放課後お茶会大暴走!

 昼休み。麗奈ちゃんのお茶会に参加しようと席を立った時だった。

「文原さん、できたわよ」

 梨々花ちゃんがすごい勢いで私の席にやってきた。

 そして、かわいい封筒を差し出す。

「え、お手紙……? ありがとう」

 そう言って、受け取る。そして中を開けてみてびっくり!

「これ……、招待状……?」

 封筒と同じ柄の便せんには、きれいな字で、

『梨々花の勉強会への招待状』

 そう書いてあった。勉強会……?

「私たちのベンチグループは、ただ楽しくおしゃべりしてるわけじゃないの。何かしら結果を残した人たちに話を聞いて、自分たちの人生をよりよくするためのものなの」

「そうなんだ……」

「何事も、高め合いが大事でしょ? いいところはどんどん盗まなきゃ」

「それは、そうだね」

 私がうなずくと、梨々花ちゃんは気をよくしたようだった。

「明日はぜひ、その招待状を持って参加してよね。待ってるから」

 そう言うと、梨々花ちゃんは中庭へと走り去っていった。

 あ、私も早く行って、麗奈ちゃんのベンチグループに入れてもらわなくちゃ。

 中庭に着いて、麗奈ちゃんのベンチグループに合流した時だった。

 麗奈ちゃんが、みんなに向かって宣言した。

「今日からは、休み時間だけじゃなく、放課後も開くことにするわ」

 集まっていた生徒たちにざわめきが広がる。

「お茶会をしている時が一番幸せなんだもの」

 確かに、お茶会はとても楽しい。

 でも、放課後はみんな部活があるから、忙しいんじゃないかな……。

 そう思っていると、うっとりした目で麗奈ちゃんが言った。

「今日の放課後のお茶会、楽しみにしていてね。時間を忘れるくらい、とっても素敵なお茶会にしてみせるわ」

 うわ、それを言われると気になっちゃう……。放課後も参加しようかな。

 どのみち私は部活動に入ってないから、放課後もヒマなんだよね。

 でも同時に気がかりなこともあった。麗奈ちゃんの様子が変な気がしたから。

 放課後のお茶会について宣言した後、彼女はずっと上の空だった。

 誰かが話しかけてもほとんどあいづちを打つだけで、話を聞いてるのか分からない状態。

 そんなに放課後のお茶会が楽しみなのかな。きっと、そうだ。

 自分にそう言い聞かせて、私はお茶会から退席した。

「放課後のお茶会、楽しみにしていてね」

 ぞろぞろとベンチからはなれていく私たちに、麗奈ちゃんの声が風に乗って運ばれてきた。

 教室に戻ろうとしていた時、廊下の窓から中庭を見ていたブーツさんと目が合った。

『おやアリスさん、お茶会はどうでしたか?』

 そうにこやかに笑いかけてくるブーツさんに、私も笑顔になる。

「とても楽しかったです。ただ……」

『ただ?』

 ブーツさんの表情がぐっと引きしまる。

「ただ、話を聞いていると一週間ほど前からお茶会の様子が少し変わってきていると聞いていて……、心配してます」

『ふむ……』

 ブーツさんは腕組みをしつつ、言葉を続ける。

『この中学にツカサが入学してから、二か月。先月は一回、今月は二回、既に物語の暴走が起きてますから、用心するに越したことはないでしょうね……』

『伝えるのか、ツカサに』

 ムギの声に、ブーツさんはうなずく。

 なんでムギ、本条くんのこと名前で呼んでるの。仲良しになりたいの、とツッコミを入れそうになるけど、聞かなかったことにする。

『……必要と判断した場合には』

 さらりとブーツさんが言う。多分、私がいい顔をしてなかったからか、あわてて彼はこう付け足した。

『あなたのためでもあるのですよ、アリスさん。ムギやカンが一緒にいるとはいえ、危険なことに変わりはありませんから。ツカサは、口は悪いですが腕のいい特別司書官です。危険があれば、嫌でもあなたのことは守ります。わたしもですが』

「ありがとうございます」

 本条くんに助けられて借りは作りたくないけど。

 でもやっぱり、特別司書官として長く働いている本条くんには、かなわないもん。

 だから、ブーツさんにこう伝えた。

「今日の放課後、また中庭でお茶会があるんです。今まで放課後にはお茶会は開かれていませんでしたし、いつもより素敵なお茶会にすると言っていたので気がかりで」

 私の言葉に、ブーツさんは真剣な表情でうなずいた。

『……承知しました。事の重大性を考え、ツカサにも伝えてもよろしいでしょうか』

「うーん……」

 少しの間考えたあと、答えを出した。

「とりあえず伝えないでほしい、です。まずは自分でやってみたいので」

『……かしこまりました』

 少し複雑な表情を浮かべて、ブーツさんは私に頭を下げた。

『まぁ、ワイらがいるし、なんとかなるやろ!』

 カンちゃんの言葉に、私はうなずく。

 一人でやれるってこと、証明できたらいいけど……。

♦♦

 その日の放課後。私は再び中庭にやってきていた。

 ベンチに集まるグループは、休み時間よりやはり少ない。

 そんな中で、麗奈ちゃんのベンチは目立っていた。

 ランチョンマットとレジャーシートは休み時間と同じ。

 だけど、並んでいる食器の数が休み時間の倍以上あった。

 そして、不思議なことに。

 私より先に来ていた他のメンバーは座ったまま……眠っていた。

 麗奈ちゃんをぬいて私を入れて三人の客人。

 その二人が、すでに頭をゆらして、うとうとしている。

 せっかくのお茶会のお誘いなのに、眠っちゃうなんて。

 しかも、二人とも。ちょっと失礼なんじゃないかな。

 そう思ったけど、麗奈ちゃんは全く食いにしてないみたい。

 私を見つけると、嬉しそうに麗奈ちゃんは笑った。

「いらっしゃい。さぁ、ここに座って」

 麗奈ちゃんの言葉で、私は二人の客人の間に座った。

 その途端、世界がくるんと一回転したような感覚におちいった。

 まぶたが、すごく重い。眠い……。

 おそろしい眠気におそわれて、私はそのまま目を閉じてしまった。

 目を開けた先にあったのは、長いテーブルとたくさんの大きなイス。

 十脚以上あるイスの一つに私は座っていた。

 テーブルの上には、たくさんの食べ物が並んでいた。

 麗奈ちゃんは、長テーブルの一番奥に座っていた。

 彼女はにっこり笑うと言った。

『それじゃ、楽しい楽しい永遠のお茶会ティーパーティの始まりだ』

 その声は、明らかに男の人の声で、麗奈ちゃんのものではなかった。

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