Section20 〜再会試合〜

 「僕の受けた依頼に参加してほしい」


 そう言ったスタグの説明によると、


・最近、とある森に住む魔物が活発化していて、近くの村が被害を受けた

・活発化している魔物が発見された範囲が広く、数人程度では解決できない

・よって、様々な人に声をかけている


 らしい。今のところ20人から了承をもらっているそうだ。

 この人、見た目によらず人脈はあるんだね……いや、それは失礼かな? まあそれはどうでもいいか。


 「アミアルさんがいれば百人力です! ぜひ受けてくれませんか?」


 スタグの目が期待に光る。

 アミアルはというと、


 「………断る」


 と答えた。


 「「えっ」」


 スタグだけでなく、受けるだろうと考えていた僕までもが驚きの視線をアミアルに向ける。


 「ど、どうしてですか!? 報酬もしっかり山分けしますし、不利な条件などないはず……」

 「いや、報酬とか条件とかはどうでもいいんだ。お前、まさか忘れてはいないだろうな?」


 アミアルが逆にスタグに問い返す。


 「………あっ」


 スタグもなにか思い出したようだ。

 もしかして、僕のこと……?


 「……そうでした。すみません、このことは忘れてください。ウェルズさんもお騒がせして申し訳ございませんでした」


 と頭を下げると、そのままギルドの建物を出ていってしまった。


 「はー、全く。これだからあいつは……」


 アミアルも内心やれやれと言った感じだ。


 「ねぇ、忘れていたって、まさか僕のことじゃないよね……?」


 なんだか不安になってアミアルに尋ねてみる。


 「あー、それのことだがな……まず言えるのは、お前のことではない」

 「なんだぁ……良かった」


 どうやら要らない心配だったらしい。僕は胸を撫で下ろした。


 「じゃあ、スタグが忘れてたことって……」

 「ああ。私とアイツはかつて約束をしていてな、『私が認める強さになるまでスタグ自身が受け付けた依頼には参加しない』というものだ」

 「へぇ、どうしてその約束をしたの?」

 「アイツはな……私達に見合わない依頼ばかり受けていたんだ。時にレベルが低すぎて退屈したり、時にはレベルが高すぎて私達では到底力が及ばないときもあった。だから私はアイツが依頼を受けることを禁止し、あの約束を取り付けたわけだ」

 「ふぅん、なるほどね……」


 そんな約束をしていたんだ……あのときは僕もそのチームに入っていたに違いない。

 一体どんなチームだったんだろう。毎回チームについてのことを考えるたびにこの疑問が浮かんでくる。


 「まあ、その話はいいだろう。依頼、決めるぞ」

 「うん、そうだね」


 結構時間が経ってしまっていた。このままだと依頼を受ける頃には夜になってしまうかもしれない。


 「じゃあ、僕達は……」


 先に目星をつけていた依頼を指さそうとした時……


 「待ってください!」


 建物の入り口から聞き覚えのある声がした。振り返ると、丸メガネにローブを着ている男がいた。スタグだ。膝に手をあてて息を切らしている。

 デジャヴ、というかついさっき見た光景だった。


 「お、お前、一体何しに来たんだ……?」

 「僕は……諦めません。アミアルさん、僕はあなたに認めてもらいます!」






 僕達は建物の裏庭に来ていた。

 かつて僕達とアンテルイが激戦を繰り広げたこの場所で新しい戦いが起きようとしていた。

 

 「はぁ。認めてもらうために私と戦うなんて言い出して……本当にアイツは面倒なやつだ……」


 アミアルはもうヤダ、というオーラを隠すこともなく発している。


 「ははは……スタグの実力も知れるチャンスだよ。それで仲間に入れるかどうかも判断しようよ」

 「まあ、そうだが……」


 それでもアミアルは乗り気ではないようだ。

 まあ……仕方ないよね。まさに依頼を受けようとした時に二回も引き止められて、さらに思わぬ戦いを申し込まれたのだから。

 そんな会話をしている間にスタグの準備が終わったようだ。ローブとメガネは変わっていないが、杖のようなものを持っている。あれがスタグの武器らしい。


 「おまたせしました」

 「それはいい。もう始めるのか?」


 アミアルがそう言ったところで、ミルカが建物から出てきた。


 「お待ちください。ルール説明がございます」

 「早くしてくれ……」


 アミアルはかなり機嫌が悪いようだ。「まあまあアミアル」と言ってなんとかなだめる。


 「今回は魔法攻撃のみの勝負になります。よって直接攻撃は禁止となっております。ですがこの試合では回復魔法も認められており、魔力が続くまで魔法行使をすることができます」


 回復ありだって!? これはかなりの長期戦が予想されるな……


 「尚故意による参加者の殺害や復帰に長時間を要する損傷を負わせることも禁止とさせていただきます」


 ここからは前と同じだな。

 アミアルとスタグの方を見てみると、静かにお互い視線をぶつけ合っていた。

 二年前の仲間と再開し、そして戦う。その時彼らはどんな気持ちなんだろう……


 「行動不能、または降参により勝敗が決定します。それでは、はじめ!」


 ミルカが手を振り上げる。が、お互い踏み出すことはなかった。その代わり、アミアルが口を開いた。


 「2年振り、なんだな、スタグ。私もこうやってお前と戦えるのを嬉しく思っている」


 ……え!? さっきはあんなに嫌そうにしていたのに!? え!? さっきとは別人!? 誰!?

