Section4 〜ギリギリ救出劇〜
洞窟に残った化け物達を薙ぎ倒し、洞窟から出る。
急げ、急げ!
なんとか森から出ると……
「そんな!」
怪物達が家を取り囲んでる!
怪物が扉や壁をがむしゃらに叩く。家はところどころヒビが入っていて、壊れてしまうまでいくばくもないだろう。
『座標共有』を使うか!? いや……この遠さじゃ届かないし、スリッパが飛んでいる間の時間もロスになる。
僕はカフィアを抱えたままもう一度走り始めた。
が、すでに遅かったようだ。ついに家が崩れ、けたたましい轟音と共に、砂埃を上げて瓦礫が転がる。
「アミアル!」
もっと、もっと速く!
無意識に僕の魔力が僕の背中を押し、足を強く前に出させる。
「うおおおおおおお!!」
スリッパの『防護障壁』で化け物を弾き飛ばしながら突き進む。
ついに、5秒ともせずに家まで辿り着いた。
まだ砂埃が舞っている家の残骸の中を進む。気配を辿って瓦礫をかき分け……いた、小さく、弱々しい光が一つ、瓦礫の中に埋もれていた。
僕は慌てて円形の『防護障壁』を展開した。
『……すまない、心配をかけてしまって……』
「何言っているんだ、友人を放っておくわけないだろ、ここでただ1人の友人……相棒とも言って良い。そうでしょ? 以前、僕と一緒に戦っていた、と言うなら」
アミアルは少し鼻を啜った……気がした。わからないけど。
『ありがとう……だが、このままではまずい。私が消えてしまう』
「そんな時に、これ、見えるかい?」
僕は瓦礫を少しどけて、カフィアを平らになっている大きな壁(だったもの)に横たえた。
『これは……?』
「僕が洞窟で出会ってきたカフィアっていう少女なんだ。あの子は僕にこの身体をくれた……だから、この中に入ってくれ」
『ええっ、だが、他人の身体の中に入るのは少し……』
アミアルは乗り気ではないようだ。そりゃそうか。勝手に身体の中に入ってその身体を使う、というのは少し申し訳ない感じがあるのだろう。
「でも、君のことを思って言っているんだ。僕の力で家をまた建てるのは不可能だ。だから、この中に入れば……」
アミアルはまだ決断がついていないようだ。
『ああ。それは本当に嬉しいのだが、人の身体に乗り移るのには少しリスクがあってだな……』
「リスク?」
『ああ。魔力の波長が合わずにもし乗り移ることに失敗すれば私は消滅してしまうだろう。なぜかは知らないが、私はそれを知っている』
失敗したら消滅……それを聞いて、急に自信がなくなってきた。
……それなら、成功させればいい。アミアルと一緒にいられるために!
「やろう」
『……は? 話を聞いていなかったのか?』
「いや、聞いていたよ。失敗したら消滅、でしょ? ならば成功させれば良いじゃないか!」
すると、一瞬の間の後、アミアルはふ、と笑って、
『なんだか、少し懐かしい気がした。おそらく以前のお前もそうだったんだろうな。わかった。やってみようじゃないか』
よーし、そうと決まれば実行だ!
