Section17 〜ボスバトル〜
「食らエっ!」
ミラルザの背後から触手のようなものが僕らに向かって超高速で向かってくる。
そう、それはもう既に『ブロック』ではなかった。岩でできていることには変わりないんだろうけど、それは自由にうねり、狙いを正確に定めてくる。
僕はそれに対して『シャープネス』で対抗した。なのに……
「あれっ!? 斬れない……」
僕のスリッパはその岩の触手に弾かれた。
どうして、と思うまもなくそのまま僕は触手に殴り飛ばされてしまった。
「ぐっ……」
壁に叩きつけられるも、何とか受身をとってダメージは最小限に抑えられた。
『シャープネス』が効かないなんて……まだレベルが低いから、というのもあるだろうけど、さっきよりかは強度が全く違う。
ふと、触手を受け止めているアミアルがいきなり魔法を解いた。
「危ない、アミアル!」
脚に魔力を載せ、壁を蹴る。その勢いを利用して、僕はその触手達を『打撃力』を乗せたスリッパで叩き割った。
バランスを崩したらしいアミアルをなんとか両手で受け止め、触手を跳んで避ける。
「っ……すまない」
「うん……大丈夫?」
「ああ……一瞬立ちくらみがしただけだ」
立ちくらみ? アミアルの魔力が少なくなっている、ということ?
「休む?」
「いや……私はこんなところで休むなんてことはできない」
「無理はダメだよ、アミアル……」
僕が心配してそう言うと、アミアルはふ、と笑って、
「もし私がここで休んでしまえば、同じ言葉をそっくり返さなければいけなくなるな。私もお前に無理をさせたくない」
と返した。それを聞いて、少しだけ僕の気持ちも楽になった。
「わかった。本当にやばそうだったら休んでね?」
「わかっている。もう大丈夫だ」
アミアルがしっかりと床を踏み、僕の隣に立つ。
ミラルザの方を見ると、表情も全く違っていて、今にも殺してやろう、といった感じだ。まあ、殺す気はないんだろうけど。
「お前達は僕を怒らセた。かつてなイほどの苦痛を味わワせてヤろう!」
ミラルザが勢いよく両腕を振り上げる。すると、部屋の至る所から岩の触手が飛び出してきた。
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なんだったんだ、今のは……
私は触手を迎え撃つ体勢を整えながら考えていた。
今一瞬、心臓が一際強く拍を打ったと思うと、いきなり身体から力が抜けた。
また魔力の枯渇か?
……いや、まだ魔法は問題なく使える。魔力不足が原因ではないだろう。
では、なぜ?
私はこのダンジョンに入ってからのことを思い出した。
さっき深淵で話したことと同じ、私の身体の中にいる『何か』……
あれが今の現象と何か関係がある……?
どちらにせよ、もうこれ以上相棒に負担をかけるわけにはいかない……
私はもう一度左胸に手を当てて、ミラルザの出方を伺った。
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ものすごい速さで迫ってくるそれをなんとか避け、たまに弾く。
このままじゃ体力が持たない。早く元凶をなんとかしないと……!
触手と触手の間を縫ってミラルザに向かって思い切り跳ぶ。
「はああっ!」
伸ばした光の刃でミラルザを袈裟斬りにしようとしたところで……
「くそっ」
ガッという音と共にギリギリ岩のブロックで塞がれた。
そこで生まれた隙を逃さず、僕の横腹を触手が殴打した。
「ぐはっ……!」
吹き飛ばされ、何度も転がって壁に激突する。
「ゴホッ……ガハッ」
咳き込むと同時に血が吐き出される。
くそっ、右の肺がやられた……? たった一撃でこれか。もう攻撃を食らうわけにはいかないな。
痛む右の胸を庇いながら立ち上がる。
とにかくアミアルか僕、どちらかだけに攻撃を集中させる訳には行かない。急げ!
