Section12 〜ギルド長との対談〜

 「とりあえず座ってくれよ」


 ギルド長が手をチョイチョイとするので僕達はベッドから出てアンテルイと同じテーブルに着いた。


 「お菓子もあるから取ってくれ。お茶、いるかい?」

 「あ、い、いただきます……」


 結構気前のいい人だな。さっき戦った時とは人が全然違う。


 「……さて、君達がどんな道を歩んできたのか教えてくれ」


 一旦紅茶を飲んでからアンテルイが言った。僕達は見知らぬ草原で目覚めてからここに来るまでのことをアンテルイに話した。


 「……なるほど、君達は記憶を失っているんだね」

 「そうです」


 アンテルイはうむうむ、と頷いて、


 「『スリッパ』という武器もそこで手に入れた、と」

 「はい」

 「でも、僕の知る限りスリッパは武器ではないんだけど……?」

 「それは……」


 そりゃ最初は僕もそう思ったさ。僕の記憶が正しければ3回くらいは訊き直した。


 「ご覧になりますか?」


 とスリッパを取り出そうとすると、アンテルイは首を横に振って、


 「いや、いいよ。それの秘密を知ってしまったら次戦う時につまらないだろう?」

 「確かにそうですよね。……って、え?」


 「次戦う時に」? 次があるの!? ついさっき(?)散々ボコボコにされたのに!?


 「ははは、僕が君達を認めているってことだよ。そんな人は多くない。……それはともかくとして」


 僕の表情を見て察したらしいアンテルイが笑いながらそう言う。

 その後、またアンテルイが紅茶を一口飲んでから続ける。


 「アミアル君、だよね? 君と戦ってわかったんだけど、君のその身体は魔人のものだ」

 「えっ」

 「そんな」


 僕がアンテルイに聞き返し、アミアルが口を塞いだ。


 「魔力の波長からして間違いない。君の身体の持ち主であるカフィア君……さん? は魔人だったようだ」


 見ただけでわかるのか……? これも経験なのか、はたまた生まれつきの能力なのか。


 「どうして、わかるんだ……?」

 「これは、人間と魔人の根本的な差だ」


 アンテルイによると、人間が魔法を発動する際、何か補助的な物が必ず必要なのだそうだ。身体強化系などはその例外の一つで何もなくても使えるのだが、攻撃系の魔法は魔導書や杖などの武器がなければ使えないらしい。

 つまり、僕も『スリッパ』という武器を媒介にして魔法を行使している、ってわけだね。

 でも、それはともかくとして、一つ気になることが……


 「つまり、最近魔人が多いと言うのは、まさか……」

 「うーん、絶対とは言いにくいがそれもあり得るにはあり得る、ということだ」


 そんな……結局僕達のせいじゃん! 誤解も何もないよ!


 「じゃ、じゃあ、私達はどうすれば」


 アミアルも僕と同じ考えなのか、半ば懇願するような表情でアンテルイを見る。彼は優しく微笑んで、


 「大丈夫だ。君が魔人であることは当分公表するつもりはないよ。魔人の件は僕らに任せて、いつも通りここで生活して貰えばいい」


 と宥めるように言った。


 「でも、原因は私だ……」

 「気にする必要はない。真の原因を突き止めてそこから対策を講じるまでだ。まだ君が全ての原因と決まったわけじゃない」

 「……わかった」


 アミアルはその静かな言葉にそっと押されるようにまた深く座り直した。


 「さて、話は変わるけど、そんな君達もギルドの一員だ。君達は『依頼の受注』の他に『依頼の参加』を知っているかい?」


 僕とアミアルは揃って首を横に振った。アンテルイはうん、と頷いて、


 「僕らの運営しているギルドにはただ依頼を受注するだけじゃなくて、大人数で行う依頼、任務なども受け付けている。その依頼は大体日にちが決まっていて、メンバーはそこに参加することができるんだ」