「じゃあ、始めるよ」
『いつでもオーケーだ』
僕は頷くと、アミアル(の光)を両手で持ち上げる。それをカフィアの身体の胸のところに持っていくと、優しく光を沈み込ませた。
そのまま、あとは待つだけ……
どくん
「はっ!?」
どくん、どくん
左胸に置いておいた手に感触が返ってくる。それはどんどん強く、早くなっていくと、ついに普通の人間程の早さになった。
カフィア、いや、アミアルが目を開ける。
「アミアル!?」
「ああ……成功、したんだな……?」
よいしょ、とアミアルが起き上がる。
「アミアルっ!!」
「わっ」
僕は堪え切れずにアミアルに抱きついた。
「な……何をするんだ、年甲斐もなく……」
声はカフィアのものだけど、ちゃんとアミアルだった。アミアルが少し抵抗しているけど、僕はしばらく離す気はない。
「………」
アミアルは観念したのか、僕の背中に腕を回してきた。そのまま僕らはしばらく抱き合うのだった……
「ガガッ!!」
「はっ!?」
僕達は化け物の苛立ったような声で我に返った。
そうだった……僕らは障壁の中で怪物共に囲まれてる。このままここにいても状況は良くならない。
僕とアミアルは立ち上がった。
「アミアル、目覚めてすぐで悪いけど、戦えるかい?」
「ああ……この身体にまだ少し慣れないが、行ける」
「よし。もうそろそろ障壁を解除する。そうしたら戦闘開始だ、良いね?」
アミアルはこくりと頷いた。
地面に置いてあったスリッパを拾い上げる。
「行くぞ……3,2,1,0!」
僕は『防護障壁』を解いた。化け物を阻むものが消えすぐさま襲いかかってこようとする。
「吹き飛べっ!」
アミアルが前でクロスさせた両腕を思い切り両横に振り抜く。すると、衝撃波が生まれ、辺り一体の怪物を吹き飛ばした。
「よし、ナイス!」
僕も負けていられない。『打撃力Ⅰ』と『座標共有Ⅰ』を用いて、スリッパを投げつけて化け物を弾き飛ばし、スリッパを手に引き戻すという戦法を使う。
アミアルは瓦礫も使って上手に戦っているみたいだ。
しばらくその戦い方を続けると、怪物の量もまばらになっていった。
「よし、このくらいで良いだろう。脱出しよう!」
「脱出だと?」
「うん。『座標共有』でここから緊急離脱する。流石にもうここには居られないだろうしね……」
「わかった。じゃあ、頼んだぞ」
「オーケー。じゃあ、手を繋いで」
僕が手を差し出すと、アミアルはその手を掴んだ。
「よし、いっ……け!」
魔力で腕力を増強させ、思い切り振りかぶった後スリッパを前方に投げ飛ばす。スリッパは大きな放物線を描きながら飛んでいった。
「もうそろそろ良いかな……」
スリッパが飛んでいった方に手のひらを向け、スリッパを念じつつ手を握る。すると、一瞬で景色が変わり、僕達は人一人分の高さのところに移動した。
「わわわっ!?」
「よっと」
アミアルが空中でバランスを崩したようなので、なんとか抱き止めてから着地する。
「よーし、脱出成功!」
「それは嬉しいのだが……そ、そろそろ降ろしてくれないか……」
消え入りそうな声がしたので、ふと下を見てみると、僕がアミアルをお姫様抱っこしている構図になっていて、当の彼女は顔を赤くしていた。
「ああ、ごめんごめん、降ろすよ」
僕は慌ててアミアルを降ろした。
「全く……私の身体が小さいからという理由で少し調子に乗りすぎではないか」
「いやいや、そんな事はないよ」
アミアルは膨れっ面をして拗ねている。その仕草もなんだか可愛いので、ほっこりしてしまう僕であった。
「それはともかく……これからどうする?」
辺りを見回す。でも、自分を守ってくれそうな洞窟も、建物もない。完全に真っ平らな草原だ。
「そうだな……家を建てるにも、材料が無いしな」
本当に何もない。なんならあの森でいくつか森林を伐採しておくべきだった。
まあ、過去の失敗でうじうじしていても仕方がない。今のこの状況を打開する方法を考えなくては!
「とりあえず、進もう。運が良ければ誰かに会えるかもしれない」
「そうだな、行こう」
僕らはまた冒険を開始しようとした……その時、
「おい、あれを見ろ」
「ん?」
アミアルがとある方向を指差す。見てみると、何か列のようなものが僕らの方に向かってきていた。
「なんだあれ?」
「少し見てみよう……どれどれ……」
アミアルが手のひらをその列に向けると、幾つもの円形が現れ、陣のようなものを結んだ。これは……
「え、アミアルって刻印魔法使えたっけ?」
「いや、おそらくこの子の記憶だ。私もこの身体に乗り移ってから知った」
ああ、カフィアが言っていた有用な『情報』ってこの事だったんだ。数多の刻印魔法……それらをうまく扱えられれば、頼もしい事この上なし!
