Section8 〜依頼受注完了、いざ港へ〜

 ミルカから報酬を受け取り、ギルドの建物を出る。


 「どうだった? 初任務は」


 日が落ちかけて空が黒みを帯びてきている時、ゼイランが僕達に尋ねてきた。


 「強敵もいたけど、結構楽しかったよ」

 「ああ。久しぶりに運動したからな」


 ゼイランは笑顔で頷いて、


 「それは良かった。これからも頼りにしてるぞ」


 と言った。


 「いやいや、僕達なんてまだまだだよ。……ところで、あの魔人はどうしたの?」


 そういえば僕達が戦うのに必死でゼイランのことについて気にすることができなかった。


 「ああ、あいつか? あいつは弱かったから、ちょっと遊んでやっただけだ。で、剣を突きつけて『これ以上森よりこちらに出てくるのなら命の保証はない』って言ったら一目散に逃げていったさ」


 おお……それはそれで魔人ブレペラさんが可哀想だ。


 「だが、あいつだけが森を超えてくるとは限らない。ギルドの皆に情報を共有して、警戒を厚くしなければな。俺もこれから忙しいぞ」


 ゼイランがふう、と息を吐いた。それでもゼイランは嫌な顔をするどころか、逆に嬉しそうでもあった。


 「ゼイランは、この仕事をどう思ってる?」

 「そうだな……やりがいがあって、良いと思うぞ。危険な任務も、命に関わる依頼も多いが……でも、それで助けられる人がいるなら安いものだ」

 「そっか……」


 ギルドのみんなはそういう思いで仕事をしているんだな。僕達も頑張らなきゃ。


 「じゃあ、僕らはここで」

 「まて、まだ話は終わってないぞ」


 僕達は首を傾げた。


 「まさか忘れたとは言わせないぞ、ウェルズ。刻印魔法について」

 「えーっと……あ」


 そうだった……! 任務中、刻印魔法について「話は後」って言っていたんだった……!


 「わかったよ……全部説明します」

 「なんだ? またお前余計なことをしたのか?」

 「してないよ! というか『また』って何!?」


 というわけで、アミアルと一緒に刻印魔法についてゼイランに説明するのだった。



 ゼイランの質問攻めを何とか乗り切り、僕達は宿に入った。

 受付で鍵を受け取り、鍵を開けて部屋に入ると、僕とアミアルはベッドに倒れ込んだ。


 「「疲れた……」」


 初任務といい、ゼイランといい、今日は特に疲れた……こうやって静かなところに戻ってくると、尚更疲れが目立つようになる。今日はもう動きたくない。このまま眠りに落ちて……


 「おい、汚れがついたまま寝るんじゃない。鎧を外して、とりあえず着替えるぞ」

 「え? 着替え? 持ってないけど……」


 鎧を脱ぎながら言う。アミアルは少し考えると、


 「なあ、今日の報酬でどれだけ貰った?」

 「えーっと、これだけ……」


 と尋ねてきた。貰った分をアミアルに見せる。それを見て、


 「よし、これなら寝巻きぐらいは買えるぞ。今から買いに行こうか」

 「賛成ー」


 僕達は近くの呉服店で動きやすいシャツとズボンを買った。アミアルは子供用を買った。彼女自身は不服そうだったけど……


 「さて、じゃあ服は部屋で洗おう。このちょっと地味な服じゃなくてちゃんとした服も買えると良いな」

 「そのためにはしっかり働かないとな」

 「そうだね」


 僕達は夜ご飯を食べ、服を洗って干すと、そのまま眠りについた……





 窓越しでも暖かな陽射しを浴びながら起き上がった。ぐっと伸びをして、目を擦る。


 「おはよう。今日もいい天気だな」

 「ああ、アミアル、おはよう」


 アミアルはにこっと笑うと、


 「じゃあ、早く朝食とするか。今日も仕事があるからな」

 「そうだね」


 今日のアミアルはいつになく上機嫌だな、と思いながら僕達は食堂へと向かった。





 「おはようございます、ウェルズ様、アミアル様」


 朝早くにギルドに行っても、ミルカはそこにいた。


 「おはよう、ミルカ。依頼はあるかい?」


 そう訊くとミルカは微笑んで、


 「もちろん、ありますよ。どれにしますか?」


 と、ミルカは依頼一覧を僕達に見せた。


 「アミアル、どれにしようかな?」

 「いや、食堂でメニューを決める時みたいに言われてもな……」


 アミアルが微妙な顔をしながらもリストを覗き込む。


 「ふむふむ……『スライム状の生き物が田んぼに大発生』……『荷物が重すぎて困っている』……って、お手伝い系多いな。ギルドはこういう依頼も担当しているのか」

 「はい。力仕事も冒険者の大事な任務です」


 ふーん、結構いろんな依頼が来てるなぁ。それはそれで迷う。


 「あ……おい、これなんてどうだ? 『盗賊団に積荷を奪われた!!』。これは良さそうだ」

 「うーん、そうだね。よし、じゃあそれにしよう」

 「お決まりになりましたか? では、こちらに情報をご記入ください」


 ミルカに渡された紙に僕とアミアルの名前と、えーっと、今日の日付は……あった。壁に日にちらしいものが書いてあった。それを書いて、二人のパスポートと一緒にそれを渡す。ミルカはにっこり笑って最後の作業をして、僕達にパスポートを返した。


 「はい。これで受注完了です。行ってらっしゃいませ」

 「行ってきます!」

 「行ってくる」


 僕達はギルドの建物を出た。




 今回はカヤル港で起こった出来事らしい。ここからは近いため、馬車ですぐに着いた。


 「えーっと、ここかな?」

 「そうらしいな。行ってみよう」


 馬乗りさんに礼をして、カヤル港へ入って行った。




 「こんにちは。依頼を受けたウェルズとアミアルです」

 「おお、来てくださったか。私はこのカヤル港の責任者、ナラギと申します」


 桟橋の上でスキンヘッドの元気そうなおじさんが礼をする。


 「それで、今回の依頼の件なのですが……」

 「ええ。荷物を積んだ船が我が港から別の大陸へと向かう途中、船に乗った盗賊共がいきなり乗り込んできて、荷物を奪って行ったそうなのです」

 「なるほど。盗賊がどこに向かったか分かりますか?」


 と訊くと、ナラギは首を振って、


 「いいや、被害にあった者どもは逃げるのに必死だったそうで、奴らがどこに向かったのかわからないのです」


 と言った。そんなぁ〜……


 「そうですね……では、とりあえずその出来事があった場所に向かってみましょう。もしかしたらその盗賊がまた来ているかもしれません」

 「うーむ、ですが奴らも場所を移動するのではないでしょうか?」


 ナラギは顎に手を当てて唸った。


 「状況把握も大事です。一度行ってみましょう」

 「……そうですな。では、船乗り二人を付けましょう。明日の早朝出発です。寝床はございますので、そこでお休みください」

 「はい」

 「感謝するぞ」


 というわけで、とある民家を借りて僕達はそこで休むことにした。





 「こちらが今日あなた達と共に船に乗る者達です」


 ナラギは体つきの良い男二人を紹介した。


 「どうも、船乗りのマルと言います。あの現場にいた者です。最初また同じ場所に行け、という話を聞いた時、正気か? と思ったのですが、あなた達がいるということで安心しました。よろしくお願いします」

 「一言多いわ」


 ナラギのツッコミを受けながら自己紹介をする。


 「次は俺っすね。ども、同じく船乗りのザヤっす。主に一本釣りをしてる人間で、自分で言うのもなんですが、船の操縦には自信があるつもりっす。よろしくお願いします」

 「僕がウェルズで、こっちがアミアル。こちらこそよろしくお願いします」


 僕とアミアルも自己紹介をした。


 「ウェルズさんとアミアルさんですね。それと、実力を疑うつもりはないのですが……アミアルさんも行かれるんですか?」


 えーっと、マルさん? それは禁句……


 「なんだと!? 私を子供扱いするのか!?」

 「いや、そんなわけじゃ……」

 「良いだろう、実力を思い知らせてやる!」

 「だから実力は疑ってないって……」

 「行くぞ!」

 「話を聞いて……」

 「あはは……では、俺達は行きましょうか……」

 「そ、そうですね」


 というわけで、なんだかんだありながらも僕達は船に乗り込むのだった。

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