「姫様！」と呼ばないで

ディーンの質問

「じゃあ何と呼べばいいんだ。外では王族と知られない方がいいだろう！」

「民は私ぐらいの歳の者を何と呼ぶんだ？」

「お嬢さん、お嬢様、娘さん、○○の娘さんとかかな」

「嬢か！それはいいな。嬢（じょう）と呼んでくれ」

「嬢だけは言いにくいから、おを付けるぞ。じゃ、お嬢。どうしてそんなに女であることを嫌う。王様は国を継ぐのだから男も女もないと思っているのだろうと言っていたが、それだけじゃないだろう」

「国を継ぐからにはいろいろなことを学び、事によっては兵を率いることも考えているからだ。この国を継げるのは今は私だけだ。人から守られるようでは戦場には行けまい。自分の身は自分で守らないとな」

「それは、馬に乗り剣を使えるようになった理由だろう。俺が聞きたいのは女であることを嫌う理由だ。姫様と呼ばれたく無い理由だよ」

そう言われて、王女はしばらく考えていた。そしてため息をつくと

「ディーンには誤魔化しは出来ないな、誰にも話さぬか？」

「ああ、約束する」

「私は、怖いのだ。いずれこの国を継いで、婿を取り、世継ぎを生まなくてはならない。だが、私の母は私を産んで産後の肥立ちが悪くて死んだと聞いた。私を産まなければ母は死なずに済んだのではないかと言う思いがずっと心にわだかまっている。もしも、私が将来婿を貰い、子をなすときに死んだらこの国はどうなる。血が絶え継ぐ者がいなくなる。お父様が新しいお妃を迎えて、世継ぎを産んでくれれば私の重荷も軽くなるが、お父様にはその気が無いようだし・・・・・。どうして女ばかりがこんな目に合わねばならんのか！月の物もあって体も大変だし。女だけが命を掛けなくてはならぬ。理不尽だ！挙句の果てにそうやって命がけで産んだ子供も成人できるかわからぬし、戦（いくさ）があれば次々と死んでいく。何のために子を産む。男に生まれればよかった」王女は一気にまくしたてた。ディーンはしばらく黙っていたがおもむろに

「それが本当の理由か、だがな、男に生まれるか女に生まれるかは自分では決められない。どんなに理不尽と思ってもな」

「解ってる、解っていても心がついていかぬ。それにこんなことを考えているのを周りに知られたくはない」

「で、周りに迷惑かけまくっていたって訳だ。本心を知られないために、なんとまあ、迷惑な！ちった周りのことも考えろ。構って欲しくてやってたってことなのかな？」

「それは…。それもあるかもな、この国の王女だからみんな敬意を払いっているのだと思えた。私自身ではなく、肩書と言うか生まれと言うか」

「で、俺のことを怖がっていたわけだ」

「ああ、最初からそんな口調で言ってきたのはそなたが初めてだったからな。見透かされているというか、そんな感じだった」

王女は水を飲み飲み自分の胸の内を明かした。