Section19 〜かつての仲間〜

 色々ありながらも何とかアミアルとカフィアには落ち着いてもらい、今の所いちばん負担の少ない(らしい)アミアルの意識だけ表側にある状態で僕達は部屋を出た。


 「まさかアイツがいつでも表に出てこられるようになっていただなんて……気を抜かないようにしないとな」


 アミアルが内心疲れた、といった様子でぼやく。


 「でも、カフィアは本当に困った時ちゃんと手伝ってくれるんだから感謝しないとね」


 あのミラルザ戦で圧倒的な力を見せつけた彼女……800年前ってこんなのがたくさんいるのかな……?


 「私はアイツがいなくても戦えるように成長しないとな!」


 アミアルは新たな目標ができたみたいだ。僕の目標は……

 そう、アンテルイに勝つことだ。

 あの強さ、あの重さ、あの速さ。どれを取っても今の僕では到底及ばない。

 武器も十分に強いはずだ。でも、使用者の技量がなければ武器も真価を発揮しない。

 だったら僕も強くなって、スリッパを使いこなしてみせる!

 ……スリッパを使いこなすって、どういうことなんだろうね……




 食堂に入ると、僕達を出迎えたのは沢山の拍手だった。


 「え? え? どういうこと?」

 「私も分からない。一体なんなんだ?」


 目を白黒させる僕達の前に一人の男がやってきた。


 「お前達だろ? ウェルズとアミアルって奴は」

 「は、はあ、そうだけど」


 すると、男は「ほらな」と笑うと、僕に肩を回してポンポンと叩きながら、


 「聞いたぜ? 『突如現れたダンジョンに挑み、メンバーみんなを救った英雄とその付き添いの少女、今日も不思議な武器を使って戦いに明け暮れる』今では大ニュースだぜ? しかもお前達、一気に星を二個も手に入れたんだろ? 新参者なのにすげぇなぁ」

 「………」


 ほへー、なんかすごいニュースがいつの間にか出回ってるなあ。やっぱり情報の力はすごい。

 とりあえず今更弁解しても意味は無いとわかっているので、話を進めることにする。


 「それで、わざわざ僕達を待っていた、ってこと?」

 「何言ってんだ、当たり前だろ? ゼイラン様やアンテルイ様以外でこの例はほぼない」


 その後の言葉は僕達に顔を寄せて僕達だけに聞こえるように、


 「だから、全員がこぞってお前達を自分のチームに入れようとするんだ」


 ああ、そういうことか。それが目的なんだね。

 まぁ……どれもこれも全てカフィアとメニアのお陰なんだけどねぇ……

 とはいえ、少なくともこのままじゃ落ち着いてご飯も食べられなさそうだ。


 「えっとー、皆さん、悪いんだけど君達のチームに入ることはできない」


 僕がそう宣言すると、何人ものメンバー達が肩を落とした。


 「でも、みんなと仲良くしたい、とは思ってる。任務に参加して欲しい、と言われたら喜んで参加するし、どこかに出かけよう、とかそんな感じで誘ってくれれば予定が空いているなら行くよ。だから、これからもよろしくね」