 という僕の心の中のツッコミはよも知らず、スタグはアミアルの言葉に対して、


 「僕も嬉しいです。死んだかと思われていたアミアルさんと再開し、こうやって戦う事ができるのですから」


 と答えた。


 「この2年間で身に着けたものをお見せしましょう」


 2年間……マリィスが滅びてから今までの時間だ。やっぱり、僕達が死にかけた原因があの戦争だというのは本当なのかもしれない……

 スタグが持っていた杖をもう一度握りしめ、持ち上げる。


 「行きます!」

 「おお!」


 スタグの杖の先端から風をだす。それと同時にアミアルが手のひらから炎を吹き出させる。

 勝負の始まりだ。




―――――――――――――――――――――――




 私はスタグを炎で牽制しながらスタグの持つ杖を調べていた。

 右目に『選定』の刻印魔法陣を刻印し、杖をじっと見ると……



名称:刻止ときとめワンド

分類:魔法武器

素材:時間ときまの木、マジカルポーション、魔導芯

最大魔力出力:200sp/s

特殊効果:『魔力増強Ⅲ』、『時間停止:Ⅱ』、『魔法陣補正Ⅱ』、『機動力補助Ⅰ』



 ということだった。

 『選定』の刻印魔法による情報取得は、現代の検索系魔法よりも多くの情報を取得することができる。例えば今回では『最大魔力出力』というものだったり、魔導書だと『記録魔法』などがある。

 それで、今回の『最大魔力出力』だが、1kgキログラムの物体を1秒間で1mメートルの距離動かす魔力を『spellスペル』の最初の2文字を取った『sp』という単位を用いて1sp/s(1スペル毎秒)とし、それを基準に1秒間あたりの最大の魔力出力量を表したものが『最大魔力出力』、というわけだ。

 これを見ると、なかなか強いということがわかるな。基本的な魔法補助用の杖の『最大魔力出力』の平均は80なのだが、それの2倍以上もある。

 しかも、時間を止める能力を持つときたか。二年前はこんな技持っていなかったな。その魔法の規模がどれくらいか分からないが、かなり厄介なことになりそうだ。

 ……そう考えると、なんだか後ろめたい気分もあるな。アイツは恐らくその技を奥の手として使ってくるだろう。だが私は前からそれを知ってしまっている。

 ………まあ、いいか。わざと受けてやるとしよう。


 「ふんっ!」


 スタグが杖を前に押し出し、私の魔法を押し返そうとしてくる。

 元々風に対して炎は弱い。これで押し合いをしていたら無駄なエネルギー消費になってしまう。

 私は戦闘に意識を向け直し、あえて炎の発生を止めて前に踏み出す。身体をひねって風を避けつつ、こちらも風の力を使って高速移動をする。

 今度は雷の力を手のひらに集め、スタグに撃ち出す。その瞬間、スタグは杖を地面に突くと地面が盛り上がり、壁を形成した。その壁は雷を受け止めると、電気を地面に逃がすことで完全に無効化した。


 「これならどうだ!」


 その隙に私はスタグの至近距離まで接近すると、右手を握りしめる。手のひらの中で光のエネルギーが収束し、まばゆい光を発するようになったところでそれをスタグに突き出した。その直後、巻き込まれないように急いで距離を取った。

 最大まで圧縮された魔力の塊は眩しすぎるほどの光と耳をつんざくほどの轟音と共に大爆発を起こした。

 砂埃が舞い、私の視界を塞ぐ。すると、風が砂埃を吹き飛ばし、急速に視界が晴れていった。向こうにはその風を生み出した本人、スタグが無傷で立っていた。


 「魔法障壁もお手の物、か……成長したな」

 「当然ですよ。魔法師として魔法障壁は欠かせない、とずっと考えていましたからね。あなたと組んでいたときも練習していたんです。それがようやく実を結びました」


 やはりこの2年間の訓練は伊達ではないらしい。それには私も応えなくてはな。もうそろそろを使うか……?


 「……そろそろ奥の手を使う時が来たようですね」


 そう言うと、スタグは杖を大きく掲げた。杖に膨大な魔力が集まっていくのがわかる。

 ……時間を止めるつもりか。

 私はあえて動かず、その技の発動を待つことにした。


 「……さあ、行きますよ!『完全停止フリーズ』!」

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