第4話

 日は傾き、西日が真っ黒な黒板を焼く


 「現役バレー部4人もいるなんてあり得なくない!?」


  落陽の空に向かって柚夏は吠えた。


 「仕方ないでしょ、うちの高校、スポーツにも力入れてる学校だし

部活やってる人間も多いんだから。

 良かったんじゃない?

皆ではしゃいで脇隔わきへだてなく仲良く話せたんだし」


 千冬は親が子供に諭すように優しい口調で返す。



 「やるからには勝ちたかったもん!

それはそれ、これはこれだよ!」



 スポーツ大会は無事に終わり、学年総当たり戦で行われた試合結果は、

学年三位というなんとも味気ない形で終わってしまった。



「私は楽しかったから満足、それこそ柚夏にお礼がしたいくらいには・・・」



 窓に向かって呟く千冬にに詰め寄る柚夏。



 「え?今なにか言った?」


 「なんにも」



 千冬はそっぽを向いて教室の窓から顔を出すと

生ぬるい風がその輪郭をそっと撫でる。


 不完全燃な結果とは裏腹に、

澄み切った夕焼けは空の群青を焼き尽くさんと

校舎の窓から見える町を丹朱に染め上げていた。



 「で、何時にするの?集合時間?」


 「え?」


 「花火、一緒に見にいくんでしょ?集合時間」








◆◆◆◆◆






 遠くで林太鼓が響き渡り、

神社へと続く暗がりな石畳を沢山の提灯たちが照らす。


 普段は不気味で人気ひとけが無い林に囲まれた道。


 しかし今日は沢山の人の群れで溢れ、

露店の調味料を焦がした匂いが人混みを誘う。



 「おまたせしてごめんなさい。人が多くて」



 「13分遅刻よ。ギャルの13分は貴重なのだけれど」



 氾濫した川のような人の波から飛び出し、駆け寄る千冬。


 それを迎えた柚夏は声を低くして、拳の先を自らの顎につけた。



「私のマネのつもり?殴るわよ」


 息絶え絶えに柚夏の肩に、

よろよろと力のないパンチをポフリと浴びせる


 「もう殴ってる!・・・ていうかさ」


 「何?もうおなかすいた?」


 「違う!いや、違くないけど!そうじゃなくて・・・

浴衣!・・・すごい似合ってるなーって思って」


「ありがとう、柚夏も町娘みたいで素敵」


 「それ!褒められてる!?」


 千冬は、紺色に流水模様のあしらわれた浴衣。


 柚夏は、橙色に向日葵ひまわりを飾った浴衣だった。

 


 「ていうかさ・・・千冬の今日の髪型・・・」


 「・・・お母さんにお願いして

教えてもらいながらやってみたの」


「・・・そうなんだ!すごく似合ってるよ!」



 それは体育祭の日と同じポニーテール。

加えて今日は風鈴のかんざしを編み込みに挿していた。



 「そう、ならよかった。じゃあ行こ?」


 「そっちはお祭りの方じゃないよ?」


 「いいの、来て」



 紺色の袖から伸びた白い手が

向日葵の袖の細い手を掴む。



「え?あ!かき氷ぃ!!」



 光りと人の群れから逃げ出すように

行燈あんどんに伸びた二つの影は夜へ馳せて行のであった。

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