Section7 〜黒幕登場!?〜
「フン!」
ゼイランの一撃が魔物を斬り裂く。そのまま振り向きざま魔物を横薙ぎに払う。
「喰らえっ!」
アミアルが手を握りしめる。すると、その手の中で光が凝縮し、それを魔物に投げつけると、何体かの魔物を巻き込んで爆破した。
僕はと言うと、スリッパを用いて一対一で戦っていた。この魔物どもは弱いから簡単に勝てるけど、効率が悪い。もう少し何か方法があれば……
アレ試せるかな。
僕はスリッパに魔力を供給する。すると、スリッパは僕に応えるように光ると、先端から光の刃が伸びた。
よし、最高だ! 僕が使うスリッパはつま先のところに穴が空いているから、そこから安定した魔力が放出されていた。
「ハアッ!」
それを使って魔物に斬撃を喰らわせる。『シャープネスⅠ』も相まって斬れ味は申し分ない。これは使える。
魔法にはいくつか種類があって、まず一つ目はアミアルがさっき使ったような通常魔法。これには攻撃の他に火を起こしたり、自らを強化したりする魔法だ。単純に思えるが意外と奥が深く、上手く扱うにもコツがいる。
次に、武器を対象として使うことで武器に追加の効果や属性をつけたり、純粋に強化したりする武装魔法。鎧に使うことで鎧の強度を上げることもできる。僕がさっきスリッパに使ったのもこれだ。
それとは逆に、武器を媒介として発動する魔法を装備魔法と言う。武器の情報を見た時に『特殊効果』と書かれている中にあるのがこれに当たる。使い方や、強化の仕方によって進化したり増えたりする例もある。
最後に、魔法陣を使って魔法を行使する魔法陣魔法。設置型が多く、あまり直接戦闘には向かないけど、大魔法を使ったり、常在魔法を使う時には重宝される。
僕らは難なく魔物の群れを全滅させた。
「クックックッ……やるねぇ、そこら辺の雑魚とは違うわけだ」
「余裕にしていられるのも今のうちだぞ」
ゼイランが剣を構え直す。
「いいぜ。じゃあ、こんなのはどうかな?」
今度は四足歩行のオオカミのような魔物が四体現れた。でも、普通のオオカミよりも二回りほど大きく、筋肉の量も多い。
「なるほど、おそらくこれは召喚だな。魔法陣を設置してそこから様々な魔物を呼んでいるらしい」
アミアルが冷静に分析する。僕には全く考えつかなかった。僕もこんな感じで分析できる能力をつけようかな……
「それはあり得る、だが、魔物が魔法陣を扱えるなんて話は聞いたことがないぞ……?」
ゼイランは魔物と対峙しながら微妙な顔をしている。
そこで僕は一つ考えが思いついた。
「え、っと……その召喚しているやつが、そもそも魔物じゃないっていう可能性は……?」
僕の言葉でゼイランとアミアルが僕を見た。
「あ、あはは、そんなわけな」
「それはあり得るな、そもそも魔物なんてものでなければ説明がつく」
あれ? 適当に言ったはずなのに、筋通ってたの?
当の声の主は……
「……まさか、俺が魔物じゃないと見抜くとは……」
「えっ」
当たってたの!? 適当に考えたのに!?
「オモシロイ。ならば俺が直々に相手をしてやろう、魔人であるこのブレペラが!」
「っ、上だ!」
ゼイランが一瞬で場所を察して僕らに告げる。上を見ると、何か人影のようなものが落ちてくるのがわかった。その人影はシュタッ! という擬音語が聞こえてきそうな感じで着地すると、得意げに笑った。
「ハハハ、驚いたか! 俺こそが魔人、ブラペラだ!」
「「「………」」」
誰も何も言わない。さっきの状況からは考えられない沈黙が僕らを包んだ。
「お、おい、驚かないのか!? 魔人がここにいるんだぞ!?」
「い、いや、名前も聞いたことないんだが……」
「何かおかしなことが起こっているのかと思いきや、ただの魔人だったとはな……」
ちなみに僕はただ状況がよくわかっていないだけだった。
「何、この俺を侮辱したな!? ならばその罰を受けるといい!」
ブレペラと名乗った魔人(?)は真上に両手を伸ばす。すると、黒いエネルギーが収束していく。
「流石は魔人、と言ったところか。魔力量は申し分ないな」
ゼイランが剣を構える。そのうちに、エネルギー弾は人が一人入れるほどの大きさになった。
「死にな!!」
それをそのまま僕達に投げつける。
「私が止める」
アミアルが一歩前に出た。
「おまえが? 危険だぞ」
と言うゼイランに向かって微笑むと、アミアルは手のひらをそのエネルギー弾に向け、何か陣のようなものを展開した。刻印魔法だ。
エネルギー弾はその陣にぶつかると、何かが弾けるような音と共に一層輝きを増す。魔法のぶつかり合いで光が発生しているんだ。でも、アミアルは一歩も動かない。
ついにエネルギー弾は勢いを失い、だんだん小さくなっていくと、そのまま消えてしまった。そこには目が飛び出そうなほど見開いたブレペラと、余裕な顔をしたアミアルがいた。
「……さて、次は私達の番だな。私達に喧嘩を売った罰を受けるといい」
「そ、そんな……俺の全力の一撃が……!?」
ブレペラは歯を食いしばっている。それはそれで可哀想に思えてきた。
「な、なんだあれは。俺ですら見たことのない魔法だったぞ?」
ゼイランも例外ではなく驚いているらしい。アミアルはすでに戦闘体勢に入っているらしいので、僕も一緒にスリッパを構えた。
「驚かないで聞いてほしい。あれは刻印魔法だ」
「いや、もう驚いているから遅いが、まさかあれが刻印魔法だと!? 俺も名前しか聞いたことのない、
僕は頷いた。
「詳しい話は後で。とりあえず依頼に集中しよう」
「……わかった。だが、後できっちり話してもらうからな」
「わかった、わかったから」
ゼイランはフン、と一つ鼻を鳴らすと、ブレペラに向き直った。
「く、クソォ……! お前達も加勢しろ! コイツらを許す訳には行かん!」
ブレペラはさっきの魔物に加え、人型、だけど人の二倍ほどの大きさの魔物も呼び出した。
「貴様らも覚悟しろよ! 生きて帰れると思うな!」
魔物と魔人が一斉に攻めてくる。ゼイランは剣に魔力を纏わせ、僕はスリッパから光の刃を出し、アミアルは魔法がいつでも発動できるように身構える。
「俺が魔人をやる! お前達は魔物共を!」
「了解!」
ゼイランがブレペラを少し離れたところに誘導する。ゼイラン達を追いかけようとした魔物の行手を僕達が遮り、戦闘を開始した。
「ハッ!」
スリッパ(から伸びている光の刃)を四足歩行の魔物に斬りつける。
その魔物はバックステップで離れ、僕の攻撃は少し魔物の皮膚を切ったところでとどまった。
「ガオッ!」
「!?」
その闇色の魔物は雄叫びを上げたと思うと頭を下げて尻尾を上げ、そこから雷を発射した!? 不意を突かれた僕はギリギリのところで躱すも、バランスを崩した僕のすぐそばに斧を振り上げた人型の魔物がいた。
「まずい……」
すると、その魔物の顔面のすぐそばが爆発し、その魔物はよろめいた。その隙に僕は立ち上がってスリッパの底を魔物に叩きつけた。
「アミアル! ナイスサポート!」
アミアルの方を振り向くと彼女は親指を立てた。
「やはりあの狼が厄介だな……動きも早いし、魔法を撃てるときた」
「そうだね。じゃあそいつらに注意しつつまずはでかいのをやろう」
アミアルと僕が横並びになって魔物達をまっすぐ見据える。前もこんな感じで戦っていたのかな。
「ガルルッ!!」
狼のうち一匹が姿勢を低くして尻尾を立てる。
魔法が来る!
「来るよ! 回避!」
僕とアミアルが両脇に飛んで稲妻を避ける。そのまま僕は地面を踏み込んで顔の無い人型の大きな魔物に突撃する。
「はあああっ!!」
光る刃を最大出力にし、それを魔物の心臓部分に突き刺した。
「………」
大きな魔物は何も言わずに仰向けに倒れると、動かなくなった。
振り向くと、ちょうどアミアルも倒したようだ。
「さあ、あとはこいつらだけだ!」
「ああ。一気にカタをつけるぞ!」
狼が陣形を取り僕らを囲い込む。全方位一斉に魔法を撃つ作戦か。でも、僕らにそれは効かない!
