少年の名前

『あー……。やっぱりまだ半人前、ってトコか』

 その人は、ひとりごとのように言いつつ立ち上がる。

 その人は茶髪に、金糸雀カナリア色のきれいな瞳をしていた。

 あまりにも整った顔立ちをしていたので、しばらく見とれてしまう。

 そんな私を見て、彼は、大きくため息をつきながら言った。

『あのねぇ、アンタにがんばってもらわねぇとオレ、いつまでたっても本領発揮できないんですわ。ちょっと気を抜くと、体が見えちまう』

「それじゃ、さっきまで聞こえていた空耳は……」

 私の問いに、その人はうなずいた。

『ああ、オレがアンタに話しかけていた。オレとアンタは一心同体だからな』

 どうやって、透明になっていたのか、とか気になることはたくさんある。

 でも、とにかく……。

「ありがとう」

『……は?』

 顔をしかめる彼に、言葉を続ける。

「あなたのおかげで、校門を飛び越えられた。だから、ありがとう」

 そう正直に伝える。すると、彼はまた大きく息をはいた。

 呆れられたかな、と思ったらまた彼はひとりごとのように言う。

『……そうだよな、アンタはそういう人だよな。だからついていくことにしたんだ』

「え」

『礼はいいから、さっさと行きますよっと』

 そう笑って言うと、その人は先に走り出そうとする。

「あ、あのっ」

『はいよ』

「名前っ。あなたのこと、なんて呼べばいい?」

 すると、彼は少し考え込んだあと、目を細めた。

『……ムギ』

「ムギ?」

『そう。髪の色が麦茶みたいだからって、誰かさんがつけてくれたんですがね? もうちょっとネーミングセンス、なんとかならなかったのかねぇ』

 そう言って頭をかく。

 それから、私の顔をのぞきこむようにして見た。

『……ま、気が向いたらオレのもう少しマシな名前、考えてくださいよ』

「私が?」

『そっ。アンタが考えてくれたものなら、喜んで使わせてもらうさ』

 変な名前はもうかんべんだけどな、そう言って笑うムギ。

『さ、今度こそ図書室に向かうぜ。質問なら、その後だ』

 ムギが走り出した後を、私は追いかけた。

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