第3話

 梅雨が明け、

湿った土の臭いと渇いた風の香りが入り交じり、

熱にうなされた教室のカーテンをなでる。


 開戦前の校舎はいつもにも増して落ち着きがなく、

鳴りやまぬざわめきに溢れている。


 行事を楽しみに気合を入れる者達、

授業が無くて浮かれる者達、

緊張に飲まれる者達、

そしてこの日を覚悟する者達がいた。



 「ねぇ柚夏っちぃーみんなで先行ってるよぉー」


 「うーんッ!すぐ行くー」



 黒板に書かれた沢山の決意に朝日が差す。


 各クラスごとにたすきが渡され、

皆それぞれ思い思いの体の部位に

それ結んでは教室を飛び出していった。



「千冬も行くよぉ!・・・って、結ぶとこ悩んでるの?」


「ええ、肩にたすき掛けで結ぶか、額に巻くか決まらなくて」


「お侍か!そんなの男子しかしてないよ!もうッ!貸して」


 柚夏は千冬の襷をパッと取り上げ後ろに回って

長い漆色の髪を支えるように掴む。



「頭ちっさぁ、髪サラサラすぎ!」


「いいから、そういうの言わなくて」



 その髪色とは相反するような真っ白いうなじと

少し朱色を帯び始めた耳に思わず生唾を飲む。



「出来たよ」


「こ、これって・・・」


 ハーフアップに襷で一つで纏められたポニーテール。


 日焼けを知らない真っ白な首筋が露わになり、

長かった横髪は編み込まれ、

カチューシャのように頭部を飾っていた。


 「ふっふっふ!我ながら力作です!

って、やばい!時間かかり過ぎた!行こっ」



 千冬の口からをそれ以上何か聞くことなく

柚夏は彼女の細い手を掴み教室の外へ走り出した。


 誰もいない廊下の中を、黒い尻尾と金髪の尻尾が揺らしながら。







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