第11話 大は小を兼ねる

 宣託市内某所。複数の黒い球体が出現していた。黒い球体は、周囲の物をすべて飲み込んでいった。黒い球体はしばらくして消え、そのあとには何もなくなっていた。それが伝わり、全国的に大騒ぎになった。上司は、テレビで報道を見ていた。

「うんうん。何!?」

速報が入った。それは黒い球体が全国各地に現れたという内容だった。

「うーん。そろそろ私の出番かな。」

ちょうどその頃、又三郎は妻と子とともに避難していた。

「雛菊。手を放すなよ。」

「はい。三郎さん。」

(どうしてこんなことに。親父は大丈夫なのか?)次郎丸は意識を取り戻した。

「気を失っていたようだ。ここは、さっきのビルの屋上?黒い球体の中だな。いて!不思議な力によって出られないようだ。」

隣には、滑梶と蛙山がいた。

「どうなってる!出せ!」

「滑梶。無駄だ。」

「くそ!誰の仕業だ?」

オフィスに一人の男が席に座っていた。業務後なので部屋は暗かった。その男は手を組んで、呟いた。

「いいぞ。このまま情報を拡散するんだ。そうすれば、被害が膨らみ、恐怖する。恐怖がさらなる被害を生む。これこそ私の力、幻覚だ。もっと恐怖しろ!全員が恐怖した時、侵略が完成する。」 

鮫瓦が上司から連絡を受けた。

「藤宮さん、いや、フジサン。こちら大変な状況です。え?全国的に被害が起きているんですか?」

「全国!大変だ…」

「え?はい。わかりました。」

鮫瓦が影里に上司からの連絡を伝えた。

「ツムジカゼ。俺たちは住民の避難を誘導する。」

「え?あの黒い球体は放っといていいんですか?」

「やむを得ない。まずは人命を優先する。」

「はい。オカルト。ツー。そういうことなので2人は避難を。」

「そんな!まだ解決できてない!」

「そう言っている場合じゃないです!あ…すみません。」

「いや、こちらこそすみません。」

その時、畑神が呟いた。

「たぶんこれが悪い侵略者ね。特定できないくらい強い。」

「いや、間違いないだろう。反応を計測する機器が壊れてしまっている。」

「計測できる限界を超えてしまったみたいですね。」

「とりあえず、避難が先だ。」

岡島流人と畑神は宣託市立体育館に避難した。鮫瓦と影里は避難誘導の為再び外へ出た。そこで、又三郎と再会した。

「君はあの時の。」

「またお会いしましたね。」

「親父は一緒じゃないんですか?」

「それが…」

「そうですか。親父は一度協力すると危険を顧みない人なので、気になさらないでください。」

「…」

その時、体育館の中に黒い球体が出現した。悲が起き、人々は逃げ惑った。岡島流人と畑神は動けない老婆を助けに向かった。

「お婆さん!」

逃げるが、間に合わず飲み込まれた。

「う、間に合わなかった。」

「すまないねぇ。」

「お婆さん、ということはまだ死んでない!」

「わたしも生きてる。」

「ツー!ここは、球体の中だ!いて!出られないか。」

「これは幻覚の一種ね。外からは何もないように見えて本当はそこにまだある。」

「何も変わらず繋がっとるんじゃ。」

(オカルト。老婆ノ言葉聞イタジャロウ?)

「そうか!繋がっている。黒い球体同士なら移動できる!ルート、頼んだ!」

(任セヨ。)

岡島流人と畑神は次郎丸のいる球体に移動した。

「次郎丸さん!無事で良かったです。」

「これは、心霊現象を追う会社員、オカルト君。よく来たと言いたいが、私たちも出られなくて困ってるところだ。」

「そうですよね。移動したところで何も…」

「待って。感じる。」

「おや?君の助手が何か解決の糸口を掴んだらしい。」

「ツー。どうした?」

「ここの中だと、とても強い力を感じる。」

「よし!その方へ行ってみよう。」

岡島流人と畑神、次郎丸が手を合わせた。そこにあと二人手を合わせた。

「オカルト。俺たちも連れて行け。こんな仕業をする奴の顔を見てやる。」

「滑梶と肩を並べるくらいだ。僕も見たい。」

「おい。」

「滑梶さん、蛙山さん。わかりました。みんな、行こう。」

線状に分かれた五人は瞬時に移動した。そこは『ドリーム社』と書かれたオフィスだった。

「まさか、僕たちの会社の人が悪い侵略者だった?」

「君たちの会社、どうなってるんだ。把握しているだけでもう5人目だ。」

「ブラック企業。」

「昔そう言われてたみたいだけど、最近は働き方改革で改善されてるよ。あれ?いない!」

「君の同僚の2人なら黒幕と話している。」

急いで奥の部屋に行くと、倒れた滑梶と蛙山、そして席に座る男がいた。

「鎌桐部長、あなただったんですね。どうしてこんなことを!?」

「大は小を兼ねる。どうやら私の部下も侵略者の霊に取り憑かれていたようだが、器が小さく扱えきれていなかった。器の大きな者が器の小さい者を束ねるのは当然のことだ。」

「部長、あなたはそんなことを言う人じゃなかった。何があったんです。」

「ふふ、ふはははは!気にしないでくれ…私がどうなろうと私の勝手だ!だから、君も大人しく私の力となれ!」

鎌桐はありったけの力を放った。超音波と黒い球体が混ざり合った物体だった。

「ルート、助かった。」

(オ安イ御用ジャ。)

「あの人こそ器が小さい。」

「確かに。紳士として奇襲は良くない。」

「部長には噂があった。社内の女性との不倫の噂だ。その噂は本当だったのかも。」

「それが明るみになり、彼には居場所がなかったのかもしれない。」

「霊は波長が合う人に取り憑く。あとはその人の心が良くも悪くもする。」

「う、超音波だ。これは蛙山さんの霊の力と同じだ。」

次郎丸だけは苦しんでいなかった。

「分かったぞ。このトリックがすべて。」

その時、次郎丸が消えた。



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