第21話.コルネル・サルザリウス
荒れた風が吹き付けるサルザリア大壁上。風に髪を乱されながら振り返った先に、重たそうな白い衣を纏った老爺が立っていた。
「誰?」
「
「サルザリ、ウス……? っ、もしかして!」
その家名に嫌な予感がしてウィリデを強く握ったあたしに、コルネルは深く頷いて見せた。
「如何にも――サルザリア大壁の建設を大陸の国家全てに提案し、監視塔の機構を組み上げたのが我が一族である」
轟、と魔力が膨れ上がる。あたしの怒りに呼応して大気をどよめかせるそれは、物理的な衝撃を伴ってコルネルに吹き付けた。
しかし――
僅かに、けれど確かに煌めいた白銀。コルネルを守るように展開したそれは、普通なら今彼には使えないであろう力。
「……どうして今、
低く唸るように問う。あたしの体にはまだここら一帯の星の力が巡っているのをちゃんと感じている。意味が分からない。
「簡単なこと。
「……なるほどね」
ウィリデを握り直し、正面に構える。
必死に編み上げた魔導星術だけど、未熟な部分がまだ多分にあるのも事実。大陸最強の星術師から星々の力を奪うほどになるには練度が足りなかったってこと。
なら仕方ない。
「ここにいるってことはあたしの邪魔をしに来たんだよね」
「そうなる」
「そう、じゃあ……
――倒させてもらうッ!」
視界を一瞬、カッと真白に染め上げる目映い星々の閃光。
踏み込む三歩で彼我の距離を詰め、横合いから炎の一撃。そのまま体の捻りを乗せた杖を思いっきり振る。
白銀の防御壁に防がれ、弾かれた勢いで三歩後退。下げた杖先が足元を掠めた――伝う魔力が白い石材の組み合わされた壁上の床を砕く!
あたしはそのまま風を纏って宙へ。ぽっかりと穴の空いた壁上を滑るように飛び、穴から距離をとるコルネルに突撃した。
ウィリデの杖身と防御壁がガツンッと衝突する――硬いッ!!
「――まるで獣よの」
囁き、直後にコルネルが伸ばした手の先から目映い白銀の光が幾筋も飛び出してきてあたしを襲う。
光のくせに刃物みたい。黒衣の端々を切り裂かれて、舌打ちしながらウィリデを回す。黒鉄の城塞結界がコルネルの星術を受け止めて金属音に似た軋りを上げた。
「
「ッ?!」
その静かな呼び掛けは星へのものだったのだろう。瞬きの間に、城塞結界にぶつかる星術の威力が増した。
破られる、と判断して身を翻す。直後に砕ける城塞結界。けれどコルネルの星術は止まらなかった。あたしを追尾してくる。
「チッ、めんどくさいなっ!!」
苦手だけど仕方ないっ、涼やかな青を脳裏に浮かべて「水よ!」と叫ぶ。
生み出された水はふよふよと安定しない球形だけど、星術を受け止めてその光を全て見当違いな方向へ飛ばした。コルネルの星術は監視塔の外壁や大壁の建材を削ってようやく消える。
「……」
これが、星術師。
魔境で自分を鍛え上げたあたしの仕方のない弱点だ。何せ魔境の底に、星術を使うひとは一人もいなかったから。
本来はこの弱点を魔導星術の力で帳消しにしてしまう予定だったんだけど、それで力を奪えない相手がこうして出てきてしまった。
さあ、どうしようか。
ウィリデの
コルネルがそんなあたしをじっと見て薄青の目を細める。
「そなたは星術師との戦い方を知らぬのだな」
「……それが?」
「残念だが、考える暇は与えぬぞ」
こっちだって考える時間をくれるとは思ってない。コルネルの周囲に漂う星々の力に渦が生じる――
――来るッ!
「
唱えられたのはそんな一言。
しかし変化は一瞬で現れた。
ぶわり、と真白の霧のような星術がコルネルを中心に吹き上がる。
時折銀に煌めくそれは霧のような、霞のような。幻じみた儚さと、視界を奪う容赦なさを兼ね備えた白でコルネルの姿を隠した。
「っ……!」
星術の気配が濃密すぎてコルネルの位置が全く分からなくなった。炎を撒いて星術を散らそうと試みるけど、相性が悪いのか全然手応えがない。
全身を緊張させ、全ての感覚をコルネルを知覚することに注ぐ。
時折白が揺らめいて、ハッとウィリデを向ける頃には気配がまた消える。大きな炎も、小規模な魔導星術も、真っ白な星雲に飲まれて掻き消された。
「それならッ――」
魔法と星術を同時に編み上げる。
大陸最強の星術師と言えど、今ここら一帯の星の力を集めているあたしの全力の魔導星術にはしっかりした対処をするはずだ。
そこを突く。
「――星々は我が空に」
詠唱を開始する。
白銀の光を集め始めたウィリデを構えて次の言葉を。
――しかし。
「――まだまだ未熟よの」
コルネルの声を認識した次の瞬間。
「
あたしの体は横合いから飛んできた大きな一撃に飛ばされて、すぐそばにあった監視塔の一つに思いっきり突っ込んだ。
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