「……あれは、人間だ。隊列を組んでやってくる。『望遠』の刻印魔法ではっきり見えた。間違いない」
あの列の正体を確認したアミアルが驚きを隠せないかのように静かに言う。当然、僕も驚いていた。
人間だって!? ここに来る人間は、元々ここの住人か、あるいは……
「あの人達が外から来た人なら……」
「ああ。マリィスに一歩近づくかもしれない」
その列はだんだん近づいてくる。そして、僕らに気づいたらしく、
「貴様ら、何者だ! 名を名乗れ!」
と、リーダーらしい人がそう叫んだ。
「えーっと、僕の名前……」
完全に忘れてた。そういえば僕、自分の名前すら覚えていないんだった。
「私はアミアルだ。そして、えっと……」
アミアルも苦虫を噛み潰したような顔で僕を見てくる。まずい……アミアルだけ名前がわかっていて僕はわからないなんて怪しさ極まりない。
すると、アミアルは一つ考えついたらしく、
「ウ、ウェルズだ! コイツの名前はウェルズだ」
と紹介した。
え、ウェルズ!?
「そんなんで良いの!?」
「あ、ああ……それしか思い浮かばなかった……さっきお前の名前を呼んだ気がしたんだがな……無意識だったから忘れてしまった……」
僕の名付け親は済まなさそうに僕のことを見上げた。
そんな……僕の今からの人生、適当につけられた名前で生きていかなきゃいけないの!?
という僕の絶望はいざ知らず、アミアルと隊列の間では話が進んでいた。
「とりあえず、こちらへ来い! 話を聞かせてもらうぞ」
「ほら、来いだと。行くぞ」
「うわっ」
僕の手を引いてアミアルは隊列の方へ向かっていく。
「ふむ、そのみすぼらしい格好をしているのがウェルズ、で、そっちのチビがアミアルだな。俺はゼイランだ。よろしく」
ゼイランと名乗った男が馬の上から僕らを見下ろす。
「チビとはなんだ、チビとは!」
アミアルが『チビ』発言に憤慨する。たしか気にしてたな、そんなこと……
「あの……いま、僕達は住むところがなくて困っているんですけど……」
と僕が伝えると、ゼイランは少し考えてから、
「……つまり、俺達についていきたい、ということか?」
と訊いてきたので、僕達は無言で頷いた。
「なるほど……乗れ」
「ちょ……ゼイラン様!? こんな怪しい者共を我々の共に置いて大丈夫なのですか!?」
とゼイランの斜め後ろで馬に乗っている全身甲冑の護衛さん(おそらく男)が慌てた様子でゼイランに尋ねた。
そりゃあ、そう言われてもおかしくないな。こんな未開の土地のど真ん中で見つかった男女一組なんて怪しいことこの上ない。
「心配するな、しっかりと持ち物検査をする」
とゼイランは答えた。
というわけで、僕達は台車に乗せてもらうことにした。
「変なものを持っていないか確認させてもらう」
と言うと、護衛はボディタッチ方式で僕達の手荷物を確認し始めた。
「嫌っ、どこを触っているんだ、変態!」
今日もアミアルは元気だなぁ。
などと考えていると、
「おい、これは何だ!」
といきなり怒鳴られた。見てみると、護衛が僕のスリッパを摘み上げている。
それを取られるとまずい!
「そ、それはお守りです。僕がずっと持っているものです」
と言うと、
「ふん、武器じゃなければ良い。つまらん」
と言って僕に投げてよこしてきた。武器だけどね。
なんとかキャッチしながら、分析板を出されなくてよかった……と心の中で胸を撫で下ろすのだった。
「……さて、落ち着いたところで話を聞こうではないか、ここはどこなのか、貴様は何者なのか」
ゼイランが振り向くこともなく僕達に尋ねる。僕とアミアルは顔を見合わせて頷くと、今まであったこと全てを話した。
「……ふむ、俄には信じられん話だが、ここは未開の土地、何があるかもわからん。ひとまず信じておくことにしよう」
「僕達は、今からどこへ行くんですか?」
少し間が空いた後、ゼイランは、
「そうだな……まだあまり調査が進んでいないが、一つ、いや、二つ発見があった。ひとまず帰るとしよう、我らの都市、アルフダルワッドへ」
と僕らに告げるのだった。
―――――――――――――――――――――――
次からは都市、アルフダルワッドでの話へと移ります。
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