 ふーん、そんなシステムもあるんだ、知らなかった。


 「でも……そんないきなり参加してもいいのか?」


 と少し気掛かりといった様子でアミアルが質問する。


 「心配はいらない。その依頼を受ける代表者、つまりチームリーダーは参加するメンバーについて条件を設定できるんだ」

 「「条件……」」


 僕達がつぶやくと、アンテルイは頷いた。


 「参加人数の上限、使える武器タイプ、年齢、身長、体重など色々ある」


 まあ、それもそうだな、と思う。ハイレベルの人達で挑みたい依頼にいきなりレベルの低い人が来てもらっても困るからね。


 「それで……どうして今その話を?」


 僕がずっと思っていたことをようやく訊けた。


 「実は、この街の近くに新しいダンジョンが発見されてね。その調査に乗り込もう、と言う話さ。そこで、君達にも行ってもらおう、ってことになったんだ」


 なるほど、僕達と話をしているもう一つの理由は多分それだな。


 「えーっと、僕達なんかがついて行っちゃって良いんですか……?」

 「問題ない。定員は20人だが、その他の条件はほぼ武器とかについてだ。君達はもちろんその条件をクリアしているから大丈夫。しかも、心強い味方がいるからね」

 「「心強い味方?」」


 僕達が訊き返すと、アンテルイはうん、と頷いて、


 「君達も知っている人だ。ゼイランがリーダーをする」


 と言った。

 ゼイランが!? それは頼もしい!


 「そういえば、アンテルイは行かないんですか?」


 と僕が訊くと、アンテルイは困ったような表情をした。


 「僕がそんなに暇な人に見えたかい……? 一応『ギルド長』という肩書きを持っているんだけどね……」


 あ……そうだった。


 「そ、そうでしたね……あはは……」

 「ふう……まあ、いいや。君達の分もすでに申し込みはしてあるからね。そこについても心配は無用だ」


 やっぱり話が早い。流石はギルド、というか流石はアンテルイか?


 「わかりました。ありがとうございます」


 と部屋を出ようとすると、


 「ちょっと待って、君達は今パスポートって持ってる?」

 「? 持ってますけど……」


 僕とアミアルがパスポートを取り出す。


 「少し貸してくれないかな」


 とパスポートを僕達から受け取ると、ポケットから何かを取り出した。


 「それは……」

 「判子?」


 アミアルの言葉にアンテルイが頷いた。


 「その通り。この判子は僕のみが持つことを許されている。コレを君達のパスポートに押してあげるよ」


 と僕とアミアルのパスポートに順番に判子を押していった。


 「困った時はこれを見せるといい。じゃあ、明日頑張ってきてね」

 「はい、ありがとうございます!」

 「世話になったぞ!」


 というわけで、僕達は召使いさんに見送られてアンテルイの家を出るのだった。




 建物を出ると、もう日も落ちかけていた。


 「いやー、面白い人だったね」

 「そうだな。どっちが本来の彼なのかわからなくなったけどな……」

 「はは、そうだね。……さて、明日からまた仕事だ。気合を入れていこう!」

 「ああ! ……ところで、今どこへ向かっているんだ?」


 ふとアミアルが僕にそんなことを訊いてきた。


 「え? 宿じゃないの?」

 「それはわかるんだが、どうやって行くんだ?」

 「………」


 僕とアミアルは顔を見合わせた。

 その後、迷いに迷って宿に着く頃にはすでに日が完全に落ちてしまっていたのはまた別の話だ。






 次の日の早朝、準備を終えて出ようとしたところで、扉がノックされた。


 「はい」


 そう答えて扉を開けると、そこにはここの宿の従業員らしき人が立っていた。


 「おはようございます。アンテルイ様からお荷物をお預かりしております」

 「アンテルイさんから?」


 従業員さんは頷いて、


 「今回はそれをお渡しに参りました」


 と僕に箱のようなものを渡した。


 「あ、ありがとうございます」

 「では、ごゆっくりお過ごしください」


 と言うと、そのままどこかへ去って行ってしまった。


 「中身はなんだろう?」


 あまり重くない。箱には何も書かれていなかった。

 アンテルイさんからの荷物……気になる。


 「開けてみればいいじゃないか?」

 「そうだね、まだ時間もあるし」


 と、僕は箱を開けた……そこには、


 「これは……」


 箱の中には、なにかが畳まれて入っていた。広げてみると、服だった。サイズからしておそらく僕のものだろう。


 「これ、くれるって言うのかな?」


 服の外からあてがってみると、サイズは完璧だ。これまたどうやって測ったのだろう……


 「早速着てみよう」


 今着ている古びたシャツと短パンを脱いで服を着る。

 着心地は最高だ。上質な布が僕を包む。

 スカーフも付いていたので、それを首に巻いた。


 「おお、似合っているぞ! ……でも着替える場所を考えて欲しかったが」

 「あ、ああ、ごめん」


 そういえばそうだった……いつも一緒にいるから配慮を完全に忘れてた。

 誤魔化すように腕を上げ下げしてみる。動きに支障は全くない。

 やっぱりすごいな、ギルドは。

 ……ん? 何か手紙が入ってる。

 広げてみてみると……


 『お近づきの印だ。今日の任務はこれを着て言ってくれ。特別なおまじないがかけてあるから、いつか君を助けてくれるよ』


 とのことだった。

 特別なおまじないって……もう少しまともな表現はなかったのかな、ギルド長……

 でもありがとう、アンテルイ。僕はこれで任務を完遂して見せる。


 「ん? おい、まだ何か入っているぞ」


 アミアルが箱の中を指差す。そこにはまた何か服のようなものが入っていた。


 「これは……アミアルのものみたいだね」


 入っていたのは今アミアルが着ているのと同じ真っ白なワンピースだ。おそらく替えのためのものらしい。


 「なるほどな。まあ、今はいいか」


 とアミアルはワンピースを箱に戻した。


 「さあ、行こうか!」

 「ああ!」


 僕は新しい服と共に心も一新するために気合いを入れ直す。

 僕達は扉を開けて外に出た。






 「おお、やはり来ていたか。お、それは新しい服か?」


 ギルドの建物に入って早々ゼイランが僕達に手を上げた。僕もそれに応じる。


 「おはようゼイラン。これ? そうだよ、アンテルイさんから貰ったんだ」

 「そうか、それは羨ましいな。こういったことをしてくれるのはアンテルイ様に認められているお前達だけだぞ」


 そうなんだ。てっきりよくわからないところから来た僕がみすぼらしい格好をしているからお情けで……というのかと思った。実際そうかもしれないけど……

 それにしても、人が多いな。


 「ここにいる人達は全員任務を受ける人?」


 僕がそう訊くと、ゼイランはうむ、と頷いて、


 「そうだ。今日はなかなか良い面々が揃ったぞ」


 と説明してくれた。


 「全員揃ったか? 一旦集まれ!!」


 建物中に響き渡るほどの声量でゼイランがみんなに呼びかける。その一言でみんながゼイランの元にやってきた。


 「本日、このメンバーで新しいダンジョンに挑むことにする!」


 おお!! という声が建物内を満たす。


 「へぇ、それは良いけどよゼイランさん、なんだか見たことのない奴が二人いるようだが?」


 とあるメンバーの一人が僕達を見ながらゼイランに尋ねる。


 「ああ、こいつらか? こいつはウェルズで、こっちがアミアルだ」


 ゼイランが僕達のことを紹介する。すると、


 「ああ、コイツらだったのか、見たことのない武器を振り回しながら戦うやつ、というのは」


 とその男は目を見開きながら大袈裟に仰け反った。

 そんなに僕って有名なの? いやー有名人は困るなぁ。

 ……うんやめよう。そんなこと考えていてもただ虚しいだけだ。

 その男の話はまだ続いていた。


 「それで、そこの小さいのがアミアルか?」


 くい、と顎でアミアルを指しながら男が言う。


 「ああ、そうだが……」


 アミアルさん、もう「小さいの」発言には慣れていらっしゃるようだ。いや、いちいち反応するのが面倒くさくなったとか?


 「お前、ダンジョン舐めてんのか? ダンジョンはな、お前みたいなのが行っていいところじゃないんだよ」

 「………」


 うーん、もうそろそろやめてあげて? アミアルがお怒りモードになっちゃうから……

 と言うところで、ゼイランが口を開いた。


 「そのくらいにしておけ、パズ。コイツらは俺が見込んでる奴らだ」


 その男はパズというらしい。パズはまたもや驚くようなふりをして、


 「そうだったか、ゼイランさん。こりゃ失礼した」


 と今度は僕達に頭を下げた。


 「なんなんだ、アイツ……」


 アミアルがパズに聞こえないような声で僕に訊いてきた。


 「はは、そういう人もいるってことだよ」


 僕もよくわからなかったので、とりあえずそう答えることにした。


 「……そろそろ時間だな。では、出発するぞ」

 「「「おう!!!!」」」


 今いるメンバー全員がゼイランの後に続く。

 今日、初めての大人数での任務だ……緊張するな。気合いを入れていこう!





 外では馬車が待っていた。僕達はそれに乗り込む。

 馬車が動き出す。これにより、ダンジョン攻略の任務が始まった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ここからはダンジョン攻略の話になります。

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