第3話.聖女選定の日
ついにやってきたその日、あたしたちは皆そわそわと浮き足立って、誰もが落ち着かない様子だった。
流石のあたしも、一体誰が選ばれるんだろうって、そんなことを考えてたらそわそわしちゃう。
そう、ついに今日が聖女選定の日だ。
今学園に在籍している六十七人の中から、たった五人が選ばれる。
式典用の純白の制服に身を包み、朝はいつも通り聖水を飲んでお祈りを捧げて、あたしたちは学園内の聖堂に集まった。
「シア、顔が青いよ。そんなに緊張しなくたって大丈夫だって」
「うん……」
「手、繋ぐ?」
「……うん、ありがとう」
式典用の制服を纏ったシアは本当に綺麗だった。金のリボンが垂れる白い帽子もよく似合っている。
もう聖女だって言われても誰も疑わないんじゃないかっていうくらい、清純で、敬虔な見た目だった。
「儀式中にげっぷが出たらどうしよう」
「ちょっとやめてよ、ララ」
「んふふ、冗談。やっと笑ったね」
「あ……もう、ララってば……ありがとう」
「どういたしまして~」
そんなやり取りをしたところで、大聖堂からやって来た大司教様が入場してきた。そっと頭を垂れて出迎える。
「皆、頭を上げなさい」
そう言われて、音もなく頭を上げる。この所作には慣れたものだ。四年もこの学園で暮らしていれば自然に身に付く。
大司教様は、真っ白な髪と髭の、とても優しそうな顔をした方だ。
「今日という日を無事に迎えられたこと、私は本当に幸福に思う。さあ、皆の中から五人、新たな『監視塔の聖女』を選ぶ、聖女選定の儀を始めよう」
創世神様に祈りを、と大司教様は柔らかな仕草で祈りを捧げる。あたしたちも合わせて「創世神様に祈りを」と同じ仕草をした。
壇上の横に控えていた司祭様が進み出て、大司教様に羊皮紙の巻物を差し出す。
それを持って大司教様は祭壇の奥にある火の前に立った。
祈りの言葉を唱えながら、大司教様はその羊皮紙を火の上に掲げる。
ああすることで、聖女になる人の名前が浮かび上がるのかな。
ステンドグラスから注ぐ綺麗な光に照らされながら、選定の儀は続く。
火の上から羊皮紙を下ろし、聖水に浸した指先で紙面上をなぞった。
「創世神様のご加護を」
最後の言葉が呟かれた。
そして、大司教様が振り返る。
ああ、選定が終わった。選ばれる人が決まったんだ。
「――では、名前を読み上げる。呼ばれた者は進み出るように」
そっと隣のシアの手を握る。
ぎゅっと強く握り返された。
「イニヤ・オンフィード」
「っ、はい!」
まず呼ばれたのは、一つ上の学年のイニヤだった。お下げにまとめた茶髪を跳ねさせて彼女は嬉しそうに進み出た。
「ロクサーヌ・フォートハウト」
「はい!」
やっぱり。蜂蜜色の髪を華やかに揺らし、彼女は堂々と進み出る。帽子から垂れた金のリボンをひらめかせて、空色の目を輝かせたロクサーヌは祭壇の前に立った。
「セシリィ・ホロン」
「は、はい!」
同じクラスのセシリィ。彼女は真ん丸な榛色の瞳を輝かせて、誇らしげな顔でゆっくりと進んだ。
「システィア・コール」
「はい」
これで四人。二つ上の学年のシスティアは、純白の制服の裾と艶やかな灰色の髪を上品にひらめかせて進む。
五人目、最後は誰。
あたしの手を握るシアの手が痛いほどに強くなった。あたしも、彼女を勇気づけるように強く握り返す。
大丈夫、大丈夫だよ、シア。
大司教様の口が開くまでが本当にゆっくりに見えた。心臓が耳の奥にあるみたいにうるさく鳴っている。口の中がカラカラになった。
そして、最後の名前を大司教様の目がなぞり、その口がゆっくりと開いた。
「――ララ・シズベット」
「――――え?」
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