすいはず。
「さて……服を戻して、これを買いに行くか」
アミアルは少しさびしそうにしながら服を戻し始めた。僕は少し黙ってから、
「ねぇアミアル、さっき一番最初に着た服、買ってもいいと思うよ。どこかにお出かけに行くときとかに良さそう」
と声をかけた。すると、
「本当かっ!?」
と目を輝かせて僕のところに飛んできた。
「う、うん。似合っていたし、君も着たいでしょ」
「本当か! ありがとう! ……こう言ってもらって済まないが、せっかくだから残りの服も試してみていいか?」
「えっ」
山の残りを……? という視線でアミアルを見ると、逆にアミアルは懇願するような目線で見返してきた。
結局僕はアミアルに付き合うことになった。
とまあ、そんなこんなあったけれど、僕達はすべての必要なものを揃えることができたのだった。
外に出ると、もう日は沈みかけていて、遠くに紅い光が見えていた。
「……すまないな、長い間私の我儘に付き合わせてしまって」
大きな紙袋を2つ抱えながら、アミアルが申し訳なさそうな表情で僕に言った。
「いいや、僕も君の新しい衣装を見ることができてよかったよ。しかも、日用品も買えたからね」
そう僕がフォローすると、アミアルは表情を綻ばせた。
「明日、どうしようかな」
「そうだな……メニアに会いにでも行くか? さっき買った服を早速試したい」
「お、良いね」
「もちろん、その後に明後日のための特訓だな」
「あー、あはは……そうだね……」
僕たちはそんな会話をしながら宿へと帰るのだった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます