Section intermission

 時は遡り、未開の草原––––––


 「マリィスってどういった場所だったの?」


 乾燥させることで保存が効くようにした木の実をつまみながらアミアルに尋ねる。


 『マリィスは、資源に富んだ街だった。周りを自然に囲まれ、山から流れる川が街の中心を通り、気温も安定していた』


 なるほど。住むのにとても適している街だったんだね。


 『人々の活気もあった。皆が積極的に取引をし、常に金が動いていたんだ。だからマリィスは日々大きくなっていった』


 アミアルの声は何か懐かしいものを今まさに見ている時のような声だった。

 僕はその時の記憶がないから全くわからない……でも、恐らく僕もアミアルと一緒にマリィスに住んでいたんだろうね。

 その風景を見れば、記憶を取り戻すことができるのだろうか……

 僕はそこでふとあるものを思い出した。


 「そういえば話は変わるけど、僕達が色々失う前、僕とアミアル以外に仲間っていたの?」

 『いた。一人は敵の足止めをしたり動きを封じる能力に長けた者。もう一人は味方の強化、補助、回復、なんでもできるやつだ。他にもいるぞ』


 へぇ、僕達は仲間に恵まれていたらしい。


 「また会えるかな?」

 『わからない……ここがどこか、今がいつなのかもまだわかっていないのだ。今アイツらが生きているかすら定かではない』


 アミアルの声のトーンが少し下がった気がした。


 「アミアル……寂しい?」

 『大丈夫だ。お前がいるからな』


 アミアルの声がまた明るくなった……気がした。良かった。ちょっとだけ元気を取り戻したようだ。


 「もしその人達が今も生きているとして、その人達って僕達のことを憶えているのかな?」

 『そうだな……私のことは分からないが私がお前のことを憶えていない、となると他の奴らもお前のことを憶えていない可能性が高いな』

 「そっかぁ……やっぱそうだよね……」


 適当に外を歩いていれば向こうから見つけてくれる、と言うことを期待していたけど、それも望み薄、ってことか……と言うか、そもそも外を歩いていて偶然巡り逢える、そんな可能性なんてほぼほぼないに等しいけどね……


 『まあ、私はアイツらのことを憶えているから、もし見つけたら教えてやるさ』

 「ありがとう」


 かつての僕らの仲間達……その人達にまた会うことはできるのだろうか……


 『その話ばかりしていてもキリがないぞ。マリィスの話に戻ろう』

 「あ、ごめん」

 『いや、謝る必要なんてないさ。私もアイツらを思い出す良い機会だったからな。……で、マリィスのことだが、マリィスの中心部には神殿があって、そこにはさまざまな財宝が眠っている、という話だが』

 「財宝?」

 『ああ。だが、都市の最上層の階級の者達が管理、警備しているから、そこに足を踏み入れた者は少ないんだ……だから、この話が本当かどうかもわからない』

 「ふうん……」

 『あくまで噂の話なのだが、その財宝は悪から都市を守る結界を張っている、なんていうことも言われているぞ』

 「そうなんだ」


 財宝、かぁ。それが本当ならかなり価値の高いものに違いない。マリィスに帰ったらぜひ一目見てみたいな。


 『次はマリィスの職業についてだ』

 「……なんか授業みたいになってない?」

 『い……いいから! とりあえず私の話を聞け!』

 「わ、わかりました……」


 僕が正座をして縮こまると、アミアルは咳払いをし(たような声を出し)て、話を続けた。


 『続けるぞ。マリィスにはそれぞれの職業で『組合』というものがあって、それぞれの専門分野において同業者が集まって一つの大きなまとまりが作られているんだ』

 「ふぅん……で、どういうこと?」

 『え、わからなかったのか?』

 「ご、ごめん……ちょっとついていけない……」


 アミアルは大きなため息をつくと、やれやれと言ったふうに、


 『以前のお前もこんな感じだった、というのか……? 私も苦労していただろうな。……というのはどうでも良くて!』

 「う、うん」


 いきなりの大声に僕が正座して縮こまると、アミアルはふん、と言ってから続けた。


 『良いか? 『組合』と言うのはな……例えば、とある鍛治職人がいたとしよう。もちろん鍛治職人は一人だけではないから、いろんな箇所で仕事をしている人がいて、様々なところで依頼を受けたり商売がされている。だが、それだとバラバラだし、収益も安定しない。そこで、各地にいる鍛治職人を一箇所にまとめ、グループを作る。そして、そのグループに入っていない者は鍛治仕事を禁止したとしよう。そうすれば、そのグループは必ず収益を得られるし、依頼者からしても、ただ一つのグループに依頼をすれば良いから楽だ。これが『組合』の仕組みであり、意味であり、理由だ』

 「あぁ、確かに考えてみればそうかも」


 なるほど。『組合』にそんな意味があったなんて……


 「ということは僕も『組合』に入ってた、ってこと?」

 『恐らくそうだな。どの『組合』に入っていたかは覚えていないが……』


 そうか……まあ仕方ないか。いつマリィスに戻れるかわからないから、少しずつ思い出せばいい。


 「色々教えてくれてありがとう。僕も記憶を思い出せるように頑張るよ」

 『ああ、そうだな。私も忘れてしまったことが多いから、思い出せるようにしないとな……さて、これからもするべきことは多いぞ。次やるべきことを決めよう』

 「うん。まずはこの草原についてもっと知らないとね」


 そうだ。僕達はマリィスに帰らなければならない。そのためにできることを一つ一つしていかなければいけないんだ。

 僕はまた一つ覚悟を新たにした。

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