Section9 〜ミニマム海戦〜

 「こちらの方向です」


 船の帆が潮の風をいっぱいに含み進んでいく。

 マルさんの案内と共に僕達は小型の船に乗って例の現場へ向かっていた。ダミーの荷物も積んでいる。

 風が気持ちいい。任務中だけど、僕は海を堪能していた。当のアミアルは……


 「う〜、気持ち悪い……よ、酔った……」


 と、こんな感じになっていた。揺れているからかな? でも、僕は気持ち悪さは感じない。船に酔うって、どういうことだろう。

 とりあえず僕はでアミアルの背中をさすった。


 「あ、ありがとう……うっ……」

 「無理に喋らなくていいよ、僕がいるから」


 と言うと、アミアルは無言で僕の肩に頭を預けてきた。


 「もうそろそろ着きます」


 マルの声で我に帰る。


 「まさかここにまた戻ってくるとは……これも巡り合わせ、と言うやつですかね」

 「それにしても、ホントに盗賊なんているんスかね……」


 船を繰りながらザヤがぼやく。そこで僕は何か向こうに小さい何かが見えた。それはだんだんこちらに向かって来ているように見える。


 「あれは……」


 僕がその方向を指差すと、二人もその方向を見た。すると、


 「あ、あれだ……また来るなんて……」


 マルが驚愕しているのがわかる。つまり、あれは盗賊団……

 その影、おそらく船がどんどん近づいてくる。ついには目を凝らさなくても良く見えるようになった。


 「ハッハァ! 懲りずにまた来るとはなぁ! それはそれは余裕なこったな!」


 盗賊の一人らしい人がボート型の船のへりに片足を乗せて高らかにそう言う。


 「今日も俺達に物資を持って来てくれたのか?」


 他の一人も続いて立ち上がり、言う。でも、マルはそれに対して、


 「今日こそは荷物を奪われるつもりはない! 頼もしい助っ人が来ているからね!」

 「ハァ? 助っ人?」

 「そうだ!」


 と言うとマルは僕達に小声で「では、行ってください」と言った。それを聞いて僕は船から身を乗り出してこれまた高らかに、


 「僕はギルドのメンバー、ウェルズ! 任務を受けてやって来た!」


 と言った。


 「チッ……ギルドの奴らか……面倒臭いな。だが」


 盗賊のリーダーらしい人が口元で笑うと、


 「ちょうど良い! なかなか戦える奴らがいなくて退屈してたんだ! 手合わせ願おうじゃねえか! 行くぞお前らァ!」


 盗賊の全員がオールを巧みに使って僕たちの船にさらに接近し、ほぼ並ぶようになった。何人かの盗賊が船に乗り込もうとしてくる。数はおよそ五人。これなら一人でも対処できる! アミアルは……


 「ちょ……揺らさな……うっ……」


 結構マズい状況らしい。そっとしておこう。


 「ハアッ!」

 「グハッ!」


 スリッパを振りかぶって乗り込もうとする盗賊を船外に弾き飛ばす。


 「コイツ、なんの武器を使っているんだ!?」

 「見たことのない武器だ……」


 盗賊の中にも混乱している人がいるようだ。スリッパって撹乱効果もあるの? 残念ながらありません。


 「ボス! コイツ強すぎます!」

 「怯むな! 荷物のみを狙えば良い!」


 いや、ボスさんよ、作戦を言ったらダメでしょう……

 それはそうと、盗賊団は叩き飛ばしては復帰、叩き飛ばしては復帰してくる。海に慣れているのかな……キリがない。ならば……


 「マルさん!」

 「オーケーです! ……受け取りなさい!」


 マルがダミーの荷物を船の方に投げ飛ばす。


 「うおっ!?」

 「なんだ!?」


 いきなり荷物を投げ込まれてたじろぐ盗賊達。


 「はああっ!」


 僕は跳び上がり荷物に向かってスリッパを振り上げる。この中には爆薬が入っている。これに強い衝撃を与えれば!


 「あ、ちょっと、こんなに近かったら……!」


 と言うザヤの声は遅かった。僕がスリッパで荷物を叩くのと同時に、荷物が大爆発した。


 「「「「うわああああああああ!?」」」」


 僕達は船外に吹っ飛ばされ、そのまま落水した。


 「ぷはっ」


 なんとか水面から顔を出す。マルもザヤも無事なようだ。

 アミアルは!?

 辺りを見回すと、アミアルは水面に浮かんでいた。……って、見ている場合じゃない!