狼がみんなで魔法を撃つ。それは全てアミアルの刻印魔法と僕のスリッパによって防がれた。攻撃が全く効いてないことに狼達は戸惑っているようだ。僕達はその隙を見逃さなかった。
「ふん!!」
僕が狼の首をスリッパで切り落とす。アミアルの方は刻印魔法陣をそのまま狼共に叩きつけ、圧殺していた。
ひええ、怖……
「最後はアイツだな」
アミアルが狼の中の一匹、とりわけ大きく、落ち着き払ったやつを指した。おそらくあの四匹の中のリーダーだ。
「ウオオオオオオン!!!」
その狼は雄叫びを上げると、幾つもの魔法陣が稲妻によって描かれる。
「何をする気だ……?」
その魔法陣からは、なんとさっきの魔人と同じ、それかそれよりも大きいエネルギー弾が4つ出てきたのだ。
「は!? アイツ、さっきのやつより強くないか!?」
「僕もそう思う! なんでアイツがあんなのを呼べたんだ!?」
と言っている間に、狼はエネルギー弾を一斉に飛ばしてきた。
防げるか……?
「絶対に止めて見せる!」
アミアルが一歩前に出て、刻印魔法を展開する。そこにエネルギー弾が激突し、殊更眩しい光を放つ。
「う……!? ぐっ……」
アミアルが、押されてる! 少しずつだけどアミアルの身体は後ろに下がっている。まさかアミアルが負けるなんて……
いや、そんなことを考えている場合じゃない! 僕も加勢しなきゃ!
「手伝うよ、アミアル!」
「ああ……すまない」
アミアルの肩を後ろから支える。
お、重い……2人がかりでも押されそうだ。
その時、いきなり僕達を押す力が弱まり、ついには消えてしまった……
「あ……? 勝った、のか?」
刻印魔法陣を消し、狼がいた方向を見る。そこには、首が落ちた狼と、余裕そうな表情をしたゼイランがいた。
「お前達、よくやったな。依頼達成だ」
「そうですか!! ありがとうございます、ありがとうございます。これでまた交易することができます……」
ヴェイスドに報告すると、村長は涙を溜めて僕達にお礼をした。
「お礼はしっかりと預けました。後でギルド様から受け取っていただけるでしょう」
「ありがとう。しばらくここには魔物は出ないはずだが、また困ったら言ってくれ。では」
僕達はテルパ村を後にした。
「しかし、こんな辺境に魔人が現れるとは……」
「何かおかしなことが?」
渋い顔をするゼイランに尋ねる。
「ああ。本来魔人はアルフダルワッドから少し離れたマゲレドに住んでいるのだが、一番進出したとしてもアルフダルワッドとマゲレドを隔てる森までなのだ。だが、ここまで出てくるとなると……これはギルドに報告するべきだな」
「「………」」
僕もアミアルも黙ったままだった。アミアルはよくわからないけど、僕は話が理解できていないだけだった。でも、聞き返すのもアレなので、とりあえずわかったようなフリをする。
「……さて、こんなところでこの話をしてもどうしようもないな。さあ、帰ろう。確か馬車は……あそこだ」
任務を受ける前に止めておいた馬車のところへ向かう。馬乗りはしっかり待っていてくれたみたいだ。どうやって暇を潰してたんだろう……
「さあ、帰りも頼むぞ」
と、ゼイランが馬車に乗ろうとしたところで……
「その必要はない」
「アミアル?」
なぜかアミアルは得意げな顔をしている。どうしたんだろう。
「なあ、さっき私がギルドの近くに刻印したか分かるか?」
「? わからないけど……」
すると、アミアルはまた得意げに笑って、
「このためさ」
と言うと、地面に刻印魔法陣を展開した。それはいきなり白く輝き、僕達は光に包まれた。眩しくて目が開けられない……
「………」
「さあ、着いたぞ」
気づくと、そこはギルドの前だった。横を見ると、馬車もゼイランも馬乗りもいて、みんな口を開けている。
「こ、これは……」
「これは『接続』の刻印魔法だ。離れたところから以前にに設定した場所に一瞬で移動することができる」
「………」
静寂の中、ゼイランは長いため息をついた。
「はー、お前達のお陰でいろんな常識が音を立てて崩れる。それが良いことなのか、はたまた悪いことなのか……」
「まあ、楽だから良いじゃん? あ、馬乗りさん、ありがとうございました」
「え、は、はい……」
「そう言う話じゃなくてな……」
と、そんな話をしながら、僕達はギルドの建物に入るのだった。
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