酒羅場:その2 殺しのヒントはブイィィ~ン


この物語の主人公は、もと刑事であり、いまは私立探偵事務所を営む男、

『杉田乃巳男』 (すぎた のみお)


彼は、頭脳明晰な手腕によって数々の事件を解決するが、

すぐに犯人を警察に引き渡したりすることはしない。


何故なら、けして許されるべきではない犯罪を犯した犯人に、

あえて、酒の席を提供し、償いを受け入れる心の余裕を与えるからだ。


それこそが、自らが以前に犯した罪への断罪なのか?

それは、わからない。だれにもわからない……



今回も、『杉田乃巳男』 (すぎた のみお)の事件解決への推理は完璧だった。

目の前にいる犯人の男、『A男』は、ゲーセンプライズを転売して稼ぐテンバイヤーであった。

年齢は45歳で、肥満で腹が出て見た目も不健康な独身オッサンであった。

A男は、ゲーセンプライズを設置してあるお店の店員である『B子』に恋をしていた。(ちなみにB子は45歳バツイチ)


そして、A男は、自分のUFOキャッチャーテクニック(ウホテク)をさりげなくB子に披露するも、B子は、お客であるA男を疎ましく感じながらも、仕方なくそれに合わせるかのような態度で誤魔化していた。ようするに、ウザイ客であったが、はた目には仲の良いふたりに見えていたのかもしれない。


そんな時、実家が金持ちで仕事もせずにプライズの転売で小遣いを稼いでいた『C男』が現れる。C男は、金に余裕があるので、親から毎月もらっている10万円を使い、UFOキャッチャーに注ぎ込んでいた。


当然、店員であるB子とも知り合いであり、暇があればB子にからんでいた。

こちらも、超ウザイ客であった。


だが、しかし。

ウザイ客でありながらも、独身であるB子にとっては、自分を意識して話しかけてくれるA男もC男も大事な客であった。……いや、むしろ、男性と意識していたのかもしれない。B子は、自分の容姿にコンプレックスがあった。肥満体型でポッチャリ、いやデップリのおデブちゃんで、バストはSカップゴールド、ヒップはホップで、腕周りはドドリアであった。


しかし、嗚呼、悲しいかな!

若い男女にとっては、肉体の優劣など関係なかった。

というか、A男もB子もC男も、みんなデブだった。


B子は視線を感じていた。自分の体をいやらしい目で凝視してくるA男とC男。

あの獣のような男達は、私の体を視姦して、はちきれんばかりの股間を隆起させ、卑猥な行為を行うべく準備を虎視眈々とシコタンタンしているけがらわしいケダモノッ!! 私はそんな安い女じゃないのよ? 親は一流企業の役職であり、子供の頃から私立のエレベーター式の学校で学び、塾や習い事であるお琴や御茶やバイオリン、はたまたアマチュア無線を嗜んでいたのだから、あなた達は私に釣り合うような男性ではないのよ? おわかりになって!?

(でも今はゲーセンの店員なんだけどッ!!)


しかし。おわかりになってないのは、B子の方であった。

股間を隆起させながら、UFOキャッチャーの筐体の前で愛の告白をつげたA男。

そして、同じく股間を隆起させながら、千円両替機の前で愛の告白をつげたC男。


どちらも、目を爛々と輝かせ股間をビンビンと尖らせ、そして鼻息はイノシシの如く粗ぶっていた。百歩譲ってもこれはまっとうな告白などではない。例えるなら射精直前の男がエロ画像でイクなら誰でも良いような、手元のテイッシュが間に合わなくなるようなスピード感とこぼれそうなリビドーを包むような、そんな感じだった。


当然、乙女は困惑するだろう。どんだけ切羽詰まっているのよ?と。

しかし、当事者である乙女は、これをどちらも許諾した。してしまったのだ!

嗚呼、何故、ブスは欲が深いのだろうか!? 

嗚呼、何故、ブスは自分がブスだと言われることに気付かないのだろうか!?


例えば。ちょいブスな女の子がいたとする。

その女の子は、ぽっちゃりで良く見ればカワイかったりする。

そんな女の子は、少し痩せれば『カワイイ』であり、痩せなくてもデブ専にとっても可愛いのだ。だが、男性諸君はよく考えて欲しい。目の前にいるのはタダの肥満のブスである。ブスは性格が悪い。性格が悪いからブスなのである。


そして、いま、B子に告白しようとしている男達は、何を求めているのであるか?

それは、ただの性欲で、イノシシが至急に子宮を支給しようと突撃しているだけなのだ。股間のリビドーを開放すべく相手を求め、宇宙戦艦ヤマトは波動砲のトリガーを引きたいだけの古代進なのだ。


やめろッ! やめてくれッ!

愛はそんなものなのかッ?

性欲の果てのハリボテが愛なのかッ?

波動砲は撃ったら賢者タイムが待っているだけなんやでッ?


結果、B子は金持ちのC男との関係を持ち、A男はむなしく散った。

それを、恨んだA男が、B子とC男を殺した。

ただそれだけ……それだけの事件であった。

でも、いつでも殺人事件の前には、むなしい人の私利思念が絡んでくるものだ。


結局、殺人犯であるA男の犯行をみやぶったのは、

この物語の主人公であり私立探偵事務所の『杉田乃巳男』(すぎたのみお)だった。


A男は、営業時間が終わったゲーセンに忍び込み、特定のUFOキャッチャーの景品に、猛毒をあらかじめ塗っておいたのだ。そして、B子とC男が、その景品をキャッチし、ふたりでそれを使う事を前提としていたのだから。しかし、何故、その景品をB子とC男が触れる事になったのだろうか? それは、A男がふたりの付き合いを祝福してのプレゼントであったのだ。


そのプライズ品とは、『オトナのオモチャ』だった。


電動でブィィ~ンと振動するオトナのオモチャをアレにソレするのは明白だった。

付き合いだしたばかりのB子とC男は、さかりのついたイノシシの如く、アレをソレしてコレするだろうとわかりきっていたA男の犯行なのは、誰の目にも明白であった。虚しい戦いは終わったのだ。


だが、しかし。わかりきっている犯行であろうとも、それを実行したA男の心情は、やはりB子への愛情だったのだろうか? それとも……

 

それはわからない……だれにもわからない。     


PS:この事件を解決した、『杉田乃巳男』 (すぎた のみお)は思った。


「たまには俺もブィィ~ンしてぇなぁ……相手いないけど」

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