僕はまたミラルザの元へ走る。
「あの攻撃をまトもに食らって耐えるとは。さっきノやつなンて一撃食らっタだけデ動かナくなっタぞ」
さっきのやつ、恐らくゼイランの仲間の事だな。
「そう簡単にやられる訳にはいかないんでね!」
岩の触手をスリッパで叩き返しながら答える。
そう、本当にやられる訳にはいかない。無惨に虐げられた人々のためにも、囚われたゼイラン達のためにも、任務のためにも……僕達はここで勝たなければいけないんだ。
「はあっ!!」
迫る触手を無理やり叩き割る。
「チッ……図太い奴らダ」
砕け散った触手を一瞥してからミラルザがつぶやく。
「もうコレクションなどドうでも良い。お前達は早急ニ始末する!」
ゴウ、と追加の岩の触手が現れる。
僕はその触手を迎え撃とうとした……その時、
「きゃっ……!?」
「メニア!!」
後ろから悲鳴が聞こえてきて、振り向くと岩の触手がメニアに迫っていた。
この時メニアの元へ向かう前に周りを確認していなかったことが間違いだった。メニアに向かっていた触手を弾こうとした瞬間……
「なっ……!?」
触手がいきなり後ろに引かれ、僕のスリッパは空を切った。その隙に……
「ぐっ!?」
「ウェルズさん!」
後ろからつけてきたらしい触手が、僕の腹部あたりを貫いていた。悲鳴も上げられない激痛が身体中を走り、僕の口から血が垂れる。
「……がぁっ……」
鋭利な触手が僕の身体から引き抜かれる。僕は全身から力が抜け、そのまま倒れた。
「ウェルズさん!」
「大丈夫か!?」
まさか、メニアを狙った触手が囮だったとは……多分、この先に起こるであろうことも完全に予測しているに違いない。
かなり激昂して冷静さを欠いていると思いきや、そこまで思考が行き届いていた、と言うことなのか……?
メニアとアミアルが僕の所に走ってくる。
「ダメだ、来るな……! 全部アイツの計画のうちだ、僕に構わず、アイツに集中して……!」
という声は代わりに血を吐くだけにとどまった。
アミアルとメニアが触手に捕えられる。
あ、ああ……そんな……
ゼイラン達だけじゃなく、メニア、さらにはアミアルさえも守らないなんて……
そんなの、嫌だ……!
そんな僕の思いなど無視しているかのように僕の身体からどんどん力が抜けていく。
意識が……どんどん遠のいて……
その時、僕は不思議なものを見た。
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私は相棒が触手に身体を貫かれたのが見えた途端、思わず走り出していた。その時、周りを警戒していなかったのが失敗だった。
相棒のところに向かっている途中、岩の触手がいきなり私を追い越すと、私の胴に巻き付いた。
「なっ……」
見ると、メニアも触手に捕えられている。
「……くそっ」
腕ごと巻き付かれているせいで魔法が発動できない。
「もウお前達に勝ち目ハない。ゆっクりと、倒レた仲間を見て絶望シながら死ぬト良い」
私達を捕える岩の触手の力が強まっていく……
「あっ……あああああああっ!!!」
「くうっ、うううっ!!」
全身の骨、肉が締め付けられ、軋む。呼吸もままならず、このまま身体が潰れて死ぬか、酸欠で死ぬかの二択だった。
私は意識が飛びそうな痛みの中、私達の故郷について考えていた。
魔法都市マリィス……記憶を失う前のアイツと共に活動の拠点としていた土地。その都市は私達が意識を失っていた間に滅びた。
私達はその真相を知るどころか、帰らないまま死ぬと言うのか……?
………ふと、いきなり全身から痛みが消えた。
まさか、私は死んだのか……?
周りを見てみると、私はまだ触手に捕えられていた。向こうには、メニアが……
「!?」
今なお締め付けられ、苦しんでいるはずのメニアの動きが止まっていた。
ミラルザの方を見てみても、動きを止めている。
時間が止まっていた。
ふとその時、
「ねぇ、聞こえてる? この身体の『持ち主』さん」
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