とある女の子の話。

 花畑のような、一面花が咲き乱れる道を、歩いていた。

 普通の花畑と違うのは、その高さが私の背の二倍はありそうってこと。

 そんなのが、空をかくしちゃうないかというくらい、たくさんある。

 色とりどりの花は、きれいなはずなのに、今は不気味に思えた。

 早く。早く、帰らなくちゃ。

 自然と早足になる。けれど、少しすると元の速さになる。

 のろのろ歩きになりながら、思わず口に出す。

「帰るって、一体、どこに……?」

 誰もいなさそうな森に、私の声だけがひびく。

 自然と足は止まってしまっていた。

 こんなに広い場所なのに、まるで私一人しかいないかのように静かだ。

 そう気づいたら、余計に怖かった。

 すると、のんびりした声が急に上から聞こえて来た。

『そんなに急いでどこに行くんですかねぇ? どこにも辿たどりつけやしないのに』

 思わず振り返る。けれども上ではただ、花が揺れているだけ。

「なんだ。気のせいか」

 視線を前に戻してぎょっとする。目の前には一匹の猫が座っていた。

 この猫が人間の言葉を話すことができることは、知っている。

 さっき、一度話したから。いきなり現れたのには、おどろいたけど。

「あのね。私、帰りたいの」

 そう言葉をかけると、猫さんは首をかしげた。

『……帰りたいって? 一体どこに?』

「分からない」

 そう答えると、猫は私を見上げる。

『そりゃあ、変な話だ。帰りたいのに、どこに帰るか分からないなんて』

「でも帰りたいの。私の居場所は、ここじゃない」

『……』

 猫は、ふわりと空に浮かんだ。

 しばらく、考え込むようなしぐさを見せたあと、猫は言った。

『それじゃ、オレの言う通りにしてくれますかね? ……本当に帰りたいなら、ね』

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