 僕のその言葉で、食堂内は歓声に包まれた。





 ようやく落ち着ける、というわけで僕達が食べ物を受け取り(無料で大盛りにしてくれた)、席に着くと、


 「あなた……もしかしてアミアルと申されましたか?」


 という声が聞こえてきた。振り向くと、眼鏡をかけた細身の男の人が立っていた。


 「ん? ああ、そうだが……」


 ドリアを頬張ろうとした所を止められて少しだけ不機嫌なアミアルがそう答えると、


 「やはりそうでしたか! 覚えていますか? 私のこと」


 もちろん僕は全く覚えていない。

 アミアル、知ってる? と目線を向けてみると、彼女は少し考える素振りをして……


 「あぁっ!? もしかしてお前、スタグか!?」


 と叫んだ。


 「よかった……覚えていてくれた。二年間、ずっと心配だったんですよ。あの戦いがあってから、もう死んでしまったのではないかと……よかった……」


 とアミアルが「スタグ」と呼んだ眼鏡の男は涙ぐんでしまった。


 「この人、もしかして……?」


 アミアル小さい声で訊いてみると、アミアルは頷いた。


 「そうだな、彼が私達の過去の仲間だった『停滞』のスタグだな。まさかこんなところで出会うなんて」


 と言う話をしている間にスタグはなんとか落ち着いたようだ。


 「すみません。取り乱してしまいました」

 「お、おう……でも、どうして私だとわかったんだ? 見た目だって変わっているのに……」


 アミアルが自分の身体を見下ろしながら訊く。


 「わかるに決まっているでしょう! その話し方、その名前……どこを探してもあなたしかいません!」


 スタグがぐっと拳を握る。当のアミアルは若干引き気味だった。


 「あ〜、なあ、スタグ、コイツのこと、知っているか?」


 アミアルが僕のことを目線で指し示しながらスタグに尋ねる。すると、


 「いいえ、知りません。確か、ウェルズさん、でしたよね?」

 「あ、うん、そうだね」


 知らない、だって……? 僕はアミアルとは違って服装以外見た目が変わっていないはずだ。まあ、二年も会っていなければ、名前も違うからわからないのも無理はないけど……


 「初めまして。二年前、アミアルさんと共に戦っていた、スタグです」

 「僕はウェルズ。よろしく」


 と、僕達は握手をした。


 「いやぁ、よかったです。こうやってまた巡り合うことができて。また一緒に戦うことができますね!」

 「あー、そうだな……」


 と言うと、アミアルは目を逸らしてしまった。





 「ねえ、以前スタグと何かあったの?」


 満足そうにスタグが去った後、まだ何か居心地の悪そうなアミアルに訊いてみた。


 「アイツはな……実はお前のことを良く思っていなかったんだ」

 「え? どういうこと?」


 アミアルはふう、とため息をついて、


 「お前が記憶を失う前の話だ。かつて、私とお前は戦いの場においても、それ以外でも相性が良かった。アイツはそれをずっと根に持っていたらしい。アイツもお前のことについての記憶は無さそうだから良かったが、もしお前についての記憶を持っていたままだったら……」


 とつぶやいた。


 「………」


 スタグがどれほど根に持っているかはわからないけど、かなりの恨みを募らせていれば攻撃される可能性だってあるはず。それを考えれば、僕についての記憶がない方が都合がいいのかな?


 「旧友に会えたのは良いが、それと同時に面倒も増えたな。……まあそれはいい。今日も仕事するぞ」

 「そうだね」


 僕達の朝食もちょうどなくなったところだ。いつまでも食堂でゆっくりしていられない。

 僕達は食堂を出た。




 「今日も依頼が多数入っています。あなた達は星が2つなので、今までのリストに加えこちらの依頼も受けることができるようになります」


 そう言うと、ミルカは追加で2つの帳簿を持ってきた。


 「そういえば、星の数によって受けられる依頼が増えていくというのは理解しているけど、その水準ってどうやって決まっているの?」

 「そうですね、基本は依頼主が決めていますが、時に私達が状況を見て判断することもあります」

 「へぇ、なるほどね」

 「それで、どうするんだ?」


 アミアルが訪ねてくる。

 そうだった。今受ける依頼を選んでいるんだった。


 「そうだね……あ、これとか良さそう。じゃあ……」


 と僕が依頼のうちの一つを指さそうとしたその時……


 「待ってください!」

 「「えっ?」」


 入口から声がして、振り返るとそこには丸メガネとローブの男がいた。スタグだ。膝に手を当てて息を切らしている。恐らく走ってきたらしい。


 「す、スタグ……一体何しに来たんだ?」


 アミアルが若干引き気味にスタグに尋ねる。


 「いやはや……間に合ってよかったです……ふう。あなた達に話があって」


 スタグが息を整えると、また口を開いた。


 「あなた達に、僕が受けた依頼に参加してほしいのです」

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