終わりのない、お茶会。
思わぬヒント。
『とりあえず、一人キャラクターを捕まえられれば、一歩前進なんや』
中学校へ向かいながら、カンちゃんが言う。
『封印した本、表紙に題名が載ってへんやろ?』
そうカンちゃんに言われて、通学かばんから本を取り出す。
昨日、ムギと力を合わせて封印した本。
封印したと同時に、普通の本と変わらない大きさになっていた。
その表紙や背表紙を見ると、確かに題名がない。
『題名がなく、さらに本を封印しとるから、物語の内容を見ることもできへん。だから、物語から逃げたキャラクターを探すのは大変なんや』
『体を乗っ取られた人は、そのキャラクターの性格に似てしまう。でも、著作権の切れた物語とはいえ、物語の登場人物なんて、山のようにいるからねぇ、特定するのは至難の業だ』
ムギの言葉に思わずうなずく。
どんな物語から登場人物が逃げたのか分からない以上、どんな性格のキャラクターが逃げ出したのかも分からない。
そんな中で、体を乗っ取ってるキャラクターを探し出すなんて……。
特別司書官って、本当にすごい仕事なんだ。
『ただ、一人キャラクターを確保できれば、アンタが持ってる
なんとなく分かる……と言いかけた時だった。
後ろから声がかかる。
「……ジャマだ」
後ろに立っていたのは、本条くんだった。
隣には、ブーツさんもいる。
「本条くん、ブーツさん。……お、おはよう……」
『おはようございます、アリスさんに、ムギさん』
ブーツさんが丁寧にあいさつを返してくれる。
本条くんは、私とムギに何も言わず、早足で私たちを追い抜いていく。
私の中では、本条くんに伝えたい言葉が、のど元まで出かかっていた。
なんで図書室の片づけ、手伝ってくれなかったの!?
大変だったんだからね!
そう伝えたい。だけど、私の口からその言葉が出ることはなかった。
口をぱくぱくさせているだけで、声になっていない状態。
そんな中で、彼が突然振り返った。
そして不機嫌そうな顔をして、こう言い放つ。
「お前は、絶対俺たちより先に、物語からの脱走者を見つけることなんて、できない。だからもう一度、言っておく。……くれぐれも、この件には関わるな」
そして、今度こそ歩き去ってしまった。
『あらまあ。……徹底的に、嫌われちまってるな、オレたち』
ムギが半分呆れたような顔をして笑う。
「いいの。本条くんに、私たちを止める権利なんて、ないし」
『まぁ、それもそうだ』
「それにね、考えたんだけど……」
ムギやカンちゃん、そしてなぜかまだついてくるブーツさんに言う。
「とにかく一人、物語からの脱走者を捕まえることができれば、きっと本条くんも少しは、私たちのことを認めてくれると思うんだよね」
『それは名案です』
ブーツさんが、小さく拍手をしてくれる。カンちゃんもうなずいた。
『せやな。何もせずただ、自分たちのことを仲間としてみてくれって言っても、説得力あらへん。まずは、自分たちが役に立つってことを、ツカサに知ってもらった方がええ』
「だよねっ。もちろん、それだけじゃ何も変わらないかもしれないけど……」
でも、何もしないよりはきっといいはず! そう自分に言い聞かせる。
「ただ、問題が一つあって。そもそも一人目を見つけるにも、時間がかかっちゃいそうなんだよね……」
もし一人目の物語からの脱走者を本条くんに先に見つけられてしまったら。
その時の想像は、簡単にできた。
『俺よりも先に見つけられなかった時点で、お前の負けだ。お前は俺に勝てない』
そう、高らかに宣言してくる本条くん。
……なんか、腹が立ってきた。
いつも教室ではほとんど話さない本条くん。
だからきっと、おとなしい性格の人なんだって思ってた。
だけど、その想像、訂正する!
本条くんは、性格が悪い人! アクマ!
「カンちゃん! 本条くんより先に物語からの脱走者を見つけるために力を貸して!」
『合点承知、や!』
「どうやったら、物語からの脱走者に体を乗っ取られた人を見つけられるの!?」
今朝、カンちゃんは言っていた。
体を乗っ取られた人に、そうだと分かる目印が出たりはしない、って。
だとしても、手がかりなしで探し始めるなんて、本条くんにだって無理なはず。
それなら、何かヒントはあるんじゃないかと思って、聞いてみたんだ。
すると、カンちゃんの代わりに、ブーツさんが口をはさんでくる。
『乗り移られている人を特定するのは無理ですが、その人が長く留まる場所を見つけることくらいなら、できますよ』
「それ! その方法をぜひ教えてください!!!」
よーし、少しだけ、光が見えてきた。
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