 なんとかアミアルを救出する。


 「うーん……」


 完全に伸びていた。


 「アミアル、ねぇ起きて、アミアル!」


 何度か呼びかけると、ようやく意識が戻ってきたようだ。


 「う……ここは……? 船の上じゃなかったのか……?」

 「ちょっといろいろあってね。まあ僕のせいなんだけれども!」


 とりあえず船に戻らなきゃ!


 「マルさん、ザヤさん、船に戻れる!?」

 「問題ないっス」

 「死んだかと思いましたよ……」


 なんとか大破はしてない僕達の船にアミアルを押し上げて乗せてから自分も船に戻った。マルもザヤも船に乗ってくる。


 ふう……大変だった……


 「そういえば、アミアルはもう大丈夫なの?」

 「ああ。水のおかげで頭が冷えたよ。ありがとう」

 「そっか」


 とあることを思い出して見てみると、爆風をモロに受けた盗賊団の船は木っ端微塵になっていた。このまま盗賊達が力尽きて海に沈むのも時間の問題だろう。


 「このままだと君達は溺れ死ぬ運命だけど、どうする?」

 「ゆ……許してくれっ! もうこんなことはしない……誓う! だから俺達を助けてくれ!」


 さっきの余裕の表情とは思いもよらないほど必死に懇願している。僕はそれを見て優越感を感じる……こともなく、


 「……分かった。君達を助けよう」

 「ええっ、助かるんですか!? コイツらを?」

 「まあ、条件はある。ロープはあるよね? 船に上げた盗賊達はこれで自由は奪わせてもらう」

 「ありがとうございます……ありがとうございます……」


 そういうわけで、盗賊達を一人一人船に乗せ、全員にロープをかけた。


 「じゃあ、一旦港に……」


 戻ろう、と言おうとした時、


 「はぁ、キミ達はほぉ〜んとに役立たずだねぇ」

 「えっ!?」


 と僕が声を出したところで、一瞬で僕達の船に乗る盗賊団全員の頭が吹き飛んだ。悲鳴を上げる暇もなく、盗賊達が船内に倒れる。


 「な……!?」

 「そ、そんな」

 「嘘だろ……」


 こんな数の盗賊団を一瞬で……


 「ボクはここだよ〜」

 「ハッ!?」


 上の方から声がしたので見上げると、コートで身を包んだ幼そうな少年が空中に浮かんでいた。いや、


 「どうしてコイツらを!」


 アミアルが人影に向かって怒鳴る。


 「コイツらはボクが雇ったんだよ〜。なのに、アッサリ負けるどころか命乞いまでするなんて、そ〜んなゴミどもはその場で処理するべきだよね!」

 「あなたは……何者なんですか!?」

 「ん〜? ボクのこと? それはね……やっぱり秘密! 魔人ってことだけ教えてあげるけどね! じゃ!」


 というと、その魔人はバシュ、という音を立てて消えてしまった。


 「なんだったんだ……あれ……」

 「前会った魔人とは比べ物にならないほどの強さだったぞ……?」

 「……とにかく、一旦帰りましょう。状況を説明する必要がありますし」


 マルの提案に僕達が頷いた。






 「なるほど……まさかそんなことが……」


 港に戻り、ナラギにことを説明すると、スキンヘッドの船乗りはあごに手を当ててそう呟いた。


 「魔人。話を聞いたことがあります。彼らはかつて大きな戦争を起こした種族として森の更にその先へと追放された種族と言われています」


 大戦争を起こして、追放……


 「僕が魔人を見たのは初めてです。ザヤもですか?」


 マルがザヤに尋ねる。ザヤも頷いて、


 「ハイ。あれが魔人ッスか……知りませんでした」


 と言った。


 「とりあえず、後味が悪いながらも盗賊団のことは解決、ということですな。魔人のことについてはギルドに報告して警戒を強めようと存じます。ありがとうございました」

 「はい。それでは」


 というわけで、僕達は建物から出た。





 「魔人、か……面倒なことになりそうだね」

 「私達がマリィスに戻れるのも先になりそうだ」


 と桟橋の上を歩きながらアミアルと僕が話していた時、


 「いま、マリィスと言ったか」


 という声がした。


 「え?」

 「だから、マリィスと言ったか、と言っているんだ」


 振り返ってみると、釣り竿を持ってこちらを見ている髭の生えた男がいた。


 「お前達、マリィス出身か?」

 「はい……そうですけど、マリィスについて何か知っているんですか?」


 その男は少し言いにくそうにしながら、少し間が空いた後、


 「一つ、残念なニュースを教えてやる。……マリィスは、二年前に滅びた」


 と言ったのだった。

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