第22話.光輝たる天青
「――ふむ、この威力か……そなたの術式はなかなかのものだな」
「っ、痛……」
少し崩れた監視塔の石材を蹴飛ばしながら身を起こす。魔力防御は間に合ったけど、衝撃までは消しきれなかった。背中が痛い。
相手の言っていることから推察するに、これでもかなり威力が落ちているみたいだ。先程の魔導星術で星の力を減衰させていなかったらどうなっていたのやら。
泰然とした表情のままであろうコルネルを睨み付けようと顔を上げたけど、相も変わらず真っ白な
砂埃と細かい石片を叩き落としながら立ち上がる。お気に入りの黒い戦装束が白い埃まみれで最悪だ。
「けほっ……はぁ」
さあどうしよう。
揺らめく白銀の靄の如し星術で覆われたこの戦場では、星術発動の瞬間や位置を察知することができない。
相手の位置が分からなければ攻撃は無駄撃ちで終わるし、下手をすれば相手の攻撃を防げずに食らってしまうだろう。
「――ッ!!」
考えている間に星雲の中から白い光の矢が五本飛んできた。城塞結界で弾き、その方向へ渦巻く紅蓮の炎を放つ。
沈黙、手応えはない。
そのくせ、今度は全く別の方向から先程のものと同じ大きな攻撃――
鮮やかに煌めく見た目に似合いの圧倒的な熱量を抱えたそれを、再び展開した城塞結界で防いで考える。
「風よ!!」
暴嵐を生む。白く揺らめく星雲を打ち払えないかと思ったけれど、そう簡単には行かなかった。舌打ちを一つ。
ウィリデを構えて星雲の深まる真白の中に飛び込んだ――直後、嫌な予感がして後退する。先程までいた辺りで白銀の光が激しく瞬いた。
「勘がいいことだ」
「やりにく……」
どうやら
「ふぅ……――目映き星々よ!」
全身に満ちた星々の力をウィリデに流し込んで弾けさせる。激しく明滅する白銀、星雲に食らい付かせて爆ぜさせてしまおうと試みるけれど、星雲はゆらゆら掴み所がない。
消耗を感じる。
少し、体温が落ちてきた。
魔境での訓練と勉強によって魔法行使時の体温低下はごく僅かなものに抑えられるようになったけれど、苛立ち混じりに連発したのでいけなかったようだ。
コルネルは確実に移動し続けており、揺らめく星雲がそれを隠し続ける。星雲は広がりこそしないが、多分、あたしが倒れるまでそこに留まり続けるはずだ。
コルネルの位置を知るのは困難。
魔法も星術も白に呑まれて役に立たない。
――なら、もっと別の手段を講じてみない?
「……よし」
ウィリデを両手で握る。その真白の杖身に魔力を込め、真っ直ぐ立てたままその石突きを勢いよく壁上へ突き下ろした。
あたしを中心に、ぶわっと純粋な魔力の波濤が円形に広がる。物理的な衝撃を伴うそれが
「っぐ……喰らい尽くせッ!」
魔法にはしない、純然たる言葉の力を乗せて魔力を打ち付ける。
喰らうということは己の内に取り込んで
同時に、ウィリデを左手で真っ直ぐ持ち上げて中段に構えた。
「――此れは全天に輝ける天狼の瞳」
星雲の晴れる頃に、コルネルの喉笛を咬み千切る一撃を撃ち込むのだ。
「喰らえ、我が咆哮を
果たせ、我が宿願を」
いくつもの
いくつもの魔法を並行展開していて頭が弾けてしまいそう――でも、ここが踏ん張りどころだ!
「光れ、狩り場は今ここに」
構えたウィリデの横に添えた右手をスッと肩口まで引く。まるで弓を引く動作。その軌跡をなぞるように青白い輝きが一筋灯った。
そしてその輝きは瞬きの間に星そのもののような目映さを宿す。あたしの手に引き下ろした星の力の内、最も明るいその光の名は。
「駆けろ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます