カンちゃんからの指令。

『お待ちください!』

 後ろから声がかかった。

 本条くんと一緒にいた、金髪の騎士のような服装の人。

 その人が、眉をひそめてカンちゃんを見下ろす。

『元々はわたしと、ツカサが対応中でした。なのに、どうして後から来たこの二人に、脱走者と物語修復を任せるのです?』

「俺たちだけで対応できてたら、脱走者は出なかった。お前たちのせいだ」

 私をにらむ本条くん。

 そんな本条くんと私の間にムギがひらりと入って言う。

『……そうは見えなかったけどねぇ』

「なんだと?」

『オレたちが異変に気付いて、ここへ来るまでに十分以上かかってる。それに外から見えるくらい火がでかくなるまでには、相当時間があったはずなんだよねぇ』

 口調は穏やかだけど、言ってることにはとげがある。

『わたしたちだけでは、対応できなかった、そう言いたいんですか!?』

『いや、そこまでは言ってねぇけどさ。脱走者は、出たんじゃねぇかってハナシ』

 オレたちでも、アンタたちでもどちらがやったとしても、な。

 ムギの言葉に、騎士さんみたいな人は言葉に詰まる。

『まぁまぁケンカせんと。今から、仲良く物語修復してもらわなアカンねんから』

 カンちゃんが割って入る。

『もちろん、ツカサとブーツも今回の物語修復に力を貸してもらう。最近仕事をしてへんかったこの二人だけに任せるんは、ちょっと不安やからな』

「だったら俺たちだけで……」

 本条くんが不満げに言いかけたのを、カンちゃんが止める。

『ただでさえ、このエリアは人手不足や。それでなくとも、最近物語の暴走が相次いでるんは、自分ら、よお分かってるはずやろ?』

『それは……、えぇ、よく分かっているつもりです』

 カンちゃんの言葉に、騎士さんみたいな人……――、ブーツさんがうなずく。

「……認めない」

『……ん?』

「このエリアの特別司書官は、俺たちだけで十分だ。俺たちだけでなんとかする」

 そう言うと、本条くんは私の間近まで歩いて来る。

 目の前までやってきた本条くんを見て、私は思う。

 ……かっこいいなぁって。

 本条くんは、クラスで大人気のイケメンなんだ。

 だけど口数が少なくて、何を考えてるのかよく分からないって言われてる。

 ただそこが、クールで好きって人も多いみたい。

 まぁ私も、言いたいことを言えてないから、人のことは言えないんだけど。

「俺は、お前とは仕事しない。この件には二度と関わるなっ」

 そう言い捨てると、本条くんは早足で図書室を出て行ってしまった。

 あーあ。初めてちゃんと、本条くんと話せたのに。

 まさかいきなり、嫌われちゃうなんて。

 自然と、ため息が出た。

 その様子を見て、ムギがからかってくる。

『何だい、アリス。イケメンにフラれて落ち込んだか?』

「落ち込んでないし、そもそもフラれてないっ」

 そういきおいをつけて言い返す。

 別に、落ち込んでなんか、ないんだから。

 ただ、ちょっとだけ、イケメンと仲良くなりたかっただけ。

 地面に落ちている本を拾う。

 あることに気付いて、私はまだ外にいるかもしれない本条くんにさけぶ。

「ちょっと本条くん、片づけはして帰ってよおおおぉぉっ!!」

 さっきまで飛び回っていた本は、ただ地面に落ちただけ。

 魔法のように、勝手に元の本棚には戻ってくれない。

 地面を見れば、これでもかというくらいに本が落ちている。

「……」

 本条くんが戻ってくる気配はない。

「明日っ! 絶対! 文句! 言ってやるもんね!!!!」

 そう言い切ってから、床に散らばる本を拾いにかかった。

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