それから・・・

王女は自分の部屋に戻るとベッドに横になった。

ハンナがやってきて「ご気分はいかがですか?お茶をお持ちしました」

と言ったのだが、返事が無い。

「姫様?」

「姫様と呼ぶな、しばらくあっちに行ってろ」と顔も上げずに姫が言う。

「では、御用がありましたらお呼びください」ハンナはそう言って部屋を出た。

「あの、ディーンと言う男なんて失礼な奴なのかしら。いくら危ないからと言ってあんな方法で止めなくても」と思っては見るが、「あんな断崖絶壁があるなんて知らなかった。あ~あ、こんな騒ぎ起こしたら、しばらく城から出れないわね。困ったな、城の中って退屈なのよね」そう言いながら王女は髪を結んでいた紐を解いた。その時ディーンのかすかな残り香がしたような気がした。

「何この匂い」それを嗅ぐと王女は顔がほてってくるのを感じた。

「あの男。もう一度会ってとっちめないと」と口では言うのだが、王女は何とも不思議な気持ちに戸惑うばかりだった。


2頭の馬を引いて馬屋に戻ってきたディーンは

「この馬は王女様の馬だ世話を頼む」と馬屋番に託した。そして自分の馬を引いて手入れを始めた。

「よしよし、のどが渇いたろう」と桶一杯の水を運んできた。

「鞭を当てたからな、後は残ってないか」と、馬の体を調べた。

「よかった、少し赤くなったぐらいか、無理させたな、すまなかった」

人に話す時とは打って変わった優しい口調だった。

「それにしてもあの姫様、腰を抜かすとはね。怖いもの知らずと思っていたけど、かわいいところがあるじゃないか。まあそれくらいないと面白くない。それにしてもギリギリだった。止めきれなかったら俺も処分されるところだ。危ない危ない。もう関わり合うのはごめんだな」

馬の手入れをしながら、ディーンは独り言を呟いていた。


王女が城外に出てディーンに助けられた話は王にも伝えられた。王は王女の無事を喜んだが、こう色々問題を起こされてはたまらない。どうしたものかと頭を悩ませた。

側近が「姫様を城に閉じ込めておくことは難しいでしょう。ですからディーンをお側付きにして一緒に行動するようにしたらどうでしょうか?姫様を止められるのは彼ぐらいでしょうから」と提案した。

「そうするしかないか」王は頷